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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年10月4日

特集 LGBTー映画にみるゲイ195
サンローラン(上)(2015年 事実に基づく映画)

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監督 ベルトラン・ボネロ

出演 ギャスパー・ウリエル/ルイ・ガレル/ジェレミー・レニエ

 

シネマ365日 No.1894

自らが創り上げた怪物 

特集 LGBTー映画にみるゲイ

本作のプロデューサーの一人、エリック・アルトメイヤー氏は、先に公開されたジャリル・レスペール監督の「イヴ・サンローラン」が、イヴのビジネス・パートナーであり、恋人であるピエール・ベルジェ(本作ではジェレミー・レニエが演じる)のサポートを全面的に受けたのに対し、「ほとんどシャツ一枚提供してもらえず、スタジオも一から再現した、膨大な時間と労力を費やした」とインタビューで答えていた。本作を見て思い当たったけど、多分サンローランの私生活、特にセクシュアリティを赤裸々に描いたことに抵抗があったのではないかと思えた。監督はサンローランの伝記ではなく、彼が彼であるために支払った代償をテーマにしたと明言している。生まれもった繊細、かつ洗練された感性ゆえに、引き受けねばならなかった成功の代償は痛ましい。サンローランは、自分が創り上げた「サンローラン」という怪物と、一生戦わねばならなかった▼彼の故郷はアルジェリアだ。少年時代、母や叔母が「イヴ、これはどう?」とドレスを着てターンする。少年は「ルネ叔母さん、もっと似合う服を着て」と穏やかにたのむ。サンローランは生真面目な仕事人間だった。飲み会や付き合いでバーにいても、適度に切り上げ「気になるから」とスタジオに帰り、仕事の続きをする。多忙を極め、神経がザクザクになればなるほど、故郷アルジェリアで過ごした、牧歌的な少年時代が懐かしかった。ベルトラン・ボネロ監督は時間軸を巧みに入れ替え、サンローランのオフィシャルな面とプライベートな面を、光と影のように交錯させる。オフィシャルな部分はドキュメンタリーと言ってもいい。オートクチュールは全てハンドメイドと特注仕立てだ。コレクションの発表前は次から次、サンローランが嵐のように描き上げるデザイン画を、衣装に仕立てねばならない。「もうできない」と誰かがいうと、「やるのよ!」とどこかで声が飛ぶ。布の発注、縫い子の手作業、裁断し縫製するアトリエには本物の縫い子たちが出演した。マダム・ムニョスはアトリエの責任者だ。「パープルのタフタを」「バイアスに使う生地は2日間吊るしてからカット。でないと後で布地が下がりバランスが狂う。ベルベットは特に注意を」緊迫のアトリエをよそに、サンローランの部屋はコトリとも音がしない。彼が仕事に没頭するとき、まるで禅僧のように静かだ▼サンローランが恋人ジャック(ルイ・ガレル)との新居を購入した。約800平方メートルの広さ。寝室が二つ、図書室、音楽室、その奥に書斎。この部屋はバイエルン城のように周囲を鏡で囲み、ろうそくを灯す、いつかモンドリアンを飾る。この部屋も新しくする。壁にも天井にも鏡をはめ込み、多くの鏡に映る光の効果で、幻想が永遠に続くようにしたい…永遠に続く何がいったいあるというのだろう。しかもそれを自分の部屋に作るという神経に、普通の人間はついていけるだろうか。多くの市井の人は、一日の仕事を終えて一杯飲むことを楽しみにし、好きな男や女とおしゃべりすることで気を晴らし、明日の予定を確かめ、たまに自分に許した、それもほんのすこしの贅沢な食事や旅行に元気を取り戻して、またいつものような日常に戻るのだ。ジャックは現実家だった。この映画ではピエールが「ジゴロ」呼ばわりしている、頽廃の男だ。しかし、ジャックのデカダンスと響きあうものがサンローランにあったことは否めない。彼らは一目で惹かれ合い、イヴはのめりこんでいく。繊細な、抑圧の強い青年が求める、ワイルドな快楽をジャックは与えた。極度に内気で、部屋で一人、厚紙を切り抜いた人形に衣服を着せて遊んでいた、心やさしい少年がサンローランだった。イヴの独創的なデザインと、ピエールのマネジメントによって「イヴ・サンローラン」は世界のブランドとなる。同時にサンローランは、医師に訴えるようになる。「夜、穏やかに過ごせる薬をください。コレクションのときだけです」しかし酒と薬物の量は増え、タバコは手元から離さなかった。新居には仏像の半跏像が運び込まれた。「仏像は僕に幸運をもたらす」ジャックはのちにこういう。「僕が君の仏像だろう」でもそうはならなかった。ピエールはある日ジャックを訪ね「話がある」強引にサンローランと別れさせたのである。ピエールはイヴ・サンローランの恋人であり、最高のビジネス・パートナーであり、理解者だった。彼との二人三脚で「サンローラン」は成り立った。しかし成功を極めれば極めるほど、栄光の頂は同時に深い奈落の闇につながっていた。繰り返すけれど、ジャックが備えた頽廃に共鳴する体質は、サンローランのほうにもあったのである。ひょっとしたらそれは孤独と呼ぶ、自分だけに見える相貌を持つ怪物だったかもしれない。

 

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