女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss
  • ブックマーク

シネマ365日

2016年8月10日

特集「懐かしい、あいつら1」①  
ボルサリーノ(1970年 アクション映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ジャック・ドレー

出演 ジャン・ポール・ベルモンド/アラン・ドロン

 

シネマ365日 No.1839

「ご一緒に、ムッシュ」 

特集「懐かしい、あいつら1」

製作がアラン・ドロンです。それじゃやりたいだけいいカッコするわね。彼がどれだけこの映画に力コブを入れたか、ジャック・ドレー監督もさることながら、脚本に連なった名前を見たらゾッとする(笑)。だれがソロやってもおかしくない錚々たる一流陣。今さら当時フランス映画界の二大スター云々なんて書いたって、それだれ? と言われるのが関の山でしょうが、いい映画はいい、作り込みのいい映画は色褪せない、もっとキザに言えば時代にも流されない、なぜか。古代建築みたいに基礎と工法がしっかりしているからよ。映画の工法に当たる部分を受け持ったのがこの人たちです。ジャン=クロード・カリエール。脚本というジャンルに止まらぬ広範な領域で執筆提言するジェネラリスト。彼がウンベルト・エーコと対談した「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」など、読書の導きなどというセコイ範囲でなく、宇宙観とか世界観とかいうスケールがぴったりくる▼工藤妙子氏の名訳があるから「紙」メディアに携わる人は一度読まれでも損はありません。氏は後書きで書いておられる「世にあるすべての書物一冊一冊が旅路のようなもので、書物というものを過大評価も過小評価もせず、ただ素直にいとおしみ、気負わず気楽に人生に取り入れる方法と、それによってもたらされる豊かさを、本書は手加減なしに教えてくれる」。これを読んだ時、書物を映画と置き換えても同じことがいえるのではないかと思いました。脚本執筆陣にはカリエールと、もう一人あげればクロード・ソーテがいます。フランス恋愛映画の名手。アラン・ドロンと映画作りを組むことは、想像を絶する忍耐を予想しなければと、再々言われてきたことです。トップクレジットを、ドロンかベルモンドか、どっちを先にするかに始まり、エピソードに不足はなかったでしょうが、アラン・ドロンという人、基本的に頭がよくて働き者です。プロモートに来日したとき、やり手の彼の手中にはまり、とんでもない配給を飲んだとか、口車に乗せられたとか、いろんな話題がありましたが、カリエール相手にしても、ソーテにしても、仕事上の相互理解に怠りはなかったでしょう。彼が演じた主人公はみな、おしなべて仕事熱心です。金こそすべて、というのは行き過ぎですが、利益追求に全知全能を絞る映画人の肖像として、彼の分身となった、殺し屋だろうと、チンピラだろうと、暗殺者だろうと、怠惰でトロイ男は一人もいなかったのは確かです▼そこに一枚噛んだのがこの映画のベルモンドです。持ち味とは恐ろしい。アラン・ドロンがねじり鉢巻き、頭から湯気を出して「男の美学」(自分の美学ですが)を演じている傍らで、真逆に近いフランソワのキャラを、飄々と体現しています。金も女も大好き、でもロッコ(アラン・ドロン)みたいに目を釣り上げて業界のトップになる欲はない。そんなしんどいことするより、好きな女と彼女が作ってくれる美味しい料理を食べて、楽しく暮らしたい、そりゃ金儲けはするけどさ、という感じ。ロッコは…本作では珍しくアラン・ドロンは女っ気なし。年老いた母親を大事にする孝行息子で、敵方ギャングの襲来のときはいちばんに母親を迎えに行き、フランソワがおぶって母親を家から運び出す。本作はロッコとフランソワの友情物語でもあります。撮影中確執はあったでしょうが、そんなことに足をすくわれる男たちではない。いちばんぐっとくるシーンはどこかと聞かれたら、ラストもよかったけど、二人の男が、憎らしいほど絵になったここをあげます▼ロッコがカジノにいる。フランソワとは不信が生じている。なんのわだかまりもなかった二人の間に反目が生じた。ロッコはマルセイユのギャングの頂点といってもいい、でも鬱々として気が晴れない。フランソワが離れていったからだ。勝負にもどこかノリが悪い。そこに背後から声が。「ご一緒に。ムッシュ」。アラン・ドロンの薄い唇の端がかすかに上がり、微笑が浮かぶ。聞きたかったのはこの声だ。振り向いたロッコを、フランソワがニコッと、あらん限りの愛に溢れる、無邪気な笑顔で相棒を見る。こんな離れ業を放つベルモンドには、つくづく参ってしまうのだ。ラストシーンは有名になりすぎて書く気もしない。考えてみれば、今さら書く気にもなれない、そんな映画こそ「素直に、気負わず、気楽に人生に取り入れる」ことのできる映画に違いない。

 

Pocket
LINEで送る