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特集「ベストコレクション」

2016年9月12日

特集「天高く初秋のベストコレクション」⑫ 
虹蛇と眠る女(2016年 サスペンス映画)

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監督 キム・ファラント

出演 ニコール・キッドマン/ジョセフ・ファインズ/ヒューゴ・ウィービング

 

シネマ365日 No.1872

どんな蛇やの? 

特集「天高く初秋のベストコレクション」

「虹蛇」ってとても綺麗な響きですね。虹がなぜ虫偏かというと、虹は竜が天に昇っている状態だと、中国では捉えたのね。虹蛇の神話は各国にあり、オーストラリアでは先住民アポリジニの伝説がこの映画のベースにあります。大昔の精霊たちが今も生きている夢の世界で、いちばん偉大な精霊が虹蛇であり、虹蛇は命の源である水や雨を司る精霊とされます。エンディングが物足りない不満はあるのですが、作品全体に滲む自然への畏敬、砂漠にへばりついた大陸の田舎町、荒々しい砂嵐の到来などオーストラリアでなければ撮れなかった美しさがあります。出演者はニコール・キッドマン始め、虹蛇というスピリチュアルな存在に影響を受け、狂気とも、正気とも、判別しにくくなっていく劇中人物に全力投球。キッドマンは真昼の町なかを全裸でさまよう壊れた母親を、ノーブラで娘の彼を誘惑するかと思えば、狂ったように夫を求める寂しい妻を好演しています。こけ脅しのハリウッドの大作や、整形の失敗がどうこうしたという、くだらない話題提供だけでない、キッドマンらしさを出した映画だと思います▼不満も大いにありました。キャサリン(ニコール・キッドマン)と夫マシュー(ジョセフ・ファインズ)の長女、リリー(高校生)とトム(小学生)が行方不明になった、炎天の砂漠では水もなく二、三日も持たない。キャサリンは狂ったように子供を探し、未踏の荒れ地をさまよい、帰ってきたら全裸で町に現れる。神経がすっかり参っていたのはわかりますが、これ虹蛇となにか関係あるンですかね…ないですね。マシューがイマイチ妻に非協力的である。彼らはこの町ナスガリに引っ越してきて日が浅い。以前いたクーナバラで、リリーは教師と関係し、一家は居づらくなって去ったという経緯を、マシューはおおっぴらにしたくない。夫婦は倦怠期だ。マシューは「娘は俺と一つも似ていない」と暗に妻の不倫をほのめかし、ひっぱたかれる▼保安官のレイ(ヒューゴ・ウィービング)は、妻と別れて一人暮らし。キャサリンに好意的だ。娘が性的に奔放だという前提だが、端から見ていればキャサリンの方がよほど危うい。それにキャサリン一家が町で孤立しているわけではない。町中あげた大捜索隊が連日山や谷を探し回っている。ご近所のアポリジニの主婦は、気力を失ったキャサリンのために、サンドイッチを差し入れに来る。マシューは薬局の店主だ。キャサリンが一人では心細いから家にいてくれと頼んでも、「喘息の患者がいるから店を開けなくちゃ」と出て行くのは、よほど妻の顔を見ていたくないからでしょう。彼が閃きに打たれたように車を出し、息子を発見したのには驚きました。これ「虹蛇」の霊感なの? でもなさそうだけど。不満の最大の原因は「虹蛇」のイメージが一つも具体的でないこと。アポリジニの古老と孫が「虹の蛇が子供たちを飲み込んだ。歌を歌うと帰ってくる」とか「最初は白い者、次は黒い者、子供が消える、ここはそういう土地」とかブツブツ言うのだけど、要は娘の家出だわよ。リリーもトムも田舎に引っ越してきて不満でした。この町がいやだと、ことあるごとに文句タラタラ。発見された息子は「姉ちゃんが車に乗るのを見た」といっているから、姉は誰かの車で町を出たのよ。誘拐ならもっと金持ちの子を狙うわよ▼キャサリンが夫に「私たち悪い親だった? わたし、まちがっていた?」と思いつめて訊くのは、子供に何かあると、みな自分が悪いように思う母親の切ない自責だと胸が痛むが、それにしても少し落ち着いて考えれば、娘は男と出奔したのだと察しがつく。行き倒れの死体なんかどこからも発見されないし、弟の目撃証言もある。このへんが虹蛇伝説をいじりまわした脚本の弱さよね。白状するけどわたし、まちがって「虹蛇と踊る女」と読んでいたのよ。だから虹蛇がなんらかのヒントになって子供たちが戻り、つまり「虹蛇」で「踊る」明るい結末になるのだろうと思っていたら、なんだ、「虹蛇と眠る女」だったのね。どうりでラストがぼんやりしているはずだわ。ともあれキッドマンは寄りかかるもののない疲れた母親を、ジョセフ・ファインズは笑ったことのない不安な細長い顔を、ヒューゴ・ウィービングはキッドマンに手を出さない珍しい堅物を、それぞれ好演でした。

 

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