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シネマ365日

2016年10月22日

特集「腐女子が萌える」⑤
ベイツ・モーテル サイコキラーの覚醒(上)(2014年〜 サスペンス映画)

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出演 ヴェラ・ファーミガ/フレディ・ハイモア

 

シネマ365日 No.1912

地獄までいくのよ 

特集「腐女子が萌える映画」

映画はだんだんサイコっぽくなっていきます、と言いたいのだけれど、本作の主人公が今やサイコのアイコンとなったノーマン・ベイツではなく、母親がカリスマ、ノーマ・ベイツではなく、ヒッチコックの古典にも関係なく、現代のアメリカ郊外のモーテルで起こる、一連の出来事というフツーの視点で見たらどうなるか。母と子の密着。これはもう枕詞みたいなものだから横に置いておきます。見えてくるものをそのまま書くと、せっせと働く主婦ノーマと、何もしない引きこもりの次男のノーマンと、悩み深げでイラついている長男のディランだ。ノーマはノーマンが父親を殺し、心身喪失状態に陥って、我に返ったときは記憶を失っていた、それを知っているから、この子にはどこか重い病気があることを感づいている。それが不憫で腫れ物に触るようだ▼ノーマは悩みながら新しい土地に来て、モーテルを開業して出直そうとしているのだ。十室か十一室あるモーテルの部屋を一人で掃除し、受付こそエマに頼むが、肺の弱いエマに掃除なんかやらせられない。自宅では朝からブウン、ブウンと掃除機をかけ、息子の朝食を作り、コーヒーを入れ、ヴェラ・ファーミガが普段着で甲斐甲斐しく動く主婦をやっている。ノーマンはどうか。泊まり客が受付で混みあっているのに手伝いもせず、地下室で剥製造りに夢中、それが済むと殺された女教師の墓参りに、毎日のように行く。ノーマは呆れ、少しは生きているものに関心を持ったらどうかと勧める。エマはせいぜい27歳くらいの余命である。ノーマンに好意を持つがノーマンは色っぽい女子にばかり目が移り、母親が気に入りそうな子はいない。自分はノーマンの関心外だと知っても腐らず、淡々と、聡明に処している。ノーマンが付き合う舞台美術をやっているコディは、高校中退で舞台の仕事に入った。ノーマの気には入らないアバズレだが、暴力を振るう父親のいる、とても快適にはほど遠い家にいて、仕事を持ち収入を得、自力で生きている。彼女はいうのだ。「家族に甘い顔しちゃダメ。叔母の元離婚相手は慰謝料を払わず、祖母がバットで殴ったら払ったの」▼ノーマンはコディに、ふらりと町に現れた母親の兄ケイレブのことやら何やら、聞かれたら際限なくベラベラ喋ってしまうのだ。口の軽い男だわ。ケイレブとは少女だった妹ノーマを犯し続けたヘンタイである。13歳だったノーマは父親にいうと兄を殺すと思い、言えなかった、母親はクスリ漬けだった、誰も守ってくれず妊娠した、生まれた子がディランである。ディランはそれを訊き、それで俺が仲間はずれにされていたわけがわかったと逆ヘンネシ。ノーマの告白に衝撃を与えられたのはわかるが、いちばん先に労わらねばならないのは、身も心もメタメタの中で生活の基盤を築き、家事をおろそかにせず、毎日の食事を作り、子供を育てたノーマではないか。そら、ノーマンとのベッタリには閉口しますよ、ノーマはすぐ泣くし、キレるし、泣くと母親に抱かれ、母親が泣くとノーマンが抱きしめる、そこへ女教師は殺される、レイプ男は戻ってくる、バイパスの開通によってモーテルの経営はピンチ、踏んだり蹴ったりのノーマが、市議会で意見を陳述し、味方をみつけ現状打開に動くのだ。エマは新しいボーイフレンドとめでたく初体験。彼女は母親がいない。病気のせいで今まで彼はいなかった。ノーマに「初めてのときのこと、教えて」と頼む。ノーマは「その人のことが好きで、いい人ならいい体験になるわ。避妊と性病の注意は大丈夫ね」と念を押し、エマを抱きしめる。コディは「変態男を叩き出すのよ」とノーマンに加勢を申し出る。彼女らのほうが、よほど生きる活力にあふれているではないか▼そういう構図の元にこの映画を見ていると、主人公のノーマン・ベイツには(病気かもしれんが、しっかりしろよ)とか、ディランには(母親の苦労もわかってやれよ、それができないなら好きな親父とさっさとどっか行けよ)とか、変態オジキには(二度と顔を出さず、ノーマンとノーマに構うな)とか、実感のある見方ができる。できるのであるがそうは問屋が卸さない。このドラマはどこから見てもするっと入り込める、うまいというか狡猾というか、海千山千のシナリオ・ライターによって、ノーマン・ベイツは精神の光を徐々に消していく。ノーマはどうするか。この母親はとっくに息子と二人で地獄まで行く覚悟なのよ。

 

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