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シネマ365日

2017年1月13日

特集「じっくり見たいお正月の映画」⑥
アイリス・アプフェル! 94歳のニューヨーカー(上) (2016年 ドキュメンタリー映画)

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監督 アルバート・メイスルズ

出演 アイリス・アプフェル

シネマ365日 No.1994

人生を発掘する

特集「じっくり見たいお正月の映画」

成功する人ってみな明るい。この映画を見て幸せな気持ちになれるのは、アイリス・アプフェルが成功したデザイナーであり、全米で1、2を争うコスチューム・ジュエリーのコレクターであり、テキサス大学のファッション特別講座の客員教授であり、しかも彼女の講座を受けようと思ったらかなり競争率の高い選抜があるという、そういったことどもは付属品に過ぎず、彼女の生き方そのものが磁力を放っているからだ。監督はドキュメンタリーの名手、アルバート・メイスルズ。惜しくも2015年3月、89歳で亡くなった。本作は最晩年の記念碑的ドキュメントです。ニューヨークのカリスマ、アイリスの華のような生き方を、短い尺(80分)にもかかわらず、なぜアイリスはアイリスなのか、そんな質問と答えを繰り返し発したくなる、そんな映画に仕上がっています▼黒ぶちの丸い大きなメガネがトレードマークのアイリスは1950年、夫のカールとテキスタイルの会社、オールド・ワールド・ウィーヴァーズを立ち上げ、大成功した後にスターク社に売却した。40年にわたりメトロポリタン美術館やホワイトハウスのファブリックの修復を手がけ、引退後も独自のファッションセンスで、ニューヨーク・ファッション・シーンの重鎮として知られ、デザイナーやアーティストの支持が高い。2005年、メトロポリタン美術館のアイリスの企画展は今や伝説となった。同美術館服飾文化部の学芸員であるハロルド・コーダは当時の経緯をこう語る。「予定していた企画展が土壇場で開催できないことになった。開催は秋なのに初夏に企画が潰れた。ファッション工科大学で働いていたわたしはアイリス・アプフェルのコレクションを知っていた。アイリスが大量に持っているコスチューム・ジュエリーがあればなんとかできるかもしれないと思った。条件はつけない、あなたらしい展示にしてほしいと、100%全権委任した。サンローランやウンガロが押し込まれている部屋を見た。この膨大な服の中から唯一の組み合わせをどう生み出すのか、謎だった。同美術館では女性ひとりを、少なくとも生前に取り上げた企画展はそれまでなかった。予算が少なくて宣伝は口コミだった。ファッション界の異端児というポスターを作った。アイリスは80代の新人だった。彼女の遊びココロが受けた。メトロポリタン美術館の記録的動員数を今も誇っている」▼アイリスの言動が面白い。今の彼女は若いときより綺麗だ。すっと伸びた背筋でゆっくりと歩く。鶴のような立ち姿である。若いときからアクセサリー、服、ジュエリーに興味があって仕方なかった。ローマンズ(店の名前)によく行った。オーナーのローマン夫人はテニスの審判席のような高いところから、いつも店全体を見渡していた。「彼女に見られているかもしれないと思うと緊張したわ。ある日言われたの。あなたは美人じゃないわ。これからもね。でもスタイルを持っている」。組み合わせるものは高級品から安物まで、数かぎりない。長年勤めている家政婦は「奥様の持ち物は特別よ。何もかもゴージャスなの」というが、アイリスにいわせると「ハリー・ウィストンより5ドルのアクセサリーに心躍らせる」。バザーに行くと値段を確かめ、「高いわね」といって値切る。アイリスはケチだが、値切るのには美学があり、やたら安くしてくれと言えばいいものではないらしい。「値切るのは礼儀なのよ。30ドルのものを黙って30ドルで買ったら、売り手はこう思うわ。初めから50ドルにしておけばよかった」▼彼女の結婚生活はパートナーに恵まれた。カールは料理が得意な「理想的な夫」。どこにもないものが欲しいという顧客の注文を受け、ヨーロッパに買い付けに行ったのを機に、二人の旅行が恒例化した。あちこちのバザーで品物を見るアイリスの写真が残っている。アイリスがグリニッジ・ヴィレッジの小さな店に行ったのは11歳か12歳のときだ。叔母に似合うブレスレットを見つけて買いたかったがお金が足りなかった。必死で小遣いを貯め、ちょっと値切って65セントで買えた。物を買い集めるのが好きな人は、たいていただ買ってくるだけだけど「わたしは発掘しているの」。彼女が物と人生をどう発掘していったか、彼女自身の言葉から追ってみよう。

 

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