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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2016年12月1日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力4」①
エクスポーズ 暗闇の迷宮(2016年 サスペンス映画)(上)

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監督 デクラン・デイル

出演 キアヌ・リーブス/アナ・デ・アルマス/ミラ・ソルビノ

 

シネマ365日 No.1952

進化するキアヌ

美しい虚無-妄想映画の魅力4

俳優、というより映画人としてのキアヌ・リーブスの水位が最近とみに上がっている。「スピード」でキアヌにいかれてしまって以来、散々悪口を書き、書くことがなければ太り過ぎだとか、髪が薄くなったとか、人がもしそんなことを書いたり言ったりしていたら、少しは黙って見ていてやればどうかとたしなめるにちがいないほどイチャモンをつけてきたが、さあいつくらいからだろう。ただの美青年ではない、花も実もある男の陰影を身に帯びてきたのは。なんの意味かわからない邦題「雲の中で散歩」でキアヌはブドウ園を守る誠実な青年を好演し、窓の下のセレナーデは、他の俳優ならとてもこうまで胸キュンにはさせられまいと思えた。進化してきたなあ、と感じたのは「ギフト」で、占い師のケイト・ブランシェットに絡む DVのサイテー男や、「スウィート・ノベンバー」で、シャーリーズ・セロンを意地悪くバカにする傲慢男を演じ、憎らしげな悪人ヅラをこしらえた▼キアヌは案外頑張るぞ、そう驚いたのは「恋愛適齢期」だった。共演はダイアン・キートンにジャック・ニコルソン。煮ても焼いても食えない古狸と大狸に脇を挟まれ、キアヌは善戦した。善戦という言葉が不必要なくらい、自然な「キアヌ君」に好感度いや増し。続く「コンスタンティン」はヨレヨレの上着にヒン曲がったネクタイで世を拗ね、ティルダ・スウィントンに罵詈雑言を浴びせ、これじゃ、どこでのたれ死にしても当たり前だと思わせる「ぼっち」スタイルを確立。もちろん多くの作品の中には「イルマーレ」という、何度説明されても訳のわからない、妙な映画にも出ていたけれど(共演がサンドラ・ブロックで、仲のいい兄妹か友情もので、どう見てもラブストーリーには見えなかった)、そのうちキアヌは制作や監督を兼ねるようになった。「何を撮るやら」という周囲の冷視にもかかわらず、キアヌは淡々と仕事をこなし「ジョン・ウィック」では「映画に登場する殺し屋ランキング1位」に輝いたのである。とある映画会社が行ったアンケートの結果によるもので、ワンちゃんの復讐のためギャングを撃ち殺すなんて、キアヌらしい殺し屋という賛辞を読んで、これこそ真のキアヌ・ファンの捉え方だと感じ入った。わたしなど「え? 復讐って犬の復讐のことだったの?」な〜んだ、と「シネマ365日」に書いた、動かぬ証拠があるから共感の浅かったこと、恥じ入るばかりである▼そして「砂上の法廷」で、中年男が漂わせる哀愁を鮮やかに彫琢したに至っては、心から拍手した。相手役もよかった。レネー・ゼルウィガーだった。当たり役「ブリジット・ジョーンズ」を離れ、低迷の時期を抜けようとするゼルウィガーと、表向きは順調に人生を生きて来た中年男が、いつしか心に巣くわせた闇との葛藤。思えば悪に侵犯され偽りの成功に心を奪われる人間の弱さは「ディアボロス/悪魔の扉」以来、キアヌの命題となった。これを受け、彼が悪と侵犯に渡り合う戦う男を、知能と肉体で体現するキアヌの、終生の代表作と呼ぶに足りる「マトリックス」が次に控えていた。キアヌは肉体とカンフーの信者である。自分の太りやすい体を極限まで鍛錬し、汗を絞り出すことにマゾ的快感を覚えている。真面目な青年にありがちな「鍛錬好き」はキアヌも例外ではない▼このあたりで本題に入ろう。「エクスポーズ」とは「暴く、さらす」ですね。暗闇の迷宮を暴くのか、さらすのか。本作でもまたキアヌは、澱(おり)のように沈んだ淀みの底に、誰でも何か、いうにいえないものを持っている、説明できない何かを抱えている、そういう前提で映画を進めます。彼の映画は最近だんだん暗くなっていきそうですが、52歳(2016)という年齢からしても、おめでたい人間賛歌は飽き飽きした、浅はかで、愚かで、残酷で、誰も助けられないものを持って人は生きていかなければならないときがあり、幸福らしきものが訪れても、それが幸福とわからないほど、人生を信じられなくなっていることだってある。そんなときはどうすればいい。神に祈るのか。それとも狂うのか。それとも妄想に迷い込むのか。ニューヨーク市警の刑事スコッティ(キアヌ・リーブス)は、同僚の刑事を殺した犯人の素顔と真実を捉えたとき、あまりの哀れさに言葉を失います。原題はDaughter of God(神の娘)です。

 

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