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特集「銀幕のアーティスト」

2016年12月30日

特集「銀幕のアーティスト6」⑫
イル・ポスティーノ(下)(1996年 事実に基づく映画)

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監督 マイケル・ラドフォード

出演 マッシモ・トロイージ/フィリップ・ノワレ/マリア・グラツィア・クチノッタ

シネマ365日 No.1980

詩の力 

特集「銀幕のアーティスト6」

ベアトリーチェのローザ叔母がネルーダにねじ込んできた。あんたが詩を教えるマリオが姪を誘惑したというのだ。「姪は二人で何をしていたと聞いても、何もしていないという。そんなはずはない。彼はインユを言ったというのだけど。どんなインユをされたと聞いたら、君の微笑みは押し寄せる銀の波だってさ。女と寝るとなったら司祭さまも詩人も共産党員もみな一緒だよ。それが言葉だけなんて、たちの悪い変態だよ。インユで姪を熱くした。もちろん触ったに決まっている。だって姪の裸は、滑らかで小さく丸く透明だって、書かれた通りだよ。触りもしないで書けないだろ」おばさんは頑固だけど姪を愛している▼ネルーダが立会人になって二人はめでたく結婚にこぎつけた。結婚式の祝宴に電報が届いた。ネルーダ夫妻の逮捕命令が取り消され、チリに帰れるのだ。それはマリオとの別れと、島に立った一軒しかなかった郵便配達先の消滅、マリオの失業を意味した。映画はここから暗転します。マリオが学び、愛した詩は彼が生きる上で、力になったのか、ならなかったのかを映していきます。ネルーダの詩業は世界に認められ、ノーベル賞も受賞した。各地で催される講演で、彼は新進詩人を発掘し、賞賛し、彼らは巨匠が認めた詩人として将来を約束された。彼はまたイタリアの思い出に触れ、一生忘れないとも語った。妻ベアトリーチェはテレビのインタビューを見ながらつぶやく。「それだけ? あなたのことをひとつも言わないのね」。ローザ叔母さんは手厳しい。「餌を食べたら鳥は飛び去るのさ」。チリから手紙が来た。家に残した荷物を送り返してくれという、秘書からの素気ない連絡文書だった。マリオには一行も触れていなかった。「自分の役に立つときだけ親切な男だったのさ」と叔母さん。「彼は俺が詩人の器でないことをわかっていて、兄弟のように付き合ってくれたのだ」そういうマルコに妻はきっぱりという「あなたは詩人の器よ」「詩人として無価値だから覚えていないのだ。郵便を配達した誰かがいたとなら、思い出してくれるだろう」▼マルコはネルーダが置いていったテープレコーダーに吹き込んでいた。「あなたは俺に言った。島の美しいものを言えと。あのときはベアトリーチェだと答えた。今はおれにも美しいものがわかった。だからこのテープを送る。あなたはいろんなものを俺に残してくれた。俺は詩を書いた。あなたに捧げる」録音されていたのは「岸辺に寄せる波の音、大波、断崖の風の音、茂みの風、父の悲しい投網を引く音、教会の嘆きの鐘、島の星空、パブリートの心音…」パブリートとは妻のお腹にいる赤ん坊のことだ。彼はそれらを音に取り、地区リーダーとして共産党の大会に出かけ、詩を読もうとする直前、暴動に巻き込まれ死んだ。ネルーダが島を再訪したのは、マルコの死の1週間後に生まれたパブリートが7、8歳の少年になっていたときだ。ネルーダが聞いたテープは、ベアトリーチェがネルーダに送るようにと、預かったものだった。妻はどうしても形見のそれを手放せなかった。マルコこそ妻が本物だと信じた詩人だった。妻からすればネルーダは、ノーベル賞で舞い上がり、友だちも恩も忘れる俗物に過ぎなかった。わたしを動かしたのは夫の詩だった…詩なんか何もわからない、字も読めないローザ叔母が「奴は裸を見たに違いない。だって姪の裸はあの通りだよ」そう信じて怒りまくった詩だった。愛を動かす力以外に、人が生きるために必要な力があるだろうか。美しいものが見えたのなら、それ以外に、何を見たいと人は望むのだろう…この映画、マルコにやられました。演じたマッシモ・トロイージは心臓疾患の持病があり、撮影中、発作に見舞われましたが、スタッフに「あなたたちに最高のものをあげる」そういって撮影を続行、撮了の12時間後に亡くなりました。41歳。英国アカデミー外国語映画賞、日本アカデミー外国作品賞受賞。

 

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