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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年10月11日

特集 LGBTー映画にみるゲイ202
王は踊る(2001年 ゲイ映画)

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監督 ジェラール・コルピオ

出演 ブノワ・マジメル/ボリス・テラル

 

シネマ365日 No.1901

王と踊った脚は斬れぬ 

特集LGBTー映画にみるゲイ

主人公は宮廷音楽監督のリュリ(ボリス・テラル)なのですが、ルイ14世(ブノワ・マジメル)が、ずいぶんカッコいいのよ。ちょっとよすぎない? ルイ14世「太陽王」はブルボン王朝最大の覇者であり、70数年に及ぶ在位最長の権力の座にあった。ということは治世が平穏で国民は平和だったか、というとそうでもない。王は戦争が大好きで国庫の破綻を招いていた。読書も勉強も嫌いだったが、ダンスには才能があり、バレエをアカデミー・フランセーズに取り入れたのも彼だ。でも本作では32歳のとき、バレエのジャンプに失敗し、以後踊らなくなったとしている。沼地だった小村ヴェルサイユに30年を費やして一大宮殿を築いたのも彼だ。あんな沼でなにができるとバカにする閣僚たちに、「余の夢に音楽をつけ、沼地を躍らせるのだ。この国も踊る。空前絶後の舞踏会を開くぞ。大照明で星を驚かせ、人生と愛を謳い上げる楽園を、ここに造るのだ」空を見上げて宣言し、足元の沼にはまる。それがもとで肺炎を起こし、もうだめだという危篤状態に。遺言を皇太后に告げる「余にとっていちばん大事なことは母上とこの国だ」▼どう考えてもリュリは気の毒であった。彼は王のためにしか生きることができない。美しい王を愛し人生を捧げる。王が音楽好き、踊り好きだったからふたりに接点があったものの、王ったらひどい「そなたの悪癖を変えろ」。悪癖とは同性愛のことである。「男色家の音楽は好かん。お前を見捨てない妻も、余も寛大であることよ。宮廷の音楽総監督ならふらちなことは慎め」王にとってゲイは悪癖であり、ふらちであるのだ。コテンパンですね。5歳で王となったルイ14世を、皇太后と摂政マザランが補佐した。一説には王はマザランの子では、と言われたが真偽はともかく、それに映画では皇太后とマザランが権力をもっぱらにして、王は「余にできるのはダンスとギター」しかないと嘆いているが、史実はちょっとニュアンスが違う。マザランは類まれな名宰相であったし、皇太后は母性豊かな女性だった。30歳後半でルイを産んだとき、他の兄弟は早世していただけに帝王教育はやぶさかでなかった。王は最後の心配は母と国だというくらい、母親を愛していたし、皇太后の諫言はしぶしぶでも受け入れた。在位70年という長期政権は、失政はあったとしても、国民の支持がなければ成り立たない。国民は仲の良い母親と息子の関係に、国の安定を感じていたと思える▼国王はリュリを寵愛したが、だから腑抜けになったかというとそうではなかった。マザランや母后の帝王学の賜物だろう。リュリは結婚もし、子供もいたがどうしても男しか好きになれなかった。男娼を買いに町にもでるが、彼の献身は王だけのものだ。同時代のモリエールが劇作で王の賞賛を得ると嫉妬し、モリエールが結核で、苦しい咳をしながら執筆し、舞台にもあがるのだが、「その聞き苦しい咳を王は嫌いだ」とか、意地悪を言う。男同士のサバイバルもたいへんだっただろう。リュリは音楽家としては成功したし、男しか愛せないといっても、妻との間に6人の子をなしたのだから、俗世的なサクセスとしては充分だったろう。片思いではあったが冨も名誉も手に入れた。手に入らなかったのは王の愛だけだった▼17世紀フランスの宮廷を再現したセットは目もあでやかに、本物のヴェルサイユ宮殿が錦城花を添える。金粉に全身にまぶして踊るバロック・ダンスのために、王は練習を繰り返すが、本番の舞台でジャンプによろめき、次第に踊りから遠ざかるように映画では思われるが、実情は、王としての権力が安定するとともに、ダンスで存在をアピールする必要がなくなったからだろう。皇太后の死にともない、王は名実ともにフランスの絶対君主としてヨーロッパに君臨する。もはやモリエールに劇を書かせ、反対派を揶揄嘲笑する必要もない。リュリと踊ることもなくなった。リュリの指揮作曲した作品の音楽会に臨席することもなくなった。王の来ない音楽会でリュリはむなしく指揮棒を振る。当時の指揮棒は長い鉦の笏(しゃく)だった。激しくふりおろす笏が、あやまってリュリの足の甲を突き刺した。その傷が悪化し壊疽となり、切断を迫られてもリュリは拒否するのである。王と踊った脚は切れないと。リュリの死んだあと、ヴェルサイユ宮殿から広大な庭園をみながら王はつぶやく。「リュリがいない。今夜は音楽が聞こえぬな」

 

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