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シネマ365日

2016年8月30日

特集「B級クィーン1」⑧ 
シャンヌのパリ、そしてアメリカ(2000年 家族映画)

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監督 ジェームズ・アイボリー

出演 リーリー・ソビエスキー/クリス・クリストファーソン/バーバラ・ハーシー/ジェーン・バーキン/ドミニク・ブラン

 

シネマ365日 No.1859

無敵の天然リーリー

B級クイーン27-31

ゆるいこと、たるいこと。「ボストニアン」「眺めのいい部屋」「モーリス」「金色の嘘」のジェームズ・アイボリーの監督とは思えないわ。パリにいるアメリカ人一家がアメリカに帰国する、帰国子女になった高校生の長女シャンヌ(リーリー・ソビエスキー)は情緒不安定でつぎつぎ男の生徒と寝る。父親ビル(クリス・クリストファーソン)は高名な作家だ。彼は作品を仕上げるために帰国したが、仕上げられないまま他界した。弟はパリ時代に養子縁組したビル(父と同名)だ。孤児院から養子になって、のち生みの母がわかるが、ぼくの母はひとりだけだ、と育ての親マルチュラ(バーバラ・ハーシー)を泣かせる。パリの家にはシャンヌを産まれたときから、わが子同然可愛がってきた家政婦のカンディダ(ドミニク・ブラン)がいる。「太陽と月に背いて」のイザベル・ランボー、「愛する者よ、列車に乗れ」のカトリーヌ、脇に回れば最強の主役食いだ。ところが彼女は途中からばっさり、消息不明の存在になるのである▼スターの扱いがまたひどい。クリス・クリストファーソンはいつからこんな、つぶれた豆腐みたいな顔に映るようになったのだろう。ジェーン・バーキンは授業料を払えない高校生のママだ。息子に声楽の才能があると信じ、教室で歌わせる。バーキンは、だれもたのんでいなかったと思うがピアノを弾く。とてつもなく下手で調子が外れている。たぶん自分で弾いたのだろう。ニッと笑うと、ひき逃げされたアンパンみたいになる。撮影監督は告訴されずによくすんだものだ。リーリーはすくすくと大きくなった良家の子女を地でいった。下膨れの罪のない顔は無敵の天然だ。はばかるものなく背が伸びて、共演の男たちのだれよりも高くなっている。まだ15歳のときだ。「ボンテージポイント」とか「アイドル 欲望の饗宴」とか、タイトルはおどろおどろしいが、ガールズものといっていい映画によく出る。内容はハッタリ同然なのに、リーリーだからまあいいか、と思ってしまうトクなキャラだ▼ストーリーは一言でいえば家族の成長物語だと思うが、彼らを阻害するトラブルらしいトラブルはない、と言っていいのだ。金持ちだし、最初はなつかない養子を我慢強く受け入れ、立派に育てる。長女は成績優秀、容姿端麗、家政婦はこの子のそばにいたいがために自分の結婚をあきらめるのだ。15歳で妊娠・出産し、息子を里子にだした娘にヴィルジニー・ルドワイヤンだ。15歳といえば、世間の右も左もわかるまい。でも彼女は生き別れになる息子にせつせつと日記を残す。「生まれてくるあなたが愛されますように」。であるのに息子は日記を読みもしない。それぞれのエピソードに、ひとつもヘソがないのだ。自分をチヤホヤした男子生徒が、結局はフランスからの帰国子女という珍しさだけで近づいてきたとわかり、シャンヌは傷つくが、パパに「男ってそんなやつばかりさ。君は注目の的だ。近寄ってくるのはやりたいやつばかりさ」「パパもそうだった?」「そうだ。女性が大事なものを自分に与えてくれたと気がつくのはもっとあとになってからだ」シャンヌは健気に立ち直る。よかったわね。そうなのだ。この映画は「よかったわね」というしかないのだ。父親が死んでうつ状態になっていた家族が「男に棄てられたくらい、ふん、あんなバカ連中がなによ」「学校がおもしろくないくらいでヘタっていてどうする、それでも男か」そうだ、しっかりしなきゃ、と自分に喝を入れて立ち直る。母親は明るく一家の芯となってこどもたちを翼のなかに抱く。よかったわねという以外になにがある▼異彩を放つのはやっぱりジェーン・バーキンだろう。52歳だった。彼女は本作ののち、あんまりパッとしなかった「サーカス・ストーリー」とか「これがわたしの肉体」とか、出演作は何本かあるが、登場したとたん、思わず後さがりしたのは本作の風変わりな母親である。母親の血を受けた息子フランシスはシャンヌに恋心をだくが、リセに進学するから新学期は来ない、といって不意に学校を去る。本当は授業料が払えなかったのではないかと思うが、家政婦のカンディダといい、思春期のフランシスといい、人生の挫折すれすれの場所にいる彼らの大事な影の部分が、一刀のもとに切り落とされているのが、たぶんこの映画の物足りなさの原因だろう。

 

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