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シネマ365日

2017年2月1日

特集「決断する女」① 
さざなみ(2016年 恋愛映画)

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監督 アンドリュー・ヘイ

出演 シャーロット・ランプリング/トム・コートネイ

シネマ365日 No.2013

出ていく妻 

決断する女

こりゃ無理ね。奥さんのケイト(シャーロット・ランプリング)は、結婚45周年の記念パーティーが終わったら出て行くわよ。家を。平凡なスピーチを長々と繰り返している夫ジェフ(トム・コートネイ)に、穏やかな視線を投げながら、腹の中は決まった。夫は涙を誘う感動的なスピーチで、この1週間のチョンボを水に流せたと思っているけど、そうはいくかい。ケイトが被った失望と裏切り、信頼の喪失はあまりにも大きかったのだ…なんていうものの、そう決め付けるにはちょっとジェフに気の毒な気もするのよ。45年間、それこそ浮気一つせず(だと思う)、愛妻家で仲のいい夫婦、子供はいないみたいだけど、経済的にも精神的にも、充実した結婚生活だった。妻は知的でやさしく、配慮にとみ、夫は和やかに妻を見守り、定年まで無事勤め終え悠々自適だ。何不足などない。家はイギリスの地方都市、自然に恵まれ、遠い木立や長く続く道には並木が梢を揺らす。妻は愛犬のシェパード「マックス」を伴い、散歩から帰ってくる。どこといって変化のない、静かな一日のはずだった▼ある朝一通の手紙が来て、夫に昔の恋人がいたことがわかる。彼女は氷山で滑落死して、遺体が発見されたという通知だ。それだれのことと、当然妻は聞く。夫は「君と出会う前のことだ」と釈明するものの明らかに動揺している。不必要に多弁になったり、もの想いにふけったり、遠くを見る瞳で過去の愛を回顧しているのは明らか。もちろん妻は会ったことも、聞いたこともない女性だから、彼女の顔や容姿を思い描きようのなかったのに、夫は馬鹿に細々とした、例えば指輪はこんなだったとかホテルに泊まるとき、夫婦だと言ったのだとか、当時は夫婦でないと泊まれなかったというものの、何を説明するにしても歯切れが悪い。妻ケイトも45年前の女性との付き合いを、あれこれ詮索するのも馬鹿げているとは承知だが、夫の取り乱しようが気にくわない。彼の人生にただならぬ重きを持っている、しかも今もその重さは活きているのだ▼夫は禁煙していたタバコまで吸い出した。その気になってベッドインしたが「すまない、いってしまった」「いいのよ」と妻はやさしく薄い頭を撫でる。トム・コートネイはそもそも、若いときから男性美とは違うところで勝負してきた役者だった。小柄で痩せた体、背もそう高くはなく、面貌だってアラン・ドロンみたいに、顔だけで世間を渡れる財産ではない。目は細いし、鋭いし、彼がいちばん似合いそうな役はストーカーか連続殺人鬼である。お腹は無論メタボだ。おぼつかなくなった足取りで近づき、妻を抱き寄せる手つきは要介護だ。妻はそれでもしつこく夫に問いただし「もし彼女が事故死していなかったら結婚した?」と訊く。返事は「イエス」だ。ンまあ。得体の知れない嫉妬を感じるのだ。でも相手は死んでいるのに、いったい何に対する嫉妬だろう。夫は妻に黙ってバスで、ということは妻の車で一緒に行きたくないということね。ひとりでどこに行ったか。妻はさも何かの用があるような気ぶりで、町にでかけ、夫の行く先が旅行代理店だと突き止める。行く先はスイス。遺体を確認しに、いいや、恋人に会いに行くのである▼妻は帰宅して屋根裏部屋を家探しする。あった、あった。夫の日記かなにか知らんが、氷山に一緒に登ったときの記録。へ〜、何と押し花まで残している。帰ってきた夫に問い詰める。「彼女の名をこの家で呼ばないで。いたるところにいるわ。あなたの背後にも、わたしのまわりにも。彼女の匂いがする。そのへんに立っているわ。そしてあなたが大きな決断をするときはいつも影響を与えているのよ」。つまり妻は心の中に生きている女に嫉妬したのですね。パーティーは明日に迫った。準備万端整っている。妻は冷静に「わたしのことが不満なのはよくわかったけど、人には気付かれたくないわ」「誤解だよ」と夫。夫にしてみれば正しくそうで、結婚生活に不満があったことなど露ほどもない。でも機嫌の悪い妻にびくびくし、トイレの水詰まりは直すわ、お茶は入れるわ、スクランブルエッグは作るわ、涙ぐましいまでに機嫌をとるが、甘いのだ。男の、いやジェフの想像力ってそこまでなのだと、映画は冷たく突き放します。パーティーのクライマックスである、主催者ジェフのスピーチが始まった。失地挽回に腕まくりした夫は、落涙して感謝と愛を述べ、来賓は感きわまる。そして二人は手を取り合ってフロアの中央へ、ダンスだ。明滅するライトの中で踊っていたケイトは、いきなり夫の手を振り払う▼まあこのまま別居すると思われますね。妻はわかったのです、自分の愛の正体がね。夫が悪いのではない、昔の恋人に嫉妬したわけじゃない、夫を好きでなくなったのではなく、夫を愛していなくなったのではなく、愛しているという勘違いをもうできなくなったとわかったのです。やめるわ、もうこんな面倒くさいこと。さよなら。おさまるか、おさまらないかわかりませんが、どっちにせよ、おふたりの間にはかなりの時間が必要ですね。こういう「青い炎」を燃やす女こそシャーロット・ランプリングの独壇場です。それに見た目が綺麗だわ。姿勢のいい細い容姿って、着こなしが映えて得ね〜。死ぬまで女優だわよ。アカデミー賞主演女優賞、取らせてあげたかったわ。

 

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