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シネマ365日

2016年8月20日

特集「懐かしい、あいつら1」⑪ 
ローマ帝国の滅亡(1964年 事実に基づく映画)

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監督 アンソニー・マン

出演 ソフィア・ローレン/スティーヴン・ボイド/クリストファー・プラマー

 

シネマ365日 No.1849

帝国滅亡の理由 

特集「懐かしい、あいつら1」

ギボンの「ローマ帝国衰亡史」の本文はコモドウスから始まっている。ということはつまり、衰亡はコモドウスから始まったと、ギボンは言っているのと同じだ。コモドウスの治世を「帝国における災難」だったと断じた歴史家もいる。本作のヒロインのルシラ(ソフィア・ローレン)は、劇中きっぱり「ローマは滅びます」と断言するが、理由は彼女の兄コモドウスが皇帝をしているからにほかならない。彼女は兄を殺して名君のほまれ高かった父帝アウレリアスのあとを、軍人ガイウス(スティーヴン・ボイド)に継いでほしいのである。ルシラとガイウスは相思相愛だが、父はペルシャ制圧の政略結婚として娘を東方に嫁がす。父帝が逝ったあと、息子コモドウスが皇帝となるが、じつはアウレリアスの子供ではないとわかる。賢帝に似ても似つかぬ暗愚な器であったことはだから説明がつく、というわけだが、コモドウスを演じるのがクリストファー・プラマーだ。もっさりしたスティーヴン・ボイドより、だれがみても切れ者なのである▼ローマ帝国の興亡は世界史最大のテーマのひとつだし、映画化となると当然スペクタクル大作だ。本作は長尺180分。総勢130人の大オーケストラの演奏でゴールデン・グローブ音楽賞となったが、このスケールを担える主演女優の選択も難しかったと思える。CGもない、特撮も今の技術と比べ物にならなかったから、エキストラを動員し帝国の首都をセットで再現し、軍馬・軍人が入り乱れる戦闘シーンにもむせかえりそうだ。ソフィア・ローレンは「クオ・ヴァデス」のちょい役で史劇を経験し、1957年プロデューサー、カルロ・ポンティと結婚、1960年「ふたりの女」でアカデミー主演女優賞受賞、1961年「エル・シド」で再び史劇、かつチャールトン・ヘストンという大型俳優に貫禄負けすることなく、重厚な役作りに応えた。本来史料に乏しい、皇帝の娘にして皇帝の妹という存在に、ソフィア・ローレンが具体像を与えている▼ルシラはコモドウスの姉という説もある(「グラディエーター」は姉説)。ほじくり返しても仕方ないとは思うが、史実では父帝の死から2年後にルシラは死んでいるから、コモドウスの死と暗殺には関係ない。ないけどあくまでこの話は劇中のルシラのことだ。ルシラの恋人ガイウスは先帝の信頼厚かった軍人、それも北方の蛮族から国の防衛にあたる、最強ローマ軍団の隊長である。法と軍律を守ること鉄のごとし、いくら恋人が「兄は愚帝です、わたしたちと手を組んで排除しましょう」といっても「ハイ」というはずがない。「なぜローマに逆らう。たとえコモドウスの所業に過ちがあったとしてもローマを滅ぼすことは許さん」「許さなくてもローマは滅びます」「あなたの愛がわからなくなった」「愛とこれは別です」ガイウスにしたら、これがついこの前まで「あなたなしでは生きられない」と言っていた女の言葉か、と思うでしょうね。しかもルシアは皇帝暗殺を試みて失敗する▼映画はサラッと流しているが、皇帝を暗殺しようとして無事でいられるはずはない。史実ではルシラは島流しになりまもなく死亡する。謀殺だろう。コモドウスが暗愚といわれる理由はスポーツと剣闘士の競技に熱中して、ひとつも帝王学を学ばなかったからといわれるが、スポーツに励み体を鍛え、健康を保持することはローマのエリートの子弟にとって義務だった。だからそれだけなら愚帝とまでは言われなかったろう。しかし母親と縁の薄かった彼が頼りにし、慕っていたルシラに裏切られた喪失感と猜疑心が、彼を暴君に変えたという説がある。若きクリストファー・プラマーの青年皇帝が、酷薄で傲慢で狡猾な、安心できる相手がだれもいないトップの不安定さをよく表していて、コモドウスの暴君由来説を、なるほどと思った▼皇帝暗殺に失敗したルシアは火あぶりの刑に処せられる。ガイウスは剣闘技で皇帝を負かしルシアを救出する。元老院は次期皇帝にガイウスを選ぶが彼は任ではないと辞退する。空席となった帝位を金で買おうとする元老院の有力者たちの、いかにも現金というか、あさはかというか、軽薄というか、無節操というか、それを映して映画はエンド。この体たらくが帝国衰亡の始まりだったと位置づけているようです。一言でいうと「帝国の滅亡は内部崩壊だった」という結論。ローマに限らないけどね。

 

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