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特集「ベストコレクション」

2016年11月2日

特集「凍れる月のベストコレクション」②
アサイラム/監禁病棟と顔のない患者たち(2016年 ミステリー映画)

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監督 ブラッド・アンダーソン

出演 ベン・キングズレー/マイケル・ケイン/ケイト・ベッキンセール/ジム・スタージェス

 

シネマ365日 No.1923

怪人ベン・キングズレー

凍れる月のベストコレクション

面白かったですよ、でも何がこの映画を面白くさせているのか、よくよく考えてみたら、ベン・キングズレーとマイケル・ケインに行き着くのよね。どっちも俳優としては功なり名遂げた存在ではあるけど、まあこのおふたりの働き者であること。ベン・キングズレーは72歳、マイケル・ケインは83歳。どちらもイギリス人です。やれオスカーだ、何映画賞だと数えるのも面倒くさくなるくらい、赫赫たる履歴の持ち主ですが、過去の実績なんか屁の河童、絶対に安住しないで「あと一歩」を踏み出すところがいい。「絶対に」というところに特に力を入れますが、その理由は、まるでダボハゼみたいにどんな役でも食いついて、自家薬籠中としてしまうのです。最近だと、ベン・キングズレーは「ジャングル・ブック」でバギイラ(黒ヒョウ)の声、マイケル・ケインは「グランド・イリュージョン見破られたトリック」どっちもチョイ役なんかじゃないですよ▼この映画、エドガー・アラン・ポーの短編「タール博士とフェザー教授の療法」が原作です。だから粗筋はご存知の方が多いと思えるけど、ブラッド・アンダーソン監督は最後のどんでん返しで、よく言えば映画の愉しさと後味の良さをサービス、悪く言えば、彼にしてはちょっとロマンティックなエンディングにしています。しかしま、どっちにしても見終わって腹が立つ凡作でないことは確かです。暗い、荘重なオープニングです。1899年。オックスフォード大学の医学生エドワード(ジム・スタージェス)は、精神科医の実習生として、辺境のストーンハースト病院に来る。彼は精神科医を選んだ理由をラム院長(ベン・キングスレー)にいう。「いろんな病人を見てきましたが、精神病が最も残酷です。人の威厳や存在意義、魂まで奪い、ゆっくりと死に向かうこともできない」。同病院の特徴は患者がみな貴族かその縁戚であることだ。つまり、名のある一族・名門の恥として精神科病棟に送りこまれ、監禁・拘束されているのである。「彼は世界最大の鉄道会社の後継者だ。症状? 鉄道に無関心なことだ。あの男はポロの試合中、勘当された。自分をアラブのオス馬と信じている。治療? なぜ治療する。幸せな馬を目覚めさせ、哀れな男に戻すためにか?」▼エドワードは感動的な光景を目にする。リビングで美しい女性イライザ(ケイト・ベッキンセール)がピアノを弾いている。「見たまえ。美しく洗練された女性が、情熱を秘めながら発作による崩壊を恐れている。どんな処置をとるべきだと考える」「音楽です」「その通り。イライザの夫は莫大な財産を持つ不快な男だ。異常な趣味の持ち主だよ。彼女は夫の耳を食いちぎり、目をくりぬいた。娘を入院させ、必ず治して返せといった家族もいた」「どうしました」「拒否した。彼女の守るためだ。ここでは古い手は使わん。投薬することは忘れろ」。院長の開放的な方針で食事は全員が一緒に、ピアノを弾くのも庭仕事をするのも自由だった▼しかしエドワードは妙な物音のする地下室に入り驚愕する。そこに閉じ込められた囚人は、当病院の本物の院長、ベンジャミン・ソルト(マイケル・ケイン)、聡明な寮母マリオン、医務部長チャールズ、その他病院の主だったスタッフだった。なんと、ラム院長はある日病院を乗っ取って関係者を地下に閉じ込め、実験と称して自分の信じる治療法に変えたのだ。薬は極力使わない、患者を束縛しない、麻酔を多用しない、電気治療を行わない…ソルトはエドワードに訴えた。「町へ行って助けを呼べ。地下牢には薬も食料もなく、早晩我々は死ぬ」。イライザは現状がいずれ暴かれると思っている。春になれば見舞いの客も増える、偽院長はひとたまりもなく見破られる。しかしラムは「我々は世界から捨てられた者、一族の恥、人類の邪魔者だ。誰もわたしたちのことなど気にしない」「わたしの夫は違う!」「ここにいれば安全だ」精神病患者への虐待から守っているとラムはいうわけ。マリオンによればソルトたちの療法も非人道的で、電気治療など廃人にするためのものだった。女性たちはヒステリーの治療として薬で朦朧とさせられ、裸にされた。ラムはベンジャミンにいう。「治療法を変えて、患者がどうなったか知りたいか。うつ病患者は無気力から脱した。アヘンの大量投与をやめたからだ。ヒステリー患者は陰部を触られず、快方に向かっている。ダウン症患者は拘束を解かれ快適そうだ」ベンジャミンは言い返す。「せいぜい正気を装うのを楽しめ。その仮装(スーツ姿の事)が、君が少年たちの脳みそを吹っ飛ばした事実を忘れさせるのか」。エドワードにとって最大の謎はラム院長だった。彼自身の過去がどうしてもわからない。マリオンがヒントを与えた。「彼が最も長く過ごしてきた場所に行けば何か見つかるかも」。最も長く過ごした場所、地下の独居房にエオドワードは入っていった…▼このあたり、かなりよくできていまして、目はスクリーンに釘付けです。エドワードは湿った暗い独居房で、壁に押し込められた写真を見つける。紅顔の少年兵だ。サイラス・ラムは軍医だった。野戦病院で彼の精神に異常なトラウマを残した、どんな経験が、この少年兵との間にあったのか。二転三転する結末まで、重厚に持ちこたえてきた、怪人ベン・キングズレーと長老マイケル・ケインへのリスペクトとして、ネタバレはやめますね。この二人に比べたら、ケイト・ベッキンセールやジム・スタージェスの演技は、可愛いというか幼いというか、やっぱり貫目が不足していますね。

 

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