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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2016年12月6日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力4」⑥
デビルズ・バックボーン(2004年 ホラー映画)

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監督 ギレルモ・デル・トロ

出演 エドアドル・ノリエガ/マリサ・パレデス/フェデリコ・ルッピ

シネマ365日 No.1957

悪魔の背骨 

ギレルモ・デル・トロ監督の初期作品。彼が脚本に関わった、人気シリーズの大作「ホビット」3部作より、小ぶりで地味なこっちのほうがずっと好きだな。スペインの内戦・孤児院・子供・幽霊と、トロ映画の源泉ともいえるイマジネーションが出揃っているわ。ビッグスターがぞろぞろ出ている割には、どの役もみな、他の誰がやっても代わりが効きそうだった「ホビット」に比べ、エドアルド・ノリエガが悪の、マリサ・バレデスが哀れさの、フェデリコ・ルッピが不気味さの極致を受け持ったこの映画が、どれだけ味わい深いかわからない。傑作「パンズ・ラビリンス」(監督)でも「永遠のこどもたち」(脚本)でも「パシフィック・リム」でもそうだったけど、トロ映画の叙情には自己犠牲の哀しみの裏打ちがある▼内戦という祖国の悲劇を背景に、見渡す限り麦畑の真ん中に、忘れられたような孤児院、そこで働く若い女性コンチータ、親から捨てられ、カルメン院長(マリサ・パレデス)に拾われたものの、欲望と憎しみに凝り固まっている青年ハシント(エドアル・ノリエガ)、二分脊椎症で生まれ、背骨が露出した胎児のラム酒漬けを生薬として服用する医師のカザレス(フェデリコ・ルッピ)、地下には底の見えない濁った水を貯えた深いプール、ハシストと卓を囲んでポーカーをやる出入りの農夫たちは、希望のない戦争に言葉も態度も陰気で暗くなっている。少年カルロスが預けられたのはそんな孤児院だ。カルロスのベッドは12番。行方不明になった少年サンティのベッドだった。カルロスは夜、不思議な物音を聞き、影法師や、廊下に立つ少年が見えた。サンティ少年はどこへ消えたのか。中庭には突き刺さった巨大な不発弾。知っているが誰も口にしないサンティの謎。色と金に煽られ憎しみを日々増幅させるハシント。そこへ何か言いたそうに現れる少年の亡霊。院長を愛しながら不能ゆえ怪しげな生薬に頼り、院長とハシントの情事を見て見ぬ振りする医師。ミステリーとサイコ・ホラーが混合する後半となります▼孤児院は共和派の隠れ拠点でもあり、密かに金の地金が運動資金として蓄えられていました。ハシストは、一度は金を狙って泥棒仲間と襲撃しますが、あるはずの金がなく、仲間の二人はジープを奪ってトンズラする。残るハシストは執拗に院内を調べ回るが見つからない。ハシストは怨念の象徴だった孤児院に火を放ち、炎上させます。院長は瓦礫の下で息を引き取り、医師は重症、カルロスは生き残った子供から、サンティ殺害の真相を打ち明けられる。院長の遺体の、義足に詰められた地金をハシストは発見する。それを持って逃げようとするが、サンティの亡霊はカルロスに訴えるのだ…後半は少年たちがハシストに立ち向かい、サンティが殺されたプールにおびき寄せ、死生を決する乱闘となります。本来ならアクション場面なのですが、バックにいるのが何しろ亡霊で、地下の不気味な貯水池という場面でもあり、活劇というより幻想ムードが勝っている。最後は、悪漢ハシストはサンティ少年の魂に引きずり込まれ、貯水池に水没。崩壊した孤児院を後に、少年たちは町まで歩くことにする。町まで丸1日かかる。コンチータは建物が焼け落ちた後、救助を求めて歩いて町に向かったのですが、途中で会ったのが、これから孤児院を襲撃に行こうとするハシスト一味だった。彼女は気丈にもハシストに味方せず、殺されます▼麦畑の一本道を少年たちは歩き出す。子供の足でどこまでいけるかわからない。怪我人に肩をかし、足を引きずる少年もいる。それを焼けあとの一画からカザレス医師が見送っていた。むろん彼も亡霊だ。「幽霊はここにいる」という彼のモノローグで映画は終わります。悪も善も良心も地金も命も何もかも灰になる。スペインの透き通るような青空の下の惨劇も悲劇も、そんなふうに終わります。本当の「悪魔の背骨」(デビルズ・バックボーン)とは、尽きることなく生み出される人間の所業、悪の連鎖を指しているのかもしれません。

 

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