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シネマ365日

2017年1月15日

特集「じっくり見たいお正月の映画」⑧
ブロンド少女は過激に美しく(2010年 恋愛映画)

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監督 マノエル・デ・オリヴィエラ

出演 リカルド・トレバ/カタリナ・ヴェレンシュタイン

シネマ365日 No.1996

オリヴィエラの詐術 

特集「じっくり見たいお正月の映画」

眉ツバものとか、眉にツバつけて、とかいうでしょ。騙されちゃいけないよ、というときの注意として。マノエル・デ・オリヴィエラ監督の本作も同じよ。彼が101歳のときの映画だから、彼自身が半分化けているようなものね。でもね、大真面目な映画だと思っていると「夜顔」みたいに、いきなりホテルの廊下を、大きな雄鶏が胸を張って歩いていくとか、前後の脈絡や文意に関係なく、とんでもないおふざけの入るのがこの人の映画なのよ。インチキとペテン師と美味しそうな食事のシーンは彼の3点セットです。例えば「メフィストの誘惑」なんて、ゲーテも呆気にとられる大仰なタイトルで、オリヴィエラは何を言わんとしたか。古文学の権威ジョン・マルコヴィッチ先生は、怪しい古代の森でふらふらと美しい少女に浮気しそうになり、彼の妻カトリーヌ・ドヌーヴは夫を懲らしめてやれとばかり、地元のワルの親父に言い寄って娘をたぶらかせという。本作も映像では荘重な屋敷の調度、古式ゆかしき家具や内装、香り高い文学が語られるはずの屋敷で、行われるのはしがない万引きというギャップ。語るに落ちるいかがわしき人間の所業というのが、この監督はたまらなく好きなのです▼リスボンの叔父の店で働く会計士のマカリオ(リカルド・トレバ)は、向かいの窓辺に立つ美しい少女ルイザ(カタリナ・ヴァレンシュタイン)に一目惚れ。オープニングはマカリオが列車に乗り合わせた、見ず知らずの夫人に打ち明ける恋物語で始まります。「妻にも友にも言えないような話は見知らぬ人に話すべし」というもったいぶった切り出しが、そもそもオリヴィエラの詐術だと思っても差し支えない。そんな格言聞いたことない…いや、ある、「夜顔」でバーテンが「僕のことを誰も知らないから打明け話をしてくれる」なんて、いっていました。彼が本作で主演のリカルド・トレバ。監督の実孫です。マカリオは燃えるような恋のすえに、と書きたいが、相手の少女ルイザが、もうひとつ、恋の対象としては役不足なのだ。もちろんオリヴィエラが委細承知でそう演出しています。家柄のいい生まれだと聞いてマカリオは安心し、叔父さんに結婚を許してほしい、と頼む。おじさんは「仕事が半人前のくせに、嫁をもらうなど身の程しらず」と却下。彼はでも甥が可愛くて、食事するシーンは奇妙に楽しい。男二人が横に並び、肉を切るフォークやナイフが皿に当たるカチカチという音、頰張ってセリフが途絶え、と思うとまたカチカチ。食欲旺盛な男たちがうまそうに食い、ワインを飲む、動作・手つきを逐一映します。食事のシーンを見て、何か食べたくなる映画が時々ありますが、これもそのひとつ▼叔父さんは「貧乏人を店に入れるのは如何なものか。150ユーロ相当のハンカチがなくなった」。マカリオは聞き流しますが、その時店にいた客の一人がルイザです。彼女の現れるところ、ひょいひょいと物がなくなる。どう見ても育ちのいいお嬢さんとは思えない。マカリオは熱を上げ、叔父を見返そうと北アフリカのやばい貿易に手を出し、ひと財産作るものの友達の保証人になったために一文無し。あれほど反対していた叔父さんがともかく努力した甥に理解を示し、結婚するなら援助する「この店で働け」。早速ルイザと結婚指輪を買いに行ったマカリオは、ルイザが万引きする現場を突きつけられ、怒りまくって破談▼ルイザは部屋に帰るや、思い切り脚を広げてベッドに腰掛け(ドジ踏んじゃった)とばかり、頭を抱えます。ここ、とてもよくできていまして、ルイザが経験豊富な、立派な獏蓮女であることをワンカットで示します。そういえば、窓辺のルイザは、風雅な中国製の団扇をゆらり、ゆらりと動かすだけ。マカリオとのデートで交わす会話にも知的内容はなし。監督はまるで悪ふざけのように、マカリオに団扇を持った姿ばかり褒めさせるのです。ルイザに関して他に褒めるところは何もないのだといわんばかりに。彼の映画には、スクリーンの裏からこっちを窺っている監督のブラックな企みがある、そう最初から確信していないと翻弄されます。セレブの公証人の屋敷の豪華な内装・絵画・家具の調度、リスボン市街を遠景で捉えた日没・夜景。夜明けの美しさ…本物の美しさを惜しみなく提出し、その前で演じられる美しくもなければ賢明でもない人間の愚かさと健気さ。その対比が重くなく、暗くなく、いじけてもおらず、おかしみがあり、洗練されている。スクリーンの後ろで、真っ赤な舌をペロリと出している監督が目に浮かびます。

 

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