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特集「銀幕のアーティスト」

2016年12月28日

特集「銀幕のアーティスト6」⑩
ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド(2007年 ドキュメンタリー映画)

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監督 キース・フルトン/ルイス・ぺぺ

出演 ルーク・トレッダウェイ/ハリー・トレッダウェイ

シネマ365日 No.1978

魂の双子 

特集「銀幕のアーティスト6」

オープニングに歌われる「ドゥーラとドーラ」を、映画を見終わってからもう一度聴くと、なお胸が締めつけられる。歌っているのはトム(ハリー・トレッダウェイ)とバリー(ルーク・トレッダウェイ)。二人は結合体双生児だ。人里離れた荒野、イギリスの東海岸、レストレンジ岬で隔離されて育った。母親は双子を産んだ翌日亡くなった。赤ん坊を見ることはなかった。双子は胸で繋がっていた。父親は二人を世間の目に触れさせず、学校にも行かせず、家で勉強を教えた。楽しかった、と姉ロビーは語っている。双子は愛らしかった。兄貴分のトムがバリーの肩を抱き、バリーはトムの腰に腕を回し、走ったり、サッカーをしたり、デングリ返りをする。眠るときは、バリーが頭をトムの胸に乗せて。父親は将来、彼らに安定した収入を考え、興行主のザックに売った、といえば聞こえが悪すぎると思う。少なからぬお金は受け取ったが、このままの姿で世間に出しても、見世物になるしかないと父親は思い、自立できる仕事を身につけさせようと考えたのだ。当時のザックは音楽界の大物だった▼ザックの別荘、オックスフォードシャーのハンブルデン荘はザックが作った「不思議の国」で、世界中からフリークス(奇人)が集まっていた。間もなく双子は「不思議の国」のメインとなった。ザックが双子に望んだのはポップ歌手。「ザ・バンバン」と命名した。これからわずか1年余が、旋風のように現れ、風のように去り、荒野に消えたふたりの活動期間だ。性格は正反対だった。トムはミュージシャンになるために熱心に練習する努力家。バリーは態度が悪く反抗的で、マネージャーに殴られることもしばしば。しかし「バリーは自分だけの世界を秘めていた。人は田舎の悪ガキと思っていたが、もっと深い奥底に、何かがある子だった」とマネージャーは捉えていた。そんな彼に、バリーは言うことをきくようになった▼「ザ・バンバン」を組んだふたりへのザックの注文は「ふたりのテーマとなるセクシーな曲」だった。生まれたのが「ふた通りのロミオ」。ザックは双子が儲かるかどうか、小手試しのライブをやらせた。場所は田舎のパブだったが、いい新進バンドを輩出していた。荒くれた客が、抱き合って歌う双子に「引っ込め。ホモ野郎」とヤジを飛ばした。バリーは客に向かってやり返し、シャツを引き裂き結合部を見せた。ふたりを繋いでいる帯状の皮膚が露出し、客たちは「もっと見せろ」と叫んだ。双子の前に女性記者ローラが現れる。彼女はトムに惹かれ愛し合うようになった。ローラが言うには「彼らには秘密の友だちがいて、その友だちは悪夢を見させていた。ふたりはよく、あいつの古いイタズラさ、などと囁きあっていた」。バリーは疎外感を持つが、ローラは二人を冷静に理解していた。「トムはうちに秘めた静かさが魅力。バリーはとても繊細。だから彼が私に取る乱暴な態度も許せた」▼アルコールとドラッグが双子を襲う。1975年9月、初めてのアルバムの録音が終了した。「二人の秘密の友だち」とは医師によれば「バリーのむら気、落ち着きのなさはアンフェタミン中毒を示すが、腫瘍によっても同じ状態は生じる。バリーの頭蓋にある影は第三の胎児を宿していた可能性がある」。ともあれ初アルバムの収録が終わり、10月、ザックに披露するライブでその事故は起きた。ドラッグでハイになっていた二人は、叫ぶように、挑むように歌いながらもみくちゃにされ、興奮したトムがバリーを殴ったのだ。どっちもまともな状態ではなかった。マネージャーがバンブルデンの別荘に連れて帰った。姉が屋敷に迎えにいったときは「廃人同様でトムは恐怖で泣いていた。連れて帰ってといった。バリーは空を見つめるばかりだった」。岬の荒野に戻った双子は長く生きることはできなかった。姉が二人を発見したときは、寄り添って死んでいた。バリーが先に死んだと姉はいう▼彼らの実在感をスクリーンで示すのは、もちろん双子を演じた美しい兄弟だ(彼らも双子)。しかし、それ以上に強烈なものは彼らの残した歌だろう。冒頭「ドゥーラとドーラ」は傑作だった。ブリティッシュ・ロックの中でも最高だろう。「ドゥーラは俺の靴の中/なぜドゥーラは外で遊ばない/なぜドーラはもう話さない/ドゥーラに突き落とされ、目を突かれた/ドゥーラにやらされ/ドーラに泣かされた」。ローラは何度かトムが「あいつが囁いている。名前はないんだ」というのを聞いた。ローラは「悪い夢よ」とはいったが、第三の胎児のいることを疑っていなかった。それは胎児というより双子の魂であり、いや双子だけでなく、すべての人間が持つ「もう一人の自分」だった。姉はいう「ドゥーラとドーラがいるのはわたしの靴の中よ」。ローラもいう「わたしにも秘密の友だちがふたりいるわ。ドゥーラとドーラよ」。それこそ双子がこの世に残した、魂の半身であるとローラは信じている。

 

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