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特集「ベストコレクション」

2016年9月3日

特集「天高く初秋のベストコレクション」③ 
マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章(2016年 社会派映画)

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監督 ジョン・マッデン

出演 ジュディ・デンチ/マギー・スミス/リチャード・ギア

 

シネマ365日 No.1863

今こそが最高のとき 

特集「天高く初秋のベストコレクション」

そうそうたる出演陣の名前を書ききれず、トップ・クレジットの女優二人と、ゲストのリチャード・ギアに限りました。失意のどん底からイギリスを脱出、終の住処を見出したマリーゴールド・ホテルの住人たち。マッデン監督はでも、やる気があれば夢は叶うさ、と高齢社会応援歌みたいなゆるい映画にはしません。人生最終章の喪失感、諦め、後悔、哀しみ、過ぎ去ってついえた越し方の夢、体は弱る一方、体力は衰える、身内や友人は死んでいく、残された者の不安、少なくなる一方の持ち時間とお金、迫り来る衰弱と死。シビアといえばこんなシビアな立場はない。年を取っていいことなんか何もない。監督の軽妙な語り口の裏に滲む、やるせなさに気づく人は、おそらく数少ないと思えます。その年になってみないとわからないものが人にはあるからです。そういう状況でなお、監督は生きる主張を語らせます。この難しい役を託されたのがマギー・スミス。とてもいいラストでした。二度、三度見ても、同じシーンで同じ感動を与えられるにちがいない▼マリーゴールド・ホテルの支配人と副支配人、ソニーとミュリエル(マギー・スミス)は一路カリフォルニアに。ホテル界の大物、タイ・バーレイに事業提携を持ちかける商談に行く。バーレイは二人の提案を受け入れるべきかどうか、判断するため査察官をインドへ送り込むといった。ホテルではイヴリン(ジュディ・デンチ)が、織物販売の買付責任者を任せたいと、女性オーナーからオファーされる。イヴリンは「わたしは79歳ですが」と答えるが、オーナーは「それがどうかした?」と一蹴。数人の部下を与えチームを組ませた。ミュリエルが帰印した。「どうだった、アメリカは」訊ねたイヴリンに「死んだ方がマシよ。ビスケットをクッキーと呼び、ぬるいお湯でパックの紅茶を入れるの」イヴリンはジロッと視線を投げ、「帰れたのが奇跡ね」「あなた、膝が悪いのにまだ立てるのね」この二人は顔を合わせると毒舌を浴びせかけ合うのである。「健診は?」「異常なしよ」そもそもミュリエルがインドに来たのは腎臓の手術のためだ。そしてどんな異常があっても「ない」というのがミュリエルなのだ▼宿泊客が訪ねてきた。ガイ・チャンバース(リチャード・ギア)と名乗った男を、一目見た女性たちは「まあ、卵巣が疼くわ」。ソニーは彼こそが身分を隠した査察官だと思い込み、下にも置かぬもてなしをする。ソニーは結婚式を控えながら業務多忙で婚約者と口をきく暇もない。チャンバースはソニーの母親カプール夫人と懇意になり、自分は小説を書くために来た、老いるとはどういうことか、心の虚しさ、喪失感、日々世界が狭くなることを、と話す。イギリスから来た五人組はイヴリンとミュリエルのほか、次のメンバーだ。ダグラスはイヴリンに恋しているが言い出せない。イヴリンもダグラスに好意以上のものを感じているが踏み出せない。マッジはインド人ふたりから求婚され、どっちにするか迷っていた。ノーマン・カズンズは恋人の浮気の現場を目撃してしまった。高齢社会も順風満帆とはいかない。ソニーの婚約者スナイナも、自分たちがうまくいくかどうか自信をなくしていた▼あっちに揺れ、こっちに揺れながら、ギアの正体が査察官であるとか、ないとか、ホテルの買収にライバルが出現するとか、ゆさぶられながらストーリーは進展します。買付に行ったイヴリンが年寄りで、ヒンズー語がわからないと、相手が馬鹿にすることを部下の一人は想定して「僕が指で髪を梳いたら、このセリフを言ってください」とメモを渡しておきます。彼のゼスチャーでメモを読み上げたイヴリンに相手側は譲歩する。「なんて書いてあったの」と聞くイヴリンに「お前のいうことは全部わかっているのだと」。査察人は誰か、すったもんだの憶測の挙句、やはりリチャード・ギアだとわかる。彼は報告書にこう書く。「あまりにも計画性のない、このホテルの運営はちょっとやそっとでは改善できるものではない。でも成り立っている。ゲストたちがこのホテルを愛しているからだ、金では買えないものだ。新しいホテルは設備の点では充分勝るのだから、事業提携は合格点を与えられる」▼ソニーとスナイナもトラブルを乗り越え結婚式にこぎつけた。祝宴の群舞の迫力は本作の見どころの一つ、特にソニーの、デーヴ・パテールのダンスは超絶だ。ダグラスとイヴリンもめでたく相思相愛を打ち明けた。ミュリエルは結婚式のパーティを欠席した。その代り新郎新婦に手紙を書いた。投函しようとしていたとき、祝宴でみな出払った、誰もいないロビーに訪れた客がいる。タイ・バーレイだった。訝るミュリエルに「あなたをパーティで探したのですよ」「なぜここに?」「あなたへのリスペクトを表しに。あなたは木を植える人だからです。その木陰で自分が憩うことがないと知りつつ」余命のないミュリエルのために、彼はそれをいうためにだけ来たのだ。ミュリエルの手紙はこうある。「パーティに欠席したことをお詫びします。そしてお別れを言わないことに。ハネムーンを楽しんできてください。物語に終わりはない、段落があるだけ。次はあなたたちが語る番です。わたしは人生の40年を床磨きで過ごしました。最後の歳月はホテルの共同経営者でした。それも地球の裏側で。あなたがたに将来はまだ見えないはず。運命を支配しようとせず、身を委ねるのよ。そうしたら人生を楽しめます。こう言った人がいました。今こそが人生最高のとき、と」

 

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