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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年10月9日

特集 LGBTー映画にみるゲイ200
あるスキャンダルの覚え書き(下)(2007年 ゲイ映画)

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監督 リチャード・エア

出演 ジュディ・デンチ/ケイト・ブランシェット

 

シネマ365日 No.1899

バーバラの狂気 

特集LGBTー映画にみるゲイ

シーバの不倫についてのバーバラの解釈。「あの少年への欲望は、彼女の特権意識の表れだ。美術が好きな労働者階級の子とは、密林の猿がカクテルを飲むのと同じなのだ」。シーバは母親に打ち解けない娘だった。母は辛辣だったからだ。「あの子は美しいからなんとかやってきたけど、本当は実力や才能がないのです」。子を見ること、親に如くはなし。シーバもそれが事実だとわかっていたのだろう。しかし「実力や才能」とはなんだろう。シーバの、あまりにもあっけらかんとした不倫への奔り方には、シーバがそれまで抑圧していたものの蓋を、開け放ってしまったような自然な勢いがあったのだけど…▼シーバは関係を清算できなかった。バーバラは引導を渡す。「あの少年は、結婚生活に不満な中年主婦の欲望に食いついたのよ。思春期の男の子は残酷よ。飽きたら棄てられる。あなたは若くないのよ。あなたの為よ、すぐ別れなさい!」少年は「遊びがマジになったらヤバすぎる。先生の抱えている問題は夫? 子供? 自分自身? なんでもいいけど僕は力になれない」あっさり身を引く。バーバラの日記「少年はシーバを雑魚のように手酷く扱った。今や彼女が頼れるのはわたししかいない。シーバは若い愛人を思い、ふさぎこんでいる。少年との戯れは偽りの結婚生活が生んだ幻想だ。消え去った性の炎を追い求めただけ。わたしとシーバは、日を追って困難を乗り越えつつ、強い絆で結ばれて行った。わたしたちの関係は繊細で、新たな段階を迎えていた。わたしたちは生活を共に歩むための要素を探り合っていた」▼バーバラとシーバが小高い丘のベンチに腰掛けている。バーバラは「ジェニファーとここで語り合った」という。彼女はウツになって学校をやめた。「人は皆、相容れない相手と何年も無駄に過ごす。理想の相手を見つけたと信じたいから。真実の相手を見極めるのは勇気がいるの。世界中に認められる人になりたかった。人は自己の限界を知るわ。人生をひとりぼっちで終えるのが辛い」「だれでもそうよ」とシーバ。「だけどひとりじゃないと感じ始めているの。わたしの思い違い?」「いいえ」そういってシーバはバーバラの方に頭をもたせかけるではないか!▼ここから崩壊が始まる。きっかけはバーバラの飼い猫の死だった。安楽死させたバーバラは埋葬しに行く、シーバに出会い一緒にいってくれと頼む。その時息子の劇の発表会でどうしても外せないとシーバは謝る。バーバラは勘弁しない。旦那はクラクションを鳴らし「妻を解放しろ。早くしろ厄病神」「シーバ、わたしに借りがあるでしょ。友情を理解していると思ったわ」「さっさと車に乗れ!」シーバは旦那を怒鳴りつける。「待って。始末をつけるから」「始末?」と色をなすバーバラ。「まるで廃棄物扱いね。私が重荷になったのね」「とんでもない。あなたは私の親友よ」「じゃ一緒に行って。私といて」「お願い、そう言わず」「よく考えることね」「後で電話する」降り切って去ったシーバに何が起こったか▼バーバラはシーバに恋している同僚教師をそそのかし噂が一人歩きするよう企んだ。シーバの不倫は校長の耳に入り、これだけは誤算だったが、シーバと仲の良かったバーバラは、事実を知りながら隠蔽していた共犯者として、辞職に追い込まれた。ある日シーバの自宅に、少年の母親がどなりこみ、すべては白日のもとに。シーバは家を出て「しばらく泊めてくれない?」とバーバラに頼む。狼の口に肉をぶら下げるようなものね。シーバが同居して1か月。マスコミが家の前に張り込み、シーバは外にも出られない。せっせとバーバラが世話をする毎日。日記を見よう。「この1か月。最高だった。何度も喧嘩した。女の二人暮し。緊張感は計り知れない。それはしかし、なんと甘美なものだろう」バーバラの甘い生活に破局は来た。シーバが足の裏にくっついて金色の星形の紙片をゴミ箱に捨てるとき、ふと目に付いた書き捨てのノートの破片を拾ったのだ。日記の存在を知ったシーバは狂ったように家探し。買い物から帰ったバーバラは、散乱した部屋のソファにひっそりと腰掛けているシーバを見る。「わたしのこと、いろいろと書いているわね。リチャード(夫)とポリー(娘)がいない方がわたしは幸せですって。あなたのせいで2年の実刑かもしれないのよ」「あっという間に過ぎるわ。毎週会いに行くわ」(すごい発想ね)「わたしの髪をバスタブから拾った? ピザのレシートまで日記に貼り付けて」「あなたの望みを叶えてあげたのよ。惨めな結婚からの解放を」「何が友だちよ。わたしを嫌っているくせに。あなたはわたしもジェニファーも愛していない。ひとりぼっちは当然よ。わたしとやりたい、バーバラ?」そう言ってシーバはマスコミが待ち受ける外に出て叫ぶ。「出てきたわよ。わたしはここよ!」発作のような狂態に、バーバラは慌ててシーバを家に引き戻す▼やがてシーバは我にかえった。「南仏の別荘に呼んでくれるのでしょ」とバーバラ。「本気で言ったのじゃないわよ」とシーバ。「そう。じゃ、行かない」「いい人だと思って昼食に誘ったのよ。友だちなのに、こんなことに」「友だち以上でないと…」シーバは黙って日記を返し、バーバラの家を出る。自分の家のノッカーを叩く。夫が現れ帰った妻を招じ入れる。バーバラは新しいノートを買った。丘の上のベンチ。「元教師10か月の実刑」とシーバの裁判の結果が見出しにある新聞を若い女性が見ている。「知っているの、この人」そう話しかけたのはバーバラだ。「同じ学校の教師だった。かなり冷淡な女だったわ。座っていい? バーバラよ」「アナベルよ」「アナベル、音楽は好き? コンサートのチケットがあるの。お友だちといけば?」「友だちはいないの」「あら、わたしがいるわ」…懲りない人ね、バーバラって。そうそう、話が途中になっていたけど、シーバが蟄居中、大きく変化するのよね。外に出ないから退屈のあまりメークするシーン。くっきりと濃いアイライン、真っ赤なルージュを自信たっぷりに引く。金髪はセクシーに乱れ、瞳が挑発する。彼女いよいよ本領発揮かと思わず期待したわ。でも彼女はバーバラと別れて憑き物が落ち、元の良き妻と母親に戻るのね。旦那がこう言う場面があるの「君はいい母親だと思う。しかし妻としては最悪だった」。その通りなのよ。でもいったん目覚めたシーバのサタンの部分は再び封じ込められ、バーバラの悪魔的な要素だけが、のびのびと野放しになっている。しかし立ち返るけど「才能や実力」とはなんだろう。バーバラの日記にこうある。「ユダはイエスを売ったことを後悔し首を吊った。そう記したのは使徒の中でいちばん感傷的なマタイだけ。シーバみたいな人間に孤独の何がわかる。一滴また一滴、気の遠くなる無限の孤独などわかるまい。コインランドリーに行く以外予定のない週末。誰にも触れられたことのない体。バス運転手の手が軽く当たっただけで下腹部が疼く。こんな思いはシーバのような女には想像さえできない」孤独と破滅を友として我が道を行くバーバラ。シーバの母親が言った「才能や実力」とは、それを発現するためには、好むと好まざるに関わらず「地下鉄とホームの間にある、埋めがたい空白」を見つめ続ける孤独な作業を伴うにちがいない。いちいち「後悔し首を吊って」いては命がいくつあっても足りないだろう。映画は何も触れていないが、それがどんな種類の「才能と実力」であれ、そこにいちばん近い場所にいるのは、バーバラではないか、少なくともバーバラの内包する、狂気ではないかと思ってしまうのだ。

 

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