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特集「最高のビッチ」

2017年1月29日

特集「最高のビッチ1」⑭ ドミニク・サンダ
初恋(1971年 文芸映画)

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監督 マクシミリアン・シェル

出演 ドミニク・サンダ/ジョン・モルダー・ブラウン/マクシミリアン・シェル

シネマ365日 No.2010

猛毒だってよ 

最高のビッチ

ドミニク・サンダはトクだな。どんな役をやっても良家の令嬢という品の良さがついて回り、それが反作用のようにいやらしさを倍加させる。同じ良家の子女でも、ロミー・シュナイダーであれば、演じるのがどれだけ気の強い女であっても、運命に抗えない薄幸な趣があるのだけど、ドミニクの場合明るいのよね、持ち味が。収容所に送られるセレブのユダヤ人令嬢であっても、自殺する質屋の若い女房であっても、詩人と哲学者を翻弄する女性作家であっても、ヘタレの夫に代わり事業を切り盛りするやり手の嫁であっても、大学教授の妻で、女同士でタンゴを踊っても、タキシードを着てもヌードになっても、思えば彼女が「ビッチ」を演じた作品は意外なほど多いのに、みな綺麗でドロドロでもなくむさ苦しくもない。どうして?▼本作はマクシミリアン・シェル監督です。「監督はドイツ人で、厳しくて意地悪で残酷でさえありました」し、ハンガリーロケは「17歳になった、わたしの試練の3ヶ月でした」と写真集「女そして女優」に書いているから、よほどしごかれたのだろう。ドミニクは「超然」といっていいくらい作中クールである。彼女は「やさしい女」に続いて「初恋」を撮った。どちらも17歳の年齢では難しい役だと思う。本作の没落した公爵家の令嬢ジナイーダは、貧乏で手元不如意のまま、母親と別荘に引っ越してきた娘であるものの、たちまち取り巻きの男たちに囲まれ、一日中お散歩や読書や、町に出たり詩を読んだり、男たちと興じている21歳、という役だ。16歳のアレキサンダー(ジョン・モルダー・ブラウン)は、夏の間だけ父(マクシミリアン・シェル)の実家があるこの土地の別荘で過ごすため、モスクワから来た高校生で、隣家にジナイーダが移ってきた日に一目惚れ▼公爵夫人とともに昼食に招待されたジナイーダは、帰るときアレキサンダーに「今夜8時に来て」と耳打ちする。きっかり8時に行けば、ジナーダの周りには詩人や、医者や、軍人や伯爵家の息子ら5人の男たちが集まり、話が弾み、その夜は罰金ごっこという奇妙なゲームをしていた。ジナイーダが負け、あたり札を引いた者が彼女にキスする権利を与えられる。アレキサンダーが引き当て陶酔のときを過ごす。アレキサンダーの彼女への憧れは強まり、彼女も先刻承知、二人きりになると「わたしが好き?」とか「見つめないで」とか、「わたしが冷酷な女でもかまわないの?」とか、「わたしが好きならそこから飛び降りて」とか、勝手なことをいう。屋根からアレキサンダーが飛び降りて気絶したときは驚き、駆け寄って抱き起こしたけれど「どこさわっているの。元気じゃない、起きて!」。ちょっと胸に手を伸ばしただけで、アレキサンダーはひっぱたかれそう。この映画のいたるところで見るドミニクの視線とは、どんな年増女も敵わないほど、意味ありげで冷ややかだ。アレキサンダーどころか、これじゃおじさんなんかイチコロですよ、と思っていたら、まったくその通りになったのだ▼溢れる想いを抑えられず、深夜家を出たアレキサンダーは、灯りのついたジナイーダの部屋にいる父を見る。堅物の監督は、ドミニクが自らはだける上半身しか映さないが、アレキサンダーにとってはショックであり絶望である。いつの間に、なんと手の早い親父であることか。母親との間はとっくに冷たくなっている。経済的な実権を握っているのは母親の実家であるらしく、怒った母は荷物をまとめてモスクワに帰ると宣言。当然夫と息子も行動を共にせねばならぬ。別れの日。「街に戻ります。会うのも最後です」とアレキサンダー。「わたしは心のなかに悪と罪と闇を秘めた女。過ちも犯すわ。でもあなたのことは好き。ひどいことをしたけど許してね。恨んでいる?」「あなたに何をされても愛している。一生愛し続けます。さようなら」。モルダー・ブラウンって、ルキノ・ヴィスコンティが「ルードヴィッヒ」で国王の弟にしたくらいのイケメンなのよ。そんなモルダーとドミニクが、見つめあって別れを告げる、ハーレクインみたいなシーン▼青春の初恋ならともかく、中年の父親とわけ知りのジナイーダの関係は、簡単に終わらない。アレキサンダーはまもなく街で逢い引きする父とジナイーダを知ることになるが、事態は深刻化していて、女は「奥さんと別れて」「できない。でもいいだろ」(ト男は図々しい)「駄目よ」「なぜだ!」怒って乗馬用の鞭を鳴らす。お決まり通り、痴情もつれの挙句の別れ。アレキサンダーは数年後、ジナイーダが結婚したことを噂で聞く。伝えたのは別荘での取り巻きの一人の医師だった。彼は「君はイチ抜けてよかったな」「大丈夫です、彼女とは二度と会いません」「ジナイーダがホテル・コンチネンタルに来ている。変わっていない」「父は死にました。女の愛には気をつけろ、幸福の中に猛毒が秘められていると言いました」。アレキサンダーは1週間後、ジナイーダに会いに行くが、彼女はその4日前、産褥熱で死んでいた▼男だってどこまで勝手なこと言っているのよ。特にアレキサンダーの親父は何よ。女には気をつけろ? 自分は散々ジナイーダといい目をしておいて、女が不倫を続けてくれないからって「猛毒がある」はないでしょ。猛毒に負けるアンタが所詮釣り合わなかったってこと。ジナイーダに振り回された取り巻きにしても「イチ抜けた」も「ニ抜けた」もないでしょ。恋愛は等価であって損得で成り立つものを人は恋愛と呼ばないわ。そんな男たちを尻目に、さっさと舞台から退場したジナイーダが、いちばんカッコよく見える映画だったわ。やっぱりドミニクはトクよ。

 

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