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特集「最高のビッチ」

2017年1月20日

特集「最高のビッチ1」⑤ アンナ・フリエル
アイアン・メイデン 血の伯爵夫人バートリ(下)(2008年 事実に基づく映画)

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監督 ジュラジ・ジャクビスコ

出演 アンナ・フリエル

シネマ365日 No.2001

葬送の調べ

最高のビッチ

捏造と言って悪ければ腑に落ちないと言いなおすが、私はこの映画がとっている軸足のほうが、バートリという女性にフィットしているように思える。確かに遺伝的な要素は無視できないし、感情が不安定でヒステリックな発作もあったかもしれない。しかし血の遺伝があろうとなかろうと、エリザベートであろうとなかろうと、そういう症状は今でも多々見られるものだ。史家はしかし、歴史の資料に多少の誇張はあるとしても、彼女の殺人嗜癖を事実無根と考える研究者はほとんどいないそうである。その研究者の中に女性はいたのかしら。確認する手立てはないが、映画の捉え方の肩を持ったのだから、これも書いておこう。エリザベートが故郷チェイテの城に幽閉され、それがが「緩慢な死刑」であることを忘れないよう、幽閉した「黒い塔」の下に赤い絞首台を建てた。やることが陰険ね。そもそも彼女が殺人罪で有罪とされたのは、目撃者として村人の何人かが証言に立ったからだ。現に城の中には誘拐監禁中の若い女性が地下室に繋がれ、拷問器具が揃い、背中も腕も、血だらけだった…▼エリザベートの死後2年たつかたたないうちに、トゥルソル副国王が死んだ。彼こそエリザベートの土地財産を狙って確執を繰り返してきたナンバー2だった。夫の戦士後、未亡人となったエリザベートが情事に明け暮れ、男や女をベッドに引き込んでいる、怪しげな黒魔術で国家転覆を図っている、どれもワイドショー的なゴシップとして、誰もが飛びつく格好のネタで、エリザベートは徹底的に否定したが、包囲網は強かった。この映画は血みどろの謀略の連鎖絵巻でもある。敵は副王だけではなかった。受け継ぐべき遺産が自分たちではなく、一人息子と甥に行く危機を強めた娘と婿は、クリスマスにエリザベートを祝宴に招く。エリザベートはあっさり断り、トランシルヴァニアの叔父の招きを受ける。ホイホイ招宴の卓についたりしたら毒殺されかねなかった。チェイテ城は堅牢な城だった。オスマン軍の襲撃に見せ、副王は軍を送って攻めおとそうとしたがエリザベートは屈せず指揮をとり、撃退した。エリザベート幽閉が決まった後トランシルヴァニアの叔父バートリ公がねじ込んだ。証言の根拠を取るにも証人は裁判の後驚くほど速やかに死んでいる、エリザベートが魔術を使った証拠もない、地下牢に幽閉されていた女たちは「やらせ」であり、その首謀者も死んだ、姪の財産が欲しかったのは副王、あなたではないのか。ここから副王の勢力は下り坂になる。もちろん公平に見れば、叔父公の意見が正しいという証拠もない。しかし、証拠だ、立証だという前に、人間の本性を考えれば長年にわたる領地分捕り合戦の結果、着々勢力拡大してきたハプスブルク家に対し、それに反するエリザベートは、彼女の方針であった親トランシルヴァニア、すなわち反ハプスブルク政策のために、はめられたことは十分考えられる▼エリザベートの死は自殺である。寝所に火を放ち、炎の中で「神よ、私は弱い女だった、生まれた時代を間違えました。わたしが背負った十字架は重すぎました」そう言い残し、スロバキアの聖歌を歌いながら死んだと映画はしている。副王の指示は思いがけないものだった。「荘厳な葬儀を執り行え」。教会の牧師は色をなし「殺人を犯した自殺者ですぞ。神聖な土には返せません」「黙れ、彼女は聖歌を歌いながら死んだのだぞ。貴様、何さまのつもりだ! 予想外の勇敢な一手だった、勝ったのは彼女のほうだ、愛していたんだ!」エリザベートと副王の生涯に及ぶ戦いはエリザベートの死で幕を引きましたが、精魂つき果たしたかのように、副王は2年も経たないうちに後を追います。彼が築いた富はハンガリーの副王によって横領され、妻は孤独と貧困の中で死に、エリザベートの息子パルは遺産後継者と認められ、今日に至っている。チェイテの城は、スロバキア首都プラチスラヴァから北東へ100キロほど行った山の頂に廃墟となって残っています。カルパチア山脈の中には14もの城跡がありますが、中でも伝説と雄壮な城壁の跡を残すチェイテ城は、山頂にあるため訪れる観光客も限られ、赤々と沈む夕日にありし日のシルエットを浮かび上がらせています。尾根を吹き渡る風の音、空の果てに消える鳥の歌こそが、美しかった孤独な城主にふさわしい、葬送の調べかもしれません。

 

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