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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2016年12月9日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力4」⑨
夜顔(2007年 恋愛映画)

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監督 マヌエル・ド・オリヴェイラ

出演 ミシェル・ピコリ/ビュル・オジエ

シネマ365日 No.1960

悪夢の使者

美しい虚無=妄想映画の魅力4

マヌエル・ド・オリヴェイラのペテンにかかったような映画です。鶏がホテルの廊下にヌッと現れたときはまいったね。本作はルイス・ブニュエルとジャン・クロード・カリエールに捧げるという献辞から始まります。もちろん1967年に日本公開された「昼顔」の監督と脚本家です。「昼顔」に対するオマージュですが、原題は「変わらない美女」。主人公アンリ(ミシェル・ピコリ)のセヴリーヌに対する一途な、というより変態チックな思いがこもっています。それというのも「昼顔」で、カトリーヌ・ドヌーヴが演じたセヴリーヌが娼婦「昼顔」となって、男たちとサディスティックな性愛にのめり込んでいる秘密をつかんだのがアンリ。「昼顔」は見ていなくてもちゃんとわかるように作られていますが、しかし40年も前の夫婦の「秘密」がああだ、こうだといったところで、セヴリーヌの旦那はもう亡くなっているのだし、どんな秘密だろうとどうでもいいじゃない、と思うのが普通でしょ?▼ところがオリヴェイラの手にかかりとそうじゃなくなる。セヴリーヌ(ビュル・オジェ)は、コンサートで偶然アンリに会う。いちばん会いたくない男だからうまくまいたのに、しつこく後を追って、とうとうホテルを探し当てた。セヴィリーヌもそこまで嫌な男なら会わなければいいのに、会ってしまったのは「夫が自分の秘密を知っていたかどうか」つまりアンヌは夫に「自分が娼婦をやっていた秘密を教えたのか」知りたかったからと言います。ミシェル・ピコリが80歳になっているアンリを、サイコーにいやらしく演じます。バーに入るとウィスキーをストレートのダブルで3杯お代わり。明らかに依存症である。バーには常連の娼婦がふたり、客待ち顔で座っている。アンリに話しかけるバーテンが、実に哲学的です。曰く「打ち明け話にいちばんいい相手は、聞き流してくれる相手です。赤の他人か僕のような中立の立場で、素性を知らず、二度と会わない相手です。壁や井戸の底を相手に話すような感じがいい」▼もうすでにオリヴェイラの詐術は始まっていて、現実の世間では、だれが見も知らぬ、二度と会わない相手になど、親密な打ち明け話をするでしょう。アンリがこれまた、じれったいイジイジする、回りくどい昔話を思わせぶりに繰り返す。40年もたてば記憶は変質し、嘘か本当か、つまり現実か虚無か妄想かが入り混じっているのが実際です。それを、え、なんだ? セヴィリーヌは夫に自分の性癖を、マゾを隠すことで燃えたのだって? 見たのかよ、キミ。嘘ばっかりつくな。しつこく追い回してアンリはセヴリーヌに夕食をとることを約束させます。さあ、その夜はたいへん。お土産を用意し、ホテルの一室でディナーの用意。クラシックな室内にはキャンドルがともり、アンリは何度も窓辺によってセヴリーヌの到着を待つ。やっと車が着いた。嬉々として迎えるアンリに、セヴリーヌはボソッと「来たくなかったわ」▼ディナーの雰囲気は豪華だが運ばれたのはたった3皿。アンリとセヴリーヌの年齢ではそれくらいがいいのかも。アンリはウィスキーを美味そうに飲み、セヴリーヌはシャンパンを。フォークとナイフの音だけが小さく響く。乾杯からデザートまで簡単に終わる食事を、監督は逐一、真横のアングルから撮ります。思えばこの映画は、たいして必要ない、どうでもいい要素に始まり、終わるのです。それというのも「最大の秘密」(どこが最大かと思うが)をアンリがいつセヴリーヌにいうか、問題はそれだけ。「わたしが知りたい、重い過去を思い出してくれた?」とセヴリーヌ。「罪の重さか」とアンリ。「その通り、心がさいなまれる。今のわたしは過去のわたしとは別人。最後は修道院に入るような気がする」入ったらいいだろ、誰に気兼ねするわけじゃじゃなし。健全な常識に照らすとバカバカしいとしかいえない内容を、オリヴェイラはセリフと俳優を駆使してたらし込むのです(笑)。引き摺り回された観客に、やっと聞かせてくれたアンリの「告白」は「わたしが君の秘密を夫に話したか話さなかったか、よく考えたほうがいい」このいやらしい言い方。「俺が本当のこと、お前にいうと思っているのか」とはっきりいってやれ、くそじじい。セヴリーヌは怒り心頭に発し、椅子を蹴って出て行く。バッグを忘れた。アンリは中を改め「金が入っている」とボーイらのチップにする。どうよ、この品性。セヴリーヌが出て行き、開けっ放しになったドア。そこへ雄鶏が現れる。でかいトサカの堂々たるニワトリです。何なの、これ? ニワトリは首を巡らし、アンリを睨みつけてゆっくり胸を張って歩き、廊下から姿を消す。続いて給仕長らが、ニワトリがいるぞとも、どこから来たともいわず入ってきたところを見ると、本当のニワトリがいたわけじゃないのね。フランスの代表選手たちのシンボルにニワトリがついているのは、ああ、そう、調べたらフランス国家の、そして男性のシンボルだって。ニワトリはアンリに「おい、残念だったな、40年待ったあげく、空振りかよ」と冷やかしに出たわけ(笑)。オリヴェイラ独特のどんでん返しってあるの。「永遠の語らい」では、優雅な食事のテーブルについた美女たちが、文化の香り高い話題を楽しむ、そこへテロ事件勃発で大爆発、悪夢に逆転する。このオンドリだってオリヴェイラがつかわした悪夢の使者よ。

 

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