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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年10月16日

特集 LGBTー映画にみるゲイ207
小さいおうち(2014年 ゲイ映画)

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監督 山田洋次

出演 松たか子/黒木華/倍賞千恵子

 

シネマ365日 No.1906

ストイックな愛 

特集「LGBT—映画に見るゲイ」

打ち明けるけど、「私の秘密」「ミステリアスな物語」と、DVDのパッケージにあったのは「家政婦は見た」系のミステリアスとは全然ちがっていたのね。しかも監督は巨匠・山田洋次。気合いを入れてしっかり見ねば…と思ってみましたよ。で、どう考えてもゲイ映画の範疇に入れるのが最も叶っていると思えました。だって主人公タキ(黒木華・賠償千恵子)は、不倫する女主人、時子(松たか子)の手紙を相手の男・板倉(吉岡秀隆)に届けなかったのだもの。時子が夫と防空壕の中で抱き合って死んでいたと聞いたら号泣するでしょう。悲しんでいたというより(そこまで腹が立つかア)と思ったのはわたしだけ? いじらしいくらい、タキは時子が好きなのよ。時代は第二次世界大戦勃発前夜。日本が着々戦争に突っ込んでいく暗い時代です。でもタキが勤める平井家に、戦火は未だ遠い。聡明な美しい時子は、山形の田舎から出てきた純朴なタキを妹のように可愛がり、タキは一生この人のそばに居りたいと、裏表なくひたむきに仕える。倍賞千恵子って、こういう苦労性な女性の役がよく回ってきますね▼タキの目で見ていると、時子の不倫はバレバレである。板倉の下宿に行って帰ってきたときは帯柄が逆になっていたとか、それもあるけど、そもそも出かけるときに選んだ帯が、キリッとした太い線模様の、いかにも心の決意を表すような意匠なのね。それにタキはハッとする。時子の心の中が、タキには手に取るようにわかるのです。年齢差は、さあ、時子が20代半ばか、タキが10代後半か。ちょっと年の離れた姉妹みたいなもの。時子には一人息子の恭一がいて、小児麻痺の後遺症がかすかに残り、毎日マッサージを施せと医者はいう。マッサージ師の元にタキは子供をおぶって毎日通い、技術をすっかり覚えてしまう。恭一のマッサージを自宅でタキがしてあげるのだけど、それを見た時子が、自分にもしてくれと頼む。タキが足を揉むと気持ちよさに声を上げる。タキの額に汗がにじむ。ふ〜ん、山田洋次ってこういうエロチックなシーンもありなのだ。知らなかった。でもこの映画、省略・省略で文意は行間から読む、川端康成とか、映画で言えばほとんど小津安二郎の世界よ▼タキは深みにはまっていく時子が見ておれない。嫉妬とはちがう、もっと親身な感情だ。板倉の下宿を尋ねる時子に、近所の目も気づきはじめた。時子が板倉を訪問するのは、夫から板倉の見合い話をまとめるよう言われているからである。格好な口実ではあるがタキの目はごまかせない。板倉は美術学校出身のデザイナーだ。金儲けを追う、夫にはない繊細な感性に時子はしびれたのだが、吉岡秀隆のキャラではもうひとつ、線が細すぎるのよね。身の危険を冒してまで会う気のするのが不思議。でも好きなのだから仕方ない。タキも多分そう思ったに違いない。で、結局のところこのへんで線引きしなくちゃ、と逢いびきの手紙を板倉に見せなかったのね▼思うに、タキってとても頭のいい、聡明な女性だったのよ。学歴なんか問題じゃないの。自分が密かに恋して、そばで仕える分には奥さまに何も迷惑はかけない、だれにも打ち明ける必要はないし、だれからもとやかくいわれはしない、タキの心の中だけで全て完結する絶対無二の愛情だった。タキの部屋だという二畳の女中部屋にいて「わたしはこの部屋で一生、お世話ができたらいいのです」と東北弁でいうシーンがあるのだけど、この二畳の部屋って象徴的だわ。時子を守るためには板倉を黙殺してしまう、身びいき極まる愛情なのだけれど、結局そんなものじゃないの? 愛情って。少なくともタキの愛は狭い場所で活脈し、彼女を支える力となるのよ。充分じゃない、それで▼黒木華が若くて健康で純粋な、そして賢明なタキを、倍賞千恵子が、過去の恋を封印したままこの世を去る、ストイックなタキを演じて絶品だった。最後に車椅子の恭一が海辺で「タキと板倉に連れられて僕はよく海辺に来た、あの二人はお似合いだった」とかいうセリフがあったの? 気がつかなかったわ。それってタキと板倉の間に特別な感情があったってこと? あるはずないじゃない。そんなセリフに使う時間があるなら、本来この映画の中心テーマであるタキの恋愛を、もっと深く掘り下げるべきだったわ。

 

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