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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年10月6日

特集 LGBTー映画にみるゲイ197
あの日のように抱きしめて(2015年 ゲイ映画)

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監督 クリスティアン・ベッツオルト

出演 ニーナ・ホス/ニーナ・クンツエンドルフ/ロナルト・ツエアフェルト

 

シネマ365日 No.1896

そこまで愛せる?

特集 LGBTー映画にみるゲイ

迷いながら「ゲイ映画」にしました。どうにも腑に落ちないことが二つあって、恋愛映画ではあるが、むしろゲイ映画としたほうが妥当ではないかと思えたのです。一つはこの作品をご覧になった方がひとしなみ、感じられるであろう不自然さです。長年連れ添った夫がたとえ整形したにせよ、妻ネリー(ニーナ・ホス)が「元の顔に」戻してほしいと要望した上で再建した以上、多少の違和感はあってもかけちがった別人にはなっていないはず。声だって同じのはず。歌手だったネリーが歌う歌を聞き、腕に彫られた収容所の囚人番号を見るまで、夫ジョニー(ロナルト・ツエアフェルト)は妻だとわからないなど、どう考えても鈍感すぎる。おまけに妻は、夫が自分の財産を目当てに、本当の妻だと気がつかず、妻の偽物にしたてようとしたことがわかっている。夫は妻が受け継ぐはずの莫大な財産が欲しくて、死んだ(と思っている)妻を、生きているように見せたいのだ。ネリーは夫の魂胆がわかっていながら計画に乗るのです▼ネリーの親友であり弁護士のレネ(ニーナ・クンツエンドルフ)は、収容所で顔に重傷をおったネリーを連れてスイスからドイツに戻る。本作の時代は1945年だ。ユダヤ人であり資産家のネリー一族はゲットーで殺され、ネリーだけが生き残った。ユダヤ機関で働くレネは、パレスチナにユダヤ人国家を建設するためネリーの資産を確かに当てにしているが、彼女の献身的な介護はとても色濃い友情を思わせる。ネリーの夫ジョニーはドイツ人だ。一度は妻と一緒に逮捕されたが、翌日には釈放されたこと、ネリーが収容所に送られる前日に離婚届を提出しており、正式な離婚が成立していること、早く言えばユダヤ人狩りに協力して保身に回り、いち早く離婚して妻とは無関係になった、ところが妻が生きていれば財産を相続できることから、偽物妻をこしらえることにした、偽物ネリーに分け前をやるから妻の役を演じろといいふくめ、地下室に閉じ込め習慣や筆跡や歩き方を伝授するのだ。ネリーもネリーである。夫は自分を裏切ったのか、隠れ家に匿ったり食事を運んだりして守ってくれたのはウソだったのか、疑心暗鬼に悩む。悩むに値することかしら。現在やっていること考えれば、疑心暗鬼でモタモタしているなんてとんでもない。夫が妻の死に乗じ、偽物をこしらえ、遺産で一儲けしようとしているのは、疑いようがないじゃないですか。「あの男は裏切り者の卑怯者だ」とレネがいうのは故なしとしない▼ネリーの夫が妻の正体に気付かないのはどう考えても不自然だということと、もう一つわからないのは、親友レネの自殺です。いくら忠告してもネリーは夫とよりを戻そうとしている。レネは苦労して自分とネリーのパスポートを偽造し、着替えの服も日常生活の必需品は全て用意し、一刻も早くドイツを出国したい。戦争が終わったとはいえ、ユダヤ人がドイツにいて安心して暮らせるわけがない。レネは実に細々とネリーの世話をみるのです。レネは自殺する直前、最後の忠告として、夫が書いた離婚届のコピーを残しておく。レネは、ネリーに失恋したから自殺したと考えるのが妥当じゃない。ネリーが自分と一緒にパレスチナにいかないから、活動資金に不備をきたす、くらいのことが命を絶つ理由になるでしょうか。金のあるやつを他に探せばいいだけだろ。ネリーを失ったことは、レネにとって生きる希望を失ったことに等しいのよ。故に本作をゲイ映画としました▼それにしても、ネリーってどこまでも夫を愛していたのね。自分を売ったかもわからない男を。ジョニーに関して彼がどういう根拠で行動したのか、映画では何も明らかにされません。ネリーは歌を歌って、夫が自分を本物の妻だと気付いたことを確認して去ります。離婚は成立しているから、夫の計画は水のアワよね。亡きレネの意思に従い、ドイツを出国することになると思うけど、映画はそれに触れない。ネリーは夫に気づいて欲しかったのでしょうが、夫は最後まで真実が見えない。それでもネリーがぐずぐず夫の計画に乗ってやろうとしたのは、やさしさと言うより、むしろ復讐というほうが当たっているのでは? その意味においては、ラストは痛烈だけど、ネリーが夫に合わせてぐずぐず「偽物ごっこ」している分、いまいちキレが鈍くて煮え切らない映画になったわ。どっちみち、ネリーは遺産相続できるのだから今後の生活には困らない。まさか夫とよりを戻すなどと、バカなことをしない限り。なにひとつ報われなかったのはレネじゃない。かわいそうに。

 

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