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シネマ365日

2016年8月15日

特集「懐かしい、あいつら1」⑥ 
回転(2009年 文芸映画)

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監督 ティム・ファイエル

出演 ミシェル・ドックリー

 

シネマ365日 No.1844

屋敷ホラーの傑作

特集「懐かしい、あいつら1」

本作はBBCの2009年の製作。原作はヘンリー・ジェームズの「ねじの回転」です。すでに1961年、デボラ・カー主演で映画化された、屋敷ホラーの元祖ともいえる傑作です。以来「妖精たちの森」「ザ・ダークプレイス覗かれる女」と何度か形を変え、映画化されています。ヘンリー・ジェームズはアメリカ生まれですが、イギリスで活躍した作家であり、心理主義小説の先駆者でもあります。BBCは原作に忠実ながらも、ヒロインの家庭教師アン(ミシェル・ドックリー)に、「科学者は悪魔が昔から存在することを信じていないが、存在を疑う限り悪魔は繰り返し人間にとりつきにくる」と主張させます。悪霊を払うため彼女は屋敷に残り、悪が憑依した男と対決します。アンの善戦に悪霊は少年の肉体をのっとりそこねますが、少年も息を引き取る。アンが語る屋敷でのできごとは、精神科医らは妄想と、精神病院に収容します▼アンが若くて独身の女性であることから、雇い主に恋するが報われず、性的欲求不満が高じて一連の架空の筋書きをこしらえた、そんな解釈もなりたつ、という要素も本作は含んでいます。屋敷で生じた過去の事実を教えるメイドは、ある日不審な死をとげますが、彼女はもともと神経を病んでいたとまことしやかに説明される。アンが教えることになるふたりの子供たちは天使のように愛らしいのに、どこかとりつく島もない隔絶感を漂わせている。ロンドンの雇い主は子供たちの叔父で、屋敷の出来事と子供たちには一切関知しなかった。使用人たちは、アンが保つのは2週間が関の山だろうと噂する。広大な屋敷のいくつもある部屋に、すぐ「かくれんぼ」する子供たち。男の子のマイルズは学校を退学になってもどってきた。理由は説明されない。女の子のフローラは美少女である。アンになつくが、あるとき人形に向かって「ジェスル」と呼んでいた。エミリ・ジェスルとはアンの前任の家庭教師で、屋敷の裏地の墓地に墓があった。家政婦の話では男に棄てられ自殺した、身寄りがないので遺体を引き取り埋葬したという。物語は第一次世界大戦で男たちが戦争に出払っていたときだ。屋敷にいるのは女ばかりと聞いていたが、塔の上に男がいるのをアンは見た▼90分足らずですが、緊密な構成でぐいぐいひっぱる、第一級のサスペンスです。アンは子供たちから愛され、幸福だった。家政婦は「エミリもあの子たちから好かれていました。男が来るまでは幸せだったの」。いったいその男とは何者なのか。メイドのひとりカーラは「見たのね。あの男を。戻ってきたのね。クイントよ」と初めて男の名を教えた。彼女が言うにはこの屋敷の主人も庭番のクイントも淫らで卑劣で、最低の男たちだった。主人が死んだあとクイントの天下となり、凶暴化し、メイドたちに暴力をふるいレイプは日常化した。だれも抵抗できず、喜ぶ女さえいて、なかでも家庭教師のエミリはお気に入りだった。夜はマイルズと狩りにでかけた。カーラは「彼の目的はマイルズさまよ」と叫んだが、まだそのときは、アンには意味がわからなかった。その翌日カーラは塔から落ちて死んだ。マイルズは冷たく言う。「ばかな女だ。塔は立ち入り禁止なのに」その声の、不自然なまでの大人びた調子に、アンははじめて気づく▼入水したエミリの幽霊や、淫らに笑うクイントの幽霊がアンには見えるようになる。幽霊には目的があり、だからカーラは殺されたとアンは思う。クイントはマイルズに、ジェスルはフローラに乗り移り、子供たちを通してこの世に生まれ変わるのが目的だと。ふたりは生前子供たちを汚していた。「わたしが常識や正しいことを教えると彼らに邪魔された。子供たちは彼らの淫らな行為を見たはず。愛情を受けずに育った子供たちはあのふたりに悪の道を教えられたのよ」。家政婦やメイドたちは半信半疑だったが、ある日凶暴になり暴力をふるうマイルズが発した、完全に大人の男の、いやらしい声としゃべり方を聞いて、アンの言うことを信じる。アンはフローラをロンドンの叔父の家に家政婦と避難させ、メイドたちも屋敷を去る。マイルズとふたりきりになったアンは、彼に取り憑きにくる悪霊と対決し、退けると決意したのだ▼物語の骨子は、エクソシストでもあり、怪奇幽霊物でもあり、屋敷に居座るポルターガイストともいえます。しかしなんであれ、映画の、そして原作者の狙いは結果がでるまでにたどるプロセスのハラハラドキドキ、謎が謎を呼んで渦巻く怪奇ミステリーにあります。もともとヘンリー・ジェームズは「緑色の部屋」のように、死者に対する独自の愛情と思い入れがありました。本作は、生と死がこよなき隣人同士であるという、ジェイムズの冥界へのアプローチが、もっとも顕著に現れた初期の傑作かと思います。

 

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