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シネマ365日

2017年1月10日

特集「じっくり見たいお正月の映画」③
サウスポー(2016年 スポーツ映画)

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監督 アントワーン・フークア

出演 ジェイク・ギレンホール/フォレスト・ウィテカー/レイチェル・マクアダムス

シネマ365日 No.1991

一瞬の左

じっくり見たいお正月の映画

満腹感に堪能します。拳ひとつで全てを叩き出したチャンピオン、ビリー(ジェイク・グレンホール)は、妻が喧嘩の流れ弾に当たって死に、どん底に落ちる。ボクシング? 判定を不服としレフリーに頭突きをくらわせ、罰金に制裁金に1年間の出場停止、もちろんチャンピオン剥奪、収入ゼロ。豪邸は売却、友人は去り、試合もできず、自殺未遂を起こして父親の責任能力なしと判断され、一人娘レイラは保護施設に収容。パパっ子だった娘でさえ冷たい視線を投げ親父のもとを去る。妻モーリーン(レイチェル・マクアダムス)とビリーはどっちも養護施設で育った。ビリーは母親が投獄され、生まれてすぐ施設に入れられた。12歳のとき女の子がそばに来てそれから離れなかった。刑務所に入ったときも待っていてくれた、それがモーリーンだ▼ビリーの戦歴は輝かしい。43戦全勝だったが、一度だけ判定で苦しんだ試合がある。その対戦相手のコーチがティック(フォレスト・ウィテカー)だった。彼の小さなジムを訪ねたビリーに、ティックはルールを教える。「汚い言葉を使うと腕立て伏せ50回。酒・ドラッグ・夜遊び・遅刻禁止。揉め事を起こすな。子供たちを立派な大人にするのが俺の仕事だ」。ビリーの最初の仕事はトイレ掃除だった。バカにするなと怒って去る。ありふれた、お定まりの展開だが、俳優たちの演技がひとつも大げさでないのに好感が持てる。掃除でもなんでもやると約束して再びジムに来たビリーに、ティックは「打たれすぎて2年もしたら廃人」と言われた彼のファイトと、真逆の「コツコツと打つ」地味なボクシングを教える。走り、掃除し、ジムでトレーニングを続けるビリーは、妻の死の遠因を作ったライバルのボクサー、ミゲルの華々しい成功を知る。彼は頂点に立っていた。引き換え、やっとチャリティの前座に出たビリーに嘲笑のヤジが飛ぶが、ビリーは今までと違う冷静な試合はこびでノックアウト。それを見ていたプロモーターがミゲル戦を持ち込んだ。このあたりの進み方がトントン拍子すぎて物足りないのですけど、まあいいか▼生活を立て直したビリーに、裁判所は娘の同居を認め、無事親娘で暮らせるようになった。それにしても、妻に死なれるとここまでメタメタになるという男を、ギレンホールが好演します。彼のボクサーとしての役作りも見事でしたけど、強くて弱い男の典型をよく演じましたよ。誰も褒めているのを読んだことないから、是非書いておきたいわ。ミゲルというボクサーは、過去のビリーと同じファイティング・スタイルなのね。打たせて打つ激震のメガパンチ。ティックは徹底的な防御とカウンターを、そして最後の秘策を授ける。なんかね、巌流島を目前にした武蔵を見るみたいなムードね。試合シーンは自分もボクサーである監督の気合がほとばしっています。ボクシングの生々しさがスクリーンを圧倒する。「ボクサーは試合のたびに自分の一部を失う」と監督はインタビューでいっていましたが、勝負と一体化した喪失感が、映画に深みを与えていました▼ティックは娘のレイラも甘やかしません。大人でも子供でも受けるべき人生の試練はある。娘が、自分が会いに行っても嬉しそうな顔をしないと、悲しむビリーにこういう。「相手は10歳の子供だぞ。母親を失ったばかりだ。気持ちの整理なんかつかない。母親の死がお前のせいで、お前を憎いと思っているのなら憎ませてやれ。それでレイラの気がラクになるなら。悲しみは彼女自身が乗り越えるしかない。お前の問題だと考えるな」と。試合の日が来た。「わたしもいく」と娘。「怖いぞ。ママは怖がったぞ」と父。「じゃ、控え室にいる」。控え室でもモニターで見るのだから、一緒なのですけどね。ゴングが鳴った。前半戦打たれる一方のビリー。しかし防御が巧みでダメージは少ない、中盤盛り返し、映画はついにクライマックス。どっちのボクサーも目を切り、マットを鮮血に染める。最終ラウンド。身を乗り出したティックが叫ぶ。「今だ、あれを出せ!」それまで右で戦っていたビリーが、サウスポー・ポジションから電撃アッパーカットを放った。このスイッチがティックの授けた秘策です。「サウスポー」の意味は「一瞬の左」でした。防ぎようもなくミゲルはマットに沈む…映画の醍醐味を感じます。細胞レベルの感動に、ストレスはぶっ飛ぶこと請け合い。

 

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