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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年10月17日

特集 LGBTー映画にみるゲイ208
画家モリゾ マネの描いた美女(2015年 ゲイ映画)

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監督 カロリーヌ・シャンプティエ

出演 マリーヌ・デルテルム/アリス・バトード/マリック・ジディ

 

シネマ365日 No.1907

傑作を描かせた女 

特集「LGBT—映画に見るゲイ」

極めて親密な姉妹愛です。結婚のため絵を諦めた姉エドマ(アリス・モリゾ)は、死ぬまで妹ベルト(マリーヌ・デルテルム)の画業を支えた。当時(19世紀後半)女性が絵を描くことはどんなに才能があっても「趣味の範疇」に止められたし、まして一生描き続けるなど、家庭を顧みない異端の女と見なされました。ベルトは33歳のとき、周囲の圧迫から独身でいることは、さすがに「もう限界だわ」といって、マネの弟と結婚します。幸い絵に理解のある夫であり、画業を続けることを結婚の条件にしました。で、ゲイ云々のことだけど、カロリーヌ・シャンプティエ監督は確信犯だと思います。その前にちょっと、姉妹の血筋について。彼女らはロココ時代を代表する画家フラゴナールの曾孫にあたります。画家の血筋としては折り紙付きのサラブレッドである。姉妹とも早くから才能を認められ、ベルトは23歳でサロンに初入選しました▼「25歳の独身女性は家族の重荷で、社会の笑い者よ。結婚が女性のすべて?」とベルトが訴えると。姉は妹を抱き「修道女になれば?」といっておかしそうに笑う。お姉さんは妹に比べ、だいぶ性格が大らかなようです。でも二人が言うには「絵を描くことでわたしたちは救われる」と妹。「わたしの望みはずっと一緒に絵を描くことよ」と姉。彼女らの母親もまた才能に溢れていたのですが「お母さまは結婚して絵を諦めた」。そういう娘たちの口吻には(同じ轍は踏みたくないわね)(でも無理よ)という批判と迷いと抵抗がありあり。「女には定めがあります」と母親は厳然と言い渡し、姉妹たちは「わたしたち、同じ男と結婚するわ」。意味がわかっているのだろうか、お嬢さん。ルーブルで姉と模写しているところで、マネと出会い、ベルトはモデルを頼まれる。なかなか打ち解けないベルトに、マネは「わたしが嫌いなのか、それとも男か」。モリゾは「姉さんと一緒に絵が描けるなら他になんにもいらない!」▼姉妹とも凡庸な女性ではなく、マネの才能をたちどころに感じ取り、新時代の画家であることを確信します。特にベルトは、アトリエで目の前で描き進めるマネの力量に心を奪われる。やがて姉は海軍士官のアドルフと婚約します。「ロリアン(軍港)に住むことになるわ」ベルトは「そんなの絶対に認めない。マネのせいね」「アドルフが嫌いなのね。なぜ? あなたも変わったわ。ひとつも自分の絵を描かず、マネのモデルばかり」。マネのアトリエにはベルトより七つも若いモデルが出入りするようになる。「彼もただの男であんな女が好きなのよ」「わたしなんて眼中にない、彼が見ているのは自分の絵だけよ」姉妹の会話はいつも気があう。母親はベルトに引導を渡します。「過ぎ去る時間はあなたには味方しない」…強烈なお母さん。「なぜ結婚しない」とマネ。「作品を見た夫にこう言われるのがイヤなの。いい絵が描けたね、子猫ちゃん」▼ベルトはロレアンに姉を訪ねて行く。さんさんと太陽の輝く海岸にイーゼルを立て、気がつくと姉がいた。「いたのね」振り向いた妹に姉はやさしくいう「あなたを見ていたのよ」。ほとんど恋人どうしのセリフだわ。お産のため実家に帰理、出産後、赤ん坊の揺りかごを覗き込む姉をベルトは描いています。「揺りかご」と題したそれは第一回印象派展の中で、買い手はつかなかったものの、高評価を受けました。本作は印象派誕生前夜を描いて興味深い。マネはすでに高名な画家として成功し、印象派の運動には加わらず一線を画していました。ベルトはマネの恋人であったと言われますが、これ以後、穏当になったマネを置き去りにし、印象派の手法を大胆に取り入れ、軽やかな色調、そよ風、田園、あらゆる物体の輪郭を曖昧にする光の戯れをキャンバスにとどめていきます▼ベルトがマネに贈った絵があります。有名な「ロリアンの小さな港」です。日傘をさした若い女性が海に臨む広い川のほとりに腰掛けている。「あなたに」「ありがとう。お姉さんだね」とマネ。「ええ、妊娠中だったの」マネは胸を衝かれたように「描くのだ。お姉さんを描き続けるのだ。人生を描け」こういうセリフを聞くと、姉妹の分かちがたい愛情を、マネがいちばんわかっていたのではないか、とさえ思います、ね、監督。ベルトが描いた姉の絵には「揺りかご」にせよ「ロリアンの小さな港」にせよ、幸福な日常の中のはかなさが漂っています。絵を諦めた姉の哀しみ、夢のもろさ、移りゆくまどろみのような愛。姉は自分の才能も画業も妹に託し、妹の絵の最大の理解者となって「人生を描く」彼女を支えました▼しかしマネの絵は美しい。絵の醍醐味のような、陶酔感溢れる美しさです。美術史上の大胆な試みとして「草の上の昼食」「オランピア」が取り上げられますが、彼の最高傑作は疑いもなく「すみれの花束を持つベルト・モリゾ」です。マネの「輝くようなマットな黒」こそ、画家ベルト・モリゾが手に入れたいと渇望した色でした。黒い服、黒い帽子、淡い金色にも見えるブルネットの髪、大きく目を見開き、挑むように見つめるベルトの瞳とともに、その黒はつやつやと、野生動物のように息づく永遠の光を放っています。

 

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