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シネマ365日

2017年2月8日

特集「決断する女」⑧ 
荊棘の秘密(2016年 ミステリー映画)

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監督 イ・ギョンミ

出演 ソン・イェジン キム・ジュヒョク

シネマ365日 No.2020

カオスの豊穣 

決断する女

複雑な映画は苦手なのだけど、最後まで引っ張られたわ。これだけ紆余曲折したストーリーを、よくまとめ上げたものね。たいてい途中で連続性が途切れてしまうのだけど。本作にしても「目暗まし」みたいな箇所はありますよ。高校生の女の子の意味不明な詩や、架空の友人関係、電話番号、やがては娘の学校生活そのものが母親にとって「闇」だったという。でもそれら無数の(ト思える)ファクターが、取ってつけたような後出しジャンケンにならないのは、精緻極まる構成力によるものよ。とにかくこのお母さんヨノン(ソン・イェジン)がえらいわ。韓国映画の「母もの」には「母なる証明」「母なる復讐」などがあります。前者は息子にかかった殺人容疑を晴らそうと、独自で犯人を捜索する母、後者は「法が許してもわたしは許さない」復讐の母。それに本作を加え、わたし密かに「強き母・三部作」と呼んでおります▼選挙に立候補した代議士夫婦の娘ミンジンが誘拐された。忽然と姿を消し、身代金の請求もなく、脅迫文もなく、ある日娘の遺体が山中で発見された。母親は慟哭する。手がかりはない。夫も警察も頼りにならない。娘が失踪した日、夫は「信頼できる人物」と会っていたというが、それは女性だった。選挙の対抗陣営が怪しいと睨むが、夫の動きもおかしい、と妻は思う。選挙に集中しなければならないというが、娘の件から逃げているための言い逃れに聞こえる。どこか釈然としないのだ。彼は本当に娘の誘拐とそれに伴う殺害に無関係なのか。娘の部屋は、高校生らしいアイドルの写真がペタペタ貼ってある。ケータイも調べた。学校にも行って担任の女教師と会った。母親は捜索にのめり込む。孤独な戦いが始まった。娘は何者かの車に乗った、それを目撃した少女がいた。選挙戦は加熱していった。敵陣営の動きは不穏だ。娘の殺害も同情票を煽る操作か。母親の疑惑は限界まで膨れ上がっていく。死の真相に何が隠れているのか。誰も信頼できない。母親は担任の女教師にすがりつき、どうか力を貸して欲しいと頼む▼娘に友達がいた。彼女は貧乏で父親は運転手だ。ミンジンは裕福で大学は留学が決まっていた。少女たちは二人でバンドを組み、空き部屋で練習していた。母親はその部屋に行った。ゴミだらけの汚い床に落書きだらけの壁。黒いポリ袋が転がり、逆さに降ると札束がドサドサと転げ落ちたのだ。一体娘は何をしていたのか。闇はだんだん深くなった。母親の知らないことばかりあったのだ。少女たちは何かを知り、それを元に犯罪に手を染めた、母親はそこまでたどり着いた。でも何を。家と学校しか往復していない高校生が何を知ったのだろう。思春期の少女が親にも悟られず、平然と働く悪とは何だろう。映画は無意味に思われるエピソードを詰め込み、連続させ、母親の推理を故意にはぐらかしていく。このあたりハリウッドとはまた違う、「混乱の豊穣」ともいうべき、韓国映画独特のカオスが際立っています。母親に比べ、父親が逃げ腰に見えてしまうのが、全体の構成力を弱くしているのがちょっともったいないけど▼事件の根底には、思春期特有の同性の友だちとの友情があります。真っ黒な闇の塊を解きほぐし、細い一本の糸を二本に、二本を三本に束ねていった母親は、結局、娘の友だちに行き当たります。娘たちがいつも一緒におれた場所。そこは学校か教室しかない。夫は激戦の末、選挙に勝った。しかし勝利は虚しかった。真犯人にたどり着いた母親は犯人を許さなかった。一人だけはでも殺さなかった。生きて一生の償いをさせるために。残酷な結末だが、鬼にもなり、蛇にもなって犯人を追い詰めた母親の執念に文句なく圧倒されます。見応えのある映画だから、ネタバレはやめますね。脚本に「オールド・ボーイ」「スノーピアサー」のパク・チャヌクが参加しています。

 

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