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特集「ベストコレクション」

2016年11月12日

特集「凍れる月のベストコレクション」⑫
ルーム(2016年 事実に基づく映画)

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監督 レニー・エイブラハム

出演 ブリー・ラーゾン/ジェイコブ・トレンブレイ

 

シネマ365日 No.1933

ママ、部屋にさよならを

比較的早い段階で、監禁されていた母親ジョイ(ブリー・ラーソン)と7歳の息子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)が脱出に成功するので、これで「めでたし・めでたし」か、と思っていたら後半じっくり、監禁7年間の後遺症というか、トラウマというか、社会不適合というか、ヒロインの感性や対人力、コミュニケーション能力といった角度から切り込んでいく。彼女は過去の空白と現在の不調和の折り合いがつかず、混乱のあまり自殺未遂に至る。子供はジョイの実の親、つまり祖父と祖母に囲まれた恵まれた環境で、のびのびと子供らしさを取り戻すかといえば「外の世界」に戸惑い、人間関係に困惑し「ルームに帰りたい」といってジョイを絶望させる。ジョイは17歳の時に誘拐拉致され、以後「オールド・ニック」と呼ぶ誘拐犯の暴行を受けつつ、ルームで妊娠・出産・育児をやってきたのだ▼ジャックは生まれたときから「ルーム」がすべてだ。「洗面器さん、おはよう、トイレさん、おはよう、テレビさん、おはよう」すべての調度品に声をかけ、「僕、5歳だよ」。今日は彼の誕生日。ママはあるだけの材料でケーキを焼いてくれた。ジャックはテレビで見たケーキにはろうそくがついていた、このケーキにはない、いつも来るおじさんに、ろうそくを持ってきてもらってくれと怒る。ジャックにわかるようにスラスラ説明など、どうしたらできる、ジョイは息子を抱きしめるしかない。狭い室内で、体力を衰えさせないためのストレッチ、壁から壁への駆けっこ、ジャックはそれらの運動をママと楽しそうにやる。部屋にはテレビ、トイレ、キッチン、バス、最小限度の生活設備があり、男が週一度やってきて、食料品や日用品の補充をする。ビタミン剤が切れた。栄養のあるものが欲しいとママがいうと、俺は失業中だ、贅沢いうな、お前たち誰のおかげで暮らせているのだと男は居丈高になる。男がママとベッドにいる間、ジャックはクローゼットに隠れている。高い天井に天窓が一つあるだけ、洗濯物は綱を張った室内で干す。鉄のドアの暗証番号は男しか知らない。男を殺したらこのドアは開かないのだ。身の毛がよだつ状態である▼必死になれば脱出の方法はあったはずだと、ここでいいだしたところで後出しジャンケンだろう。監禁されたままでいるしか、食べていける方法はなかったのだ。モンテ・クリスト伯爵の「死体になって脱出する」方法で、ジョイはやっとジャックを逃がす。脚が弱っているジャックは思うように走れない。犬を連れた散歩中の男性が、腕ずくでジャックを引きずるニックを見て「虐待だ」と通報する。駆けつけたパトカーの女性警官が抜群に頭の切れる人で、ジャックの片言隻句からただならぬ状態を察知、直ちにヘリを動員して、近距離中の住宅街の「庭にある納屋」を捜索、ジョイは救出され、男は逮捕された。映画は以後ぷっつりと誘拐拉致犯に関して触れず、母親と子供の「その後」にフォーカスする。心身ともに被ったダメージが、じわじわと浮き上がってくる。ジョイの父親は、母親と離婚しているが、遠いところから駆けつけ、娘と孫の無事を喜んだ。しかし同じ食卓に座っても、祖父は孫の顔を正視できず、そそくさと席を立つ。「パパ、どうしてジャックの顔を見てくれないの」と訊く娘に「見られないよ」と答える。どう対応していいのかわからないのだ。マスコミは明けても暮れても家を取り囲んでいる。ママがインタビューに応じた。「父親のことをどう話しますか」という質問に「彼の子じゃない。父親とは子供を愛する人のことよ」とジョイ。「それでも、生物学的な意味で、ですが」とインタビュアー。「ジャックの親はわたしだけよ。あの子にはわたしがいるわ」「でもそれが最良の方法だった?」これじゃたまらないね。ジョイは発作的に自殺未遂を起こす▼ジャックは「世界なんか、嫌いだ。天窓のある部屋に帰ろうよ」という。ジョイはいつもジャックに「外には世界があるの。テレビで見たものはみなホントにあるものなの。とても広いのよ」「あの部屋だって広い。部屋の隅っこが見えなかった」ジャックにはジャックなりの、過去と現在の亀裂があり、ジョイにはジョイの適合拒否反応があった。二人には時間が必要だった。ジョイの母親は冷静に孫に対応し、適応を急がなかった。ジョイの継父も寛容な人だった。ある日ジャックが言った。「部屋に帰ろうよ。ちょっとだけ」。息子の口調には苛立ちはなく、懐かしみだけがあった。ジョイは一緒に納屋を訪れた。「これがルーム? 何もないね。それに縮んだの?」「警察が証拠品として家具をみな、持って行ったの」ジャックは声をかけた。「さよなら、洗面台、さよなら、天窓。ママも部屋に、さよならをして」どんなアラ探しをしても、それがたとえ、いかほど正鵠をうがったものであったとしても、「部屋にさよならを」と言う息子の言葉には、ジョイの身になれば万感胸にこみあがるものがあるだろう。ジョイ役のオーディションで最終まで残ったのはブリー・ラーソンとシェイリーン・ウッドリーでした。「ダイバージェント」などで注目されているウッドリーに比べ、知名度でイマイチだったラーソンが、役だけでなく、アカデミー主演女優賞まで射止めました。彼女は不健康な表情を出すため、ノーメイクはもちろん、撮影中一度も顔を洗わなかったそうです。

 

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