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特集「銀幕のアーティスト」

2016年12月29日

特集「銀幕のアーティスト6」⑪
イル・ポスティーノ(上)(1996年 事実に基づく映画)

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監督 マイケル・ラドフォード

出演 マッシモ・トロイージ/フィリップ・ノワレ/マリア・グラツィア・クチノッタ

シネマ365日 No.1979

島の郵便配達人 

特集「銀幕のアーティスト6」

受賞が決まった後、ウンでもなければスンでもなく、てっきり辞退するのだろうと思っていたら何のことはない、謝辞と共にいただくことを表明したボブ・ディランのお騒がせがあったノーベル文学賞。映画化された受賞作は多いです。パステルナークの「ドクトル・ジバゴ」、ゴールディングの「蠅の王」、フィッツジェラルドの「偉大なるギャツビー」、我らが川端康成は「雪国」。でも受賞者を主人公にした映画ってあったかな。本作の主人公パブロ・ネルーダはチリの詩人、政治家、思想家。ノーベル文学賞を受賞するまでの一時期、政府に追放されイタリアに亡命していました。イタリアでは「愛の詩人、イタリアに」と熱烈歓迎し、地中海の美しい島カプリに住まいを用意した。島の漁師マルコは漁師が嫌いだ。父親は「アメリカでも日本でも、どこでも行って仕事しろ」という昔ながらの頑固者。マルコは島に一つしかない郵便局が配達人を募集しているのを見て応募する。郵便の配達と言っても、配達区域で字が読めるのはマルコだけ。配達宛名人は詩人のネルーダだけだ。丘の高台にある詩人の家に郵便を配り、気さくに声をかけてくれた詩人に、詩が好きなマルコはどうやって詩を書くのか尋ねる▼この映画は詩人と青年の交流もさることながら、創作についてネルーダが話す内容が、シンプルで面白い。「隠喩だよ」「インユ?」「ある物を別の言葉でいいあらわすのさ」ネルーダの文学賞受賞理由は卓抜な隠喩にあったとされるほど隠喩は彼の武器だ。「例えば、空が泣く…どう思う?」「雨が降ること」「その通り。それが隠喩だ」「でもなぜ難しいインユという名前をつけるのですか」「人間というのは物事の単純さとは関係ないのさ」。「あなたの詩で気にいっているのがこういうところです。人間であることに疲れる…そんな気が俺もしたことがあったけど、うまく言えなかった。読んでとてもうれしかった。でも理髪店の匂いに涙してむせぶ、というのは俺にはわかりません」「マリオ、君が読んだ詩を別の言葉では表現できない。詩は説明したら陳腐になる。どんな説明より、詩が示す情感を体験することだ」「どうしたら詩人になれるのです? 詩を書いたら俺も女に愛されるかも」「入江に向かってゆっくり岸を歩きなさい。周囲を見ながら」「そうしたら浮かんでくる? インユが」「その通り」。海を見ながらネルーダは即興で詩を読んだ。「海は海そのもので、絶えず溢れている。いいといい、いやといい、またいいといい、波と泡の動きの中で嫌だと繰り返し、静かにしていない。わたしは海と言いながら岩にすがる。七つの緑の言葉と、七匹の緑の虎、七匹の犬七つの緑の海で岩を撫でながら口づけし、濡らす…どうだい」「変だ。変なのに聞いていると妙な気になった。言葉の海の中で揺れている」「うまい、それが隠喩だよ」ある日、スウェーデンから文書が来た。「ノーベル文学賞の候補だそうだ」「もらうのですか」「くれるというならもらうよ」「賞金は?」「17万1135スウェーデンクローネ」「大金ですか」「大金だとも。でも今年は手強い候補者が多いからな」「あなたにくれます、絶対」▼マルコがベアトリーチェに一目惚れした。島に一軒のレストラン兼バーの娘だ。「先生、彼女に詩を書いてくれ」「無茶言うな。見たこともない娘だぞ」「そんなこともできないならノーベル賞なんてとれるはずない」強烈な批判に、ネルーダはマルコを伴いベアトリーチェに会う。いい娘だ。それに美人だ。ネルーダは聞く「彼女と話したか」「いいや。でも彼女は話しかけてくれた」「なんと?」「女が珍しいのって」「君は一言もしゃべらんのか」「どういっていいのかわからない」「君の父上は、母上と結婚するとき何かいっただろう。聞いたこと、ないか」「何も言っていないと思う」。さすがのネルーダもお手あげで「これをあげるよ」本を一冊わたす。「隠喩の勉強になるよ」。マルコはせっせと詩を書いた。「君の微笑みは蝶のように広がる」。マルコはネルーダに「この島の美しいものを言いなさい」と言われ答えた。「ベアトリーチェ」「最高だ」詩人は激賞した。そして平安な日が続くかに見えたが…。

 

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