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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年10月5日

特集 LGBTー映画にみるゲイ196
サンローラン(下)(2015年 事実に基づく映画)

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監督 ベルトラン・ボネロ

出演 ギャスパー・ウリエル/ルイ・ガレル/ジェレミー・レニエ

 

シネマ365日 No.1895

「少年」の愛と仕事 

特集 LGBTー映画にみるゲイ

ジャックが去った後、彼に宛てたサンローランの手紙があります。ギャスパー・ウリエルによるかなり長い独白ですが、そのまま引用します。サンローランのゲイというセクシュアリティを無視して、彼のアートと、それを生み出した感性はとても語れないし、理解できないと思えるからです。30代の、年齢からいえば社会の中軸でバリバリ活躍する成人男性とは、かけ離れた手紙です▼「彼を覚えているかい、ジャック。モハメッドのこと、クロードのことを。あの夜、激しい鼓動に胸が張り裂けるかと思った。彼は音立ててベルトを外し、僕にまたがり荒々しく僕の体を貫いた。その行為は永遠に続き、僕は気を失いかけ、膝をついたまま死ぬかと思った。地面の匂いを今も覚えている。口に入った砂利の味も忘れない。君も同じように覚えているかい。地面に君は服を投げ捨てた。僕が拾うことを承知で。彼らの眼差しを忘れはしない。ひとたび果てれば、穏やかなときが流れるかと思ったが、そうはならなかった。ピエールは何を言って君を怯えさせ、姿を消させたのか。君に語るために僕はこれからも手紙を書く。僕は今も君と一緒だから、君が会ってくれなくても手紙を書く。町の公衆トイレにまた行った。これからも行く。工事現場に再び行くように。アリ、クロード、モハメッドにまた会いたい。なぜなら、アリも、モハメッドも、クロードも君だから。僕を夜明けの光へ導くはずの、まだ会えぬ者たち。僕はたまらなく夜明けが怖い。わかるかい、ジャック? 僕は魂のない肉体が好きだ。魂はよそにあるのだから」愛を求めるというだけでは足りない。彼の激しい渇望と空白を埋めることのできる愛は、同性のそれでなければならなかった▼ギャスパー・ウリエルとルイ・ガレルの男同士のラブシーンは官能的で、サンローランは荒淫にのめり込みます。ジャックは咥えたドラッグのカプセルをイヴの口に移そうとする。イヴは口に含み、含んだだけでなく舌を絡ませにいく。彼は度々幻想の蛇を見るようになります。ベッドの上を横切っていく蛇。枕の下から音もなく姿を現し、首に、手首に巻きつき腹の上にとぐろを巻く白い蛇、虹色の蛇、まだらの蛇。蛇はサンローランの知性と欲望の象徴だった。イヴの「I 」、サンローランの「S」と「L」を組み合わせたロゴが、ともすると蛇が絡み合っているように見えるのは穿ちすぎでしょうか▼1977年、イヴ・サンローラン死亡説が流れました。彼はアルコールと薬物依存、神経症で入院していました。いきなり、劇中劇のようなシーンが挿入されます。サンローランの傑作であり、今日の女性のスタイルと行動に大きな影響を及ぼした作品に、女性用タキシード「スモーキング」がありますが、このシーンのモデルのヴィヴィカが着ているのも、男性的なスーツにハット。もう一人のモデル、エリカはフルヌードです。正面からの撮影ですからヘアも黒々。サンローラン自身、香水の広告でヌードになっていて、モデルをヌードにするのに抵抗はなかったようです。バックはアラビアの場末の町の狭い街路。両側に茶色の古い建物が並んで、真ん中に石畳の道が奥に続いている、まるでカサブランカの夜のようなシチュエーションです。二人はポーズをとりながら話す。「ダーリン、イヴはどこ?」エリカが訊く。「知らない」「彼の犬がヤクの過剰摂取で死んだわ」「噂で聞いたわ。彼とこの世を結ぶ唯一の存在だったのに」「どうでもいいわ。わたし、寒いの」「わたしも」「わたしは裸であなたはサンローランを着ている。ひどい人」「そばにくれば暖かいわよ」エリカ、ヴィヴィカに密着し「バカらしい、これは何の真似?」「男っぽさを演じているのよ。権力を持つ人を」「あなたは美しいわ。わたしは素っ裸よ」「きっと彼、死んだのよ」「かわいそうなイヴ。彼は繊細な少年だった」このシーンで、サンローランはすでに、世間の表舞台から姿を消しかけているのがわかります。権力を持つ男性を女性が装い、女性は素っ裸で男性に対抗するというテーマ、洗練と爛熟の極みですね▼サンローランを評するキーワードの一つに「少年」「子供」がありました。ジャックは嬉々として新居を案内するイヴに「君は甘やかされた子供だ」と言います。当たっているでしょう。その「少年」と「子供」は、いつの間にか怪物となって彼を支配し、彼の才能を空っぽになるまで使い果たさせました。引退を決意したサンローランがスピーチの下書きをしています。「わたしは今日、心から愛したこの職業に別れを告げます。わたしは優雅さを追及する戦いを繰り広げてきました。優雅であることと美を追い求め、苦悩に苛まれ、地獄をさまよいました」ここまで書いて破り捨てる。自己憐憫は醜悪以外の何物でもなかった。新しいデザイナーが台頭し、自分は過去の遺物かという恐怖がイヴから去らない。もはや何を支えに生きていけばいい。映画は答えを出していないように見えます。しかし…死亡の噂を確かめようと取材に来た記者に、ピエールはアトリエのドアを開ける。イヴが普段通り仕事をしている。ピエールが言った。「イヴ、生きている姿を見せてやってくれ」それを聞いてイヴが微笑む。これがラストシーンです。本作の象徴的な結論でもあると思います。イヴ・サンローランは生き続けるであろう、美と洗練とエレガンスを追い求めた、そのスピリッツを永遠に受け継いで…。

 

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