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シネマ365日

2016年8月9日

特集「気になる女1」⑨ アヌーク・エーメ 
ローラ(1960年 恋愛映画)

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監督 ジャック・ドウミ

出演 アヌーク・エーメ/マルク・ミシェル/ジャック・アルダン

 

シネマ365日 No.1838

ローラ、あんたはいい女 

特集「気になる女1」

スクリーンにこんな女優が現れたら一瞬で目を奪われる。それくらいアヌーク・エーメの登場は衝撃的だった。初めて見た彼女の映画は「モンパルナスの灯」だった。貧乏画家のモジリアニに、愛と人生を捧げ、彼の死後ためらいもなく後を追う妻ジャンヌだ。生来の美貌と気品がモジリアニのジェラール・フィリップを圧していた。「ローラ」は幻の映画だった。オリジナル・ネガは火災で焼失し、2000年BFI(英国映画協会)のポジからインターネガが作られた。アニエス・ヴァルダと本作の撮影監督、ラウル・クタールが監修にあたり2012年、デジタル修復により蘇った。「ヌーヴェルバーグの真珠」と例えられる映画だけど、この映画のどこが「ヌーヴェルバーグ」なのか、他の作家たちとガラッと違う古典的なドウミの映画作りに妙に安心してしまう。それというのも本作はドウミの長編処女作で、以後「シェルブールの雨傘」にせよ「ロシュフォールの恋人」にせよ、「ロバと王女」にせよ、人が人生に描く夢と幸福と、その後に、もしくは同時にやってくる夢と幸福の終焉と移ろいとはかなさを、叙情的な旋律で歌い上げていく出発点がこの映画だった▼アヌーク・エーメとは可愛くない顔だ。彼女がどんなにニッコリしても、その笑顔は辛口だし、硬質な美しさは彫刻的なまでに整った容貌による。一言でいえばキャピキャピして、やれ「可愛い」とか「キュート」だとか「セクシーだ」とかいう、そのテの顔や姿とかけ離れているのだ。「甘い生活」で、トレビの泉に入るのがアヌーク・エーメだから絵にも写真にもなったが、彼女が出演したがために、おバカ映画にしかならなかった女優は案外いるにちがいない。この映画のヒロインは子供一人抱えて、町から町へ流れていくダンサーだ。苦にしているふうもなく、幼馴染の男に出会って「いつまでここにいるのだい」と訊かれたら「契約でいろんな町に行くわ。ここには3日よ。今から子供を学校に預けに行くの」▼この町とはナントである。ロワール川河口にある港町。そう、ジャック・ドウミの故郷だ。知り尽くした故郷の風や光や、海などの感覚がしっくり馴染む、そんな港町から本作も「シェルブール」も「ロシュフォール」も作られた。ローラは子連れの踊り子で、7年前に別れた恋人を待っている。その場かぎりの情事はあるが、一日として子供の父親ミシェルを忘れた日はなく、必ず帰ると信じている。7年である、7年。男はローラが妊娠したとわかったら去った。ローラは「耐えられなかったのよ。きちんと子供を育てられない自分に」そういうだけで恨みツラミを口にせず、キャバレーを回って子供を育てているのだ。思えばこの監督のヒロインたちはみな純情で一途で明るく、くよくよしなかった。そんなヒロインと、厭世観の塊みたいな幼馴染の男ローランが出会う。ローランは戦争から帰りすっかり虚無的になり、就職すれば遅刻ばかりですぐクビになり、対人関係はうまくいかず、周囲に八つ当たりするしか捌け口がない。行きつけのカフェーに入り、片隅で絵を描く常連の女性画家に「人も町も人間もうんざりだ、退屈だ」と陰気に毒を吐きちらす。カフェーの女主人は「あんたは怠け者さ。怠け者は嫌いだよ」。画家は「結婚して子供を作りな。6人もいれば退屈している暇なんて、ないよ」アタリだわ(笑)▼例によってドウミ監督の映画に大事件もサスペンスもない。昨日と変わらぬ今日がある、変哲も刺激も変化もない日常の中で、でも人生は変わっていく。だれにもわからない、目に見えない箇所でギアが入れ替わった、かすかな音を監督は拾い出す。ローランはローラが好きになった、本屋で出会った母娘連れに仏英辞書をあげたのが縁で少女と知り合った、彼女は昔のローラに似ていた。ローラはアメリカ人の水兵と一夜を共にし、水兵はローラの息子を可愛がってくれる。アメリカに婚約者がいて、休暇が終わり次第帰国する、そんな話をローラと交わす。ローラは水兵と出会ったりローランと友情を取り戻したりするが、それ以上のことはない。ミシェルを待ち続けることが、ただ一つのローラの現実なのだ▼ある日ミシェルが帰ってくる。ミシェルとローラが車に乗って町を出る、ローランも新しい人生を求めてシェルブールに行く。交錯した道がまた離れていく。出会いと別れを繰り返す、ドウミ独特のロマンティシズムが、ことほどかように、早くも処女作に出揃っている。ローラが舞台衣装のままリハーサルに現れる、長いキセルとタバコがばかに似合い、サウンド・トラックに使われるのがベートーベンの交響曲「第七番・第2楽章」であっても、ひとつも引けを取らない大人の女とは、こういう美しさを言うのだろう。ローラ、あんたはいい女。

 

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