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シネマ365日

2016年9月25日

特集「橋をめぐる映画」②
ブリッジ・オブ・スパイ(2016年 事実に基づく映画)

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監督 スティーヴン・スピルバーグ

出演 トム・ハンクス/マーク・ライランス

 

シネマ365日 No.1885

グリーニッケ橋 

特集「橋をめぐる映画」

ヒーローでないヒーローって、トム・ハンクスにしっくりくるのね。スティーヴン・スピルバーグと組んだ「プライベート・ライアン」でも、大尉が一兵士を連れて生還させる任務を負う。自分も共倒れになるかもしれない危険に黙々と身をさらし、ミッションと全うし、自らは命を落とす。本作の主人公は弁護士のジム(トム・ハンクス)。冷戦下の1957年に、敵側のスパイを弁護するという、誰もやりたがらない仕事を押し付けられる。ブルックリンで画家を装って諜報活動に従事していたソ連のスパイ、アベル(マーク・ライランス)が逮捕され、ジムが弁護士として弁護士会から推薦されたというのだ。ジムは旧知の判事に日程延期を申し入れるが、判事は「形だけの裁判だからどうせ有罪になる」と却下。乗り気のしなかったジムだが、アベルの質実、誠実な人柄と、最初から「有罪ありき」の裁判の不公平さに釈然とせず、本気で取り組むようになる▼一方では、とあるモーテルに軍人が集められ、ソ連上空を偵察機で撮影する、秘密任務が与えられていた。うち一人がパワーズ中尉だった。手短にいうと、パワーズ中尉がソ連の捕虜となり、東ドイツを経てソ連まで入国したジムは、ガードの固い交渉をクリアして、双方のスパイの交換にこぎつける。アベルとパワーズの一対一でなく、イェールの大学院生、プライヤーという学生も一緒に返してもらうとジムは主張する。彼はベルリンの壁が建設作業のさなか、恋人を救出しようとして脱出が遅れ、逮捕されたのだ。ソ連側は返すのはパワーズ一人だけだと譲らない。紆余曲折の交渉の結果、相手は自分の出方を探っていると読んだジムは「プライヤーを返さないなら、アベルは一生アメリカの刑務所で過ごすことになる。彼は任務に忠実で一言も秘密を喋らない大した人物だ。しかしもし国が自分を見放したとなればどうするかわからない。彼が知っていることを全部話す気になるかもしれない。そのとき責任を取るのはだれだ、あなたなのか」と詰める▼東ドイツもベルリンもソ連も寒い土地だ。雪の積もる道を一人、とぼとぼたどってきたジムは途中で追い剥ぎに会い、コートを取られ、風邪をひき、はかどらない交渉にイラつく。寒い廊下で待たされた挙句、若い係官が、今日はだれもあなたに会う時間はない、という回答を持ってきた。ジムは大学を出たばかりと思える係官に気さくに声をかけ「君の英語は上手だね」と褒めた。「ありがとうございます。僕も自信があります」と答えた青年に「わたしの伝言を君の上司に伝えてくれないか。今日の5時までにわたしの要求に対する承諾をいただきたい。もし電話で返事がない場合は拒否と解釈し、即刻帰国する。少し長いけど、大丈夫かい。急いでくれないか。実は風邪をひいていて、早く帰りたいのだ」青年は穏やかに、正直に話すジムの口調に、駆け引きを感じなかったのだろう「はい、大丈夫です」と胸を張って去った。ジムは寒いホテルの一室で待機。5時。電話が鳴った。1対2の交渉に相手は応じたのだ▼ジムは特別な手を使ったわけでも、秘策を講じたわけでもない。順を踏んで、会うべき人物に会い、理を説いて、ここはお互いに交換条件を飲んだほうが得策だと訴える。一方が勝ち、他方が負けて泣きを見るのではなく、どっちにも立つ瀬があるwinーwinの交渉には、相手を納得させるものがあった▼しかし交換には条件があった。同じ場所で行うのではなく、まずアベルとパワーズが、それと同時に別の場所でプライヤーを引き渡すというのだ。東と西が橋の両端に位置した。アベルを解放しろとソ連側がいう。まだだ、プライヤーは約束の場所に来たか、確かめろとジムは無線で確認の指示を出す。プライヤーは来ていなかった。約束が違う、彼と交換でなければアベルは渡さないとジム。しかし東ドイツ側はアメリカの学生など「ロシアの経済を勉強しにくるのが間違い」などと放言し、自国のスパイを取り戻しさえしたらよかった。アベルにこっちに向かって歩いてこいと呼びかけた。アベルは無言のまま動かない。再度の命令に「わたしは待つ」と言い返す。電気椅子が当然だった自分を懲役刑に減刑したため、ジムがアメリカ国民の非難にさらされたことをアベルは知っている。アベルもまた篤実な人物だった。この橋の中央に向かって自分が歩き出せば、ジムは交換の切り札をなくす。だから「わたしは待つ」のだ。無線が入った。プライヤーを確保した。アベルは橋を渡り始めた。ジムは見つめている。ジムには確かめねばならないことが残っていた。「戻ったらどうなる、アベル」と訊いた。「もうすぐ、一目でわかるよ。彼らがわたしを抱いて背中を叩けば無事だ。黙って後部座席に乗せれば死刑さ」だからジムは目を凝らして見ているのだ。アベルが座ったのは後部座席だった▼ジムは帰国した。家族に任務を隠して「出張」したジムは、着替えもせずベッドにぶっ倒れてしまう。階下で子供たちが見ているテレビがニュースを報道した。「パワーズ中尉がソ連の監獄から釈放され、今朝早くベルリンで米国側に引き渡されました。解放交渉は水面下で進められ、米国政府はニューヨークの弁護士であるジム・ドノバン氏に依頼していました。大統領はアベルの刑を減刑、アベルはベルリンで自由の身となりました」。交換の場所はグリーニッケ橋だった。これがタイトルの「ブリッジ」である。ドイツのハーフェル川にかかる橋。全長128メートル。幅22メートル。冷戦時代、アメリカが支配する西ベルリンと、ソ連の支配下にある東ドイツとつなぐ立地から、米ソ間のスパイ交換の場として使われた。ドイツの東西分断により封鎖され、一般人の通行は禁じられていたが、ベルリンの壁の崩壊により、自由な往来が再開され、冷戦時代を象徴する観光名所となった。本作のラストシーンは、この「運命の橋」でロケされたものだ。

 

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