女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss
  • ブックマーク

特集「銀幕のアーティスト」

2016年12月27日

特集「銀幕のアーティスト6」⑨
天才贋作画家 最後のミッション(2016年 家族映画)

Pocket
LINEで送る

監督 フィリップ・マーティン

出演 ジョン・トラボルタ/クルストファー・プラマー

シネマ365日 No.1977

日傘をさす女 

特集「銀幕のアーティスト6」

レイ(ジョン・トラボルタ)は天才的な贋作画家。息子が末期ガンとわかり、出所までわずか9か月というとき、ギャングのボス、キーガンに頼んで刑務所を出る。キーガンはレイを密告し、刑務所に送った男だ。レイの父ジョゼフ(クリストファー・プラマー)は昔気質の詐欺師だ。キーガンがどんなに汚い男か知っている。あんなやつに頼んで、と怒るが取り返しがつかない。案の定キーガンの交換条件はボストン美術館に展示されるモネの「日傘をさす女」を盗め、という無理難題。レイが贋作を描き、本物と入れ替えて展示し、本物はブラック・マーケットに売るという計画だ。期間は3週間。断れば刑務所に逆戻り、息子には一生会えない▼レオは引き受ける。ここから贋作を仕上げるまでの制作手順がよくできていて、画材を整えたトラが、木炭でキャンバスに素描していく手際なんか、玄人裸足よ。レイの親友カールがレイの辛い立場をよく理解し、全面協力する。たとえ贋作であれ、泥棒稼業であれ、気持ちのいい友だちです。息子ウィリーは5年ぶりに出所してきた父親に打ち解けない。「お母さんに会いたい」とジョゼフにいうと、爺ちゃんは「忘れろ」とにべもない。父親に三つ、いうことを聞いてくれ、最初の願いはママに会うことだという。多分娼婦だったママは、今はジャンキーで、バラック小屋に一人で住んでいる。それでも産んでから会っていない息子のために、精一杯身なりを整え、話し方に気をつけ、ランチのテーブルに着く。「綺麗ないい人だった」とウィリー。「パパ。嘘をありがとう。ニューヨークで生活している嘘。麻薬中毒者でないふりをしている嘘」。二つ目は「死ぬまでにセックスしたい」。パパは売春宿に連れていく。そこへ、レイにつきまとっている麻薬捜査官が踏み込み、寸前のウィリーを引き剥がしレイは逃走。二つ目はおじゃんとなった。三つ目は「パパの仕事を手伝わせて」▼レイの夢はゴーギャンのようにタヒチの海岸で絵を描くことだ。俺は贋作画家だ、まともな画家になれっこないというレオに「そんなことない、パパの絵はすごい。タヒチに行こう」とウィリーは励ます。こうなれば親子共々、アメリカ脱出、最後の大仕事をしてのけよう。もちろんジョゼフはあっといわせる騙しのテクをひねり出す。つつがなくまとまった後味のいい映画です。無理に息子を死なせることもせず、爺ちゃんが流れ弾に当たるわけでもない、土壇場でレイが御用になることもない。しかしこの映画の主人公は誰かといえば、これ、モネの人物画の最高「日傘をさす女」でしょうね。モデルはモネ夫人カミーユと息子のジャン。妻を描くモネの幸福感が、明るく心地よい風の吹く画面から伝わってきます。青空に浮かんだ白い雲。眩しそうに画家の父親を見つめている小さな息子。カミーユは小高い丘に立ち、日傘を広げ、自分を描く夫に視線を当てている。キャンバスの中に画家はいませんが、幸せな「家族の肖像」であることが生き生きと伝わる傑作です。芸術がもし人を幸福にするためにあるものだとしたら、これこそその一作でしょう▼しかしカミーユはこの絵ののち4年後に亡くなります。モネは亡き妻と同じモチーフの日傘をさす女性を2点、描きました。バックは同じ青空と白い雲。女性はパラソルを傾け、もの思いにふける。佇んでいる丘も同じです。右を向いているポーズと左を向いているポーズの2点ですが、やはり最初の絵とちがい、とりとめのない茫漠感は否めない。モネは右側を向いた女性の絵を気に入り、売らずに一生手元におきました。カミーユの表情がはっきりしている最初の作品に比べ、二作目は捉えどころがなく、今にも風にかき消える、幻のような印象を与えます。モネはモデルではなく、妻の幻影を描いたのに違いない。これ以後モネは風景画と睡蓮の連作に打ち込み、二度と人物を描くことはありませんでした。贋作を書きながらレイが息子に説明します。「ある晴れた日。季節は春。カミーユはモネを見ている。モネの妻と8歳の息子だ。贋作? この絵の偽物は作れない。絵の内側に入り込むのだ。モネの感情をつかみ取れたら、多分、描ける。よくすり潰せ。1875年に公害はなかった。鉱物も汚れていない。やがて自動車が走り、工場が建ち、鉱物に少しずつ黒いシミが現れる。すり潰したらオイルを混ぜろ」。父親の指示を受けた息子がいう。「パパの仕事すごかった」「絵を描いて暮らしたかった」「やれば? できるよ! パパも爺ちゃんも人生を生きている。僕も自分の人生を生きたい!」。仕事に打ち込んでいる男って、息子も惚れるくらいカッコいいってことよ。ウィルの初体験? 元カノと無事済ませ、盛んに仔細を聞きたがる爺ちゃんに「関係ないだろ」。クリストファー・プラマーはどんでん返しを決める真打の登場です。俳優もここまでヴィンテージになると、立っているだけで絵にも芝居にもなる見本みたいなシーンでした。

 

Pocket
LINEで送る