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特集「ベストコレクション」

2016年11月13日

特集「凍れる月のベストコレクション」⑬
ボーダー・ライン(2016年 社会派映画)

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監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ

出演 エミリー・ブラント/ベニチオ・デル・トロ

 

シネマ365日 No.1934

古いのよ。 

エミリー・ブラントのヒロイン、ケイトが始めから終わりまでコテンパンの目にあいます。彼女はFBIからCIAの特殊チームに引き抜かれ、世界一、危険な街ファルスに来る。街路には首を切り落とされた全裸の死体、腕や脚のない死体が何体も釣り下がり、日常の光景となっている。麻薬取引に不利な何かをした罰として、残虐な殺され方をされ見せしめになったのだ。人間をこんなめに合わせる奴を相手にするなんて命あっての物種、とにかく先にやっつけなくちゃ、と思うでしょ。でもケイトは法を守り手続きを大事にするアタマの固いマジメ女子。渋滞中の道路で襲撃され、銃撃戦となるや、敵をバンバン射殺する特殊部隊の連中に、法を無視していると怒り狂うが相手にされない。ケイトが関心を持った男、コロンビア人のアレハンドロは麻薬カルテルの手先で、妻と娘を殺され、復讐に燃える殺し屋。法も正義もクソくらえ▼おまけに、特殊部隊が自分を「引き抜いた」のではなく、CIAが国内で行動するにはFBI捜査官(まあまあのレベルならだれでもいい)の同行が必要という、それこそ員数合わせみたいな手続き上の問題でしかなかったとわかり、自尊心ズタボロ。さらにおとり捜査に利用され怒り心頭に発するが、ケイトの怒りなど、アレハンドロは歯牙にもかけない。ケイトはだんだん自分の価値観に疑問を感じる…となるが、こんな切り替えの遅さで激戦区ファルスの仕事ができるのか。アレハンドロでなくともまともに相手にしないだろう。かわいそうな役。エミリー・ブラントはなんでこんな貧乏くじを引いたのだろう▼メキシコからの不法移民を防ぐため、アメリカ・メキシコ国境には、高く長いフェンスが続いている。ファルスはアメリカに麻薬を密輸するためには、どうしても通過しなければならない街であり、ここを越えれば500億ドルの北米麻薬市場だ。国境警備が厳しくなり、麻薬売買で稼ぎが落ちたカルテルが手を出したのが少女人身売買だった。家計を助けるため市内に働きに来た若い娘たちの失踪が相次ぎ、両親が捜索を頼むが警察は動かない。ファルスでは警察よりカルテルの力が強い。警官の買収は日常化している。失踪した女性たちは商品にされ、あるいは殺された。郊外で白骨化した遺体が多数発見された。ファルスは法と秩序が失われた街だ。アレハンドロは職務に誠実なメキシコの検事だった。ある日、妻は首を切断、娘は酸に浸かった姿になった。復讐のため悪に身を捧げた彼に、人間性が残っているかどうか、もうわからない▼アレハンドロはカルテルの首領の自宅に潜入し、家族もろとも射殺する。彼は特殊部隊の捜索はすべて法に準じた行動であったという書類に、サインしろとケイトに強要する。できないというと「君はここで自殺することになる」こめかみに銃を当てる。ケイトはサインする。怒りの余り、アレハンドロを撃とうとしたが撃てなかった。このたびのエミリー・ブラント、踏んだり蹴ったりの目にあうだけでなく、ためらいが多いです(笑)。ヴィルヌーヴ監督の作品には「灼熱の魂」「プリズナーズ」「複製された男」があります。どう見ても屈折系・複雑系・難解系だわね。清々しいエンドとは無縁。本作は特に気が重くなる。ただ、法と正義の運用とは、状況によって変化する要素が多々ある。それにしたらケイトのキャラは「紋切り型」過ぎたわね。劇中こんなセリフがありました。「女のほうが原理原則に忠実だ。女性は結果によって手段を正当化しない」▼だからケイトみたいな、男に都合のいい使い方をされたってわけね。このステレオタイプ、いつまで続くのよ? 女はみな心のどこかに「最高のビッチ」を隠している。少なくとも本能的にビッチが、ラディカルであることが、わがままが好きだ。この映画ヒットしたみたいね。社会派の重苦しい映画だったことは認めるけど、小突き回されてばかりいたヒロインに魅力を感じた? ああそうか、男社会で受けるには、女はどこかでやっつけられる必要があるのね。はかなさとやり切れなさでしょんぼりし、無常を噛み締めるヒロイン。まあいいけど、女性客は横向きそうね。古いのよ。

 

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