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特集「最高のビッチ」

2017年1月30日

特集「最高のビッチ1」⑮ スカーレット・ヨハンソン
マッチポイント(2006年 社会派映画)

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監督 ウッディ・アレン

出演 スカーレット・ヨハンソン/ジョナサン・リース=マイヤーズ/マシュー・グッド/エミリー・モーティマー

シネマ365日 No.2011

女優は「ビッチ」で磨かれる 

最高のビッチ

サイテーね、こいつ。「人生を賭けるものが欲しいのです」なんてカッコつけて、妊娠させた女を殺してうまく逃げ延び、結論は「人生は運だ」で終わるのかよ。それを主人公にシタリ顔に語らせるウッディ・アレンが限りなく軽いわ。作劇のスキルの巧みさを今さら褒める作家じゃないでしょう、この監督は。ドストエフスキーの「罪と罰」は、殺人に至った青年に罰を与え、「地上より永遠に」の青年は死刑を受け入れる。そうそう、ただの強姦男を、日本文学最高のヒーローに仕立てた紫式部も、光源氏の末路を、無残なほどバッサリ一行で「彼、死んじゃいましたよ」で片付けているわね。彼らは何らかの落とし前をきっちりつけさせているのよ。悪は栄えない、そんなド単純な落とし前ではないわ。無駄死にも割り損もある、何が降りかかるか分からないのが人生だ、悪も欺瞞も裏切りも限りない残虐も人はやってのける、でもそれは正しいのか。冗談じゃない、そんな奴は老若男女を問わず、いつかどこかで地獄に堕ちろ、虚無の中で死ね。そういう人間社会の掟を、媚びずにきっぱり描ききっているところが彼らの一流たる所以なのよ。わたしはそう思う。だから妊娠した女に脅迫され、離婚する、する、と言いながら腹の中ではその気などなく、セレブの生活に執着し、女を、それも無辜の女性を巻き添えにして殺し、こういうこともあるのが人生だ、つまり運だ、と落着させるウッディ・アレンが、いつの間にこんな手軽な解決で手を打つようになったのか、がっくりきたわ。天才も年には勝てないのね▼プロテニス選手のクリス(ジョナサン・リース=マイヤーズ)は、キャリアの限界を感じ、プロをやめロンドンのテニス・クラブのコーチに転職する。そこで上流階級のトム(マシュー・グッド)と知り合い、裕福な彼の一族と交際が始まり、トムの妹クロエ(エミリー・モーティマー)と親しくなる。同時にトムの婚約者、アメリカ人の女優志願、ノラ(スカーレット・ヨハンソン)と知り合い、セクシーなノラにノックアウト。トムの母親はノラが気に入らない。アメリカ人で女優志願など、一族に嫁にふさわしくないわけ。トムも母親に逆らわない。傷ついたノラは雨の中、広い庭をずぶ濡れになりながら歩くのをクリスは見つけ、追いかけて、原っぱでセックスに至る。ノラはトムと婚約は解消、アメリカに帰った。クリスとクロエは結婚した。ある日、美術館でクリスはノラと偶然出会い、待ったなしの関係にのめり込む。妻とはセックスが遠のき嫌味を言われる。そのうちノラも「どうせ離婚しないんでしょ」。「妻とは別れるよ」「気休めはやめて」。男はズルズルと関係を引き延ばす。ノラは妊娠する。「堕ろそう」「今度はいやよ。三度目よ。トムの子も中絶したわ。クリス、今の仕事も生活も嫌なんでしょ。いいチャンスよ。きちんと責任、取ってもらうわ。わたしは産みますからね」。妻も夫がおかしいのに気がつく。「どうしたの? 電話があるたびにあなた、様子がヘンよ。外に女でもいるの?」「いや」そして絶妙の言い訳をする。「罪悪感さ。気が咎めているのだ。君は子供を欲しがっているのに、妊娠させられない」妻は感動し「あなたもわたしも健康よ。子供を作れるわ。わたしがしつこく言うから辛いのね」▼ノラは「わたしは嫉妬深いの。奥さんとは寝ないで。離婚はいつ言い出すの」「明日妻に話す」「今夜話して!」男は断崖絶壁だ。彼は娘婿として舅に気に入られ、将来を保証され、既に役員である。高額の給料、手当、社交界、何もかも不足はない生活をオーディションに落ちてばかりの女優の卵のために捨てる気は毛頭ない。彼女はアメリカの片田舎、コロラドの出身だ。母親はアル中で、父親は蒸発、でも姉は大学に行った古典的な美人、というのが妹のわずかな自慢だった。そんな女が妊娠したって、引き換えにする値打ちなどない。浮気は浮気で家庭を壊すつもりはない。クリスは押し込み強盗を装い、ノラの隣の部屋の婦人を猟銃で射殺し、ちょうど帰宅したノラが目撃したので、口封じのため殺された、という状況をこしらえた。警察はクリスへの事情聴取もそこそこに、ノラは巻き添えで殺されたと判断する▼やがて妻は妊娠し、めでたく第一子を授かった。一家は万々歳。幸福が満ちる。クリスはノラの幻影を見た。彼女に話しかける。「ノラ、僕も辛かったよ。でも引き金を引いた。君は何も知らずに死んだ」。隣には隣室の婦人が立っていて訊いた。「私はどうなるの。何の関係もないのに」クリスの答えはこうだ。「何の罪もない人でも軍事行動で殺される。巻き添えさ」「ノラのお腹の子も死んだわ」「生まれてこないのがいちばんいいことだとソフォクレスが言った」ノラは「償って、クリス。あなたのやったことは破綻だらけ、いずれ発覚するわ」「逮捕されて罪を受けるのが正義だ。ほんのわずかでも罪を償う意味があるのならね」。どこまで男に調子よくできているのだろう。スカーレット・ヨハンソンは21歳だった。女が備える「ビッチ・エレメント」を、咲きかける大輪の花のような彩りで、鮮やかに表出している。女優はビッチで磨かれるのだ。

 

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