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シネマ365日

2017年2月10日

特集「二度と見たくない傑作」① 
叫びとささやき(上)(1974年 家族映画)

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監督 イングマル・ベルイマン

出演 イングリッド・チューリン/ハリエット・アンデルセン/リヴ・ウルマン/カリ・シルヴァン

シネマ365日 No.2022

女の魂は真紅だって 

二度とみたくない傑作

愛と死と虚無は、イングマル・ベルイマンの映画作りの背骨です。後年とんがり方が比較的穏やかになった「秋のソナタ」でも、清澄な光の中に、理解しあえない母親と娘、そして家族の別離が奏でられていました。世界的なピアニストであるパワフルな母親を、イングリッド・バーグマンが演じました。彼女の遺作でもあります。大女優の「白鳥の歌」にふさわしい傑作でした。ベルイマンの映画にはどこかに死の影がある。ベルイマンの映画にしたら比較的わかりやすい本作は、だからこそ、始めから終わりまでオールこれ、癌末期のヒロインの死に至る具体的なシーンの数々、激痛に耐えかね絶叫する主人公アグネス(ハリエット・アンデルセン)のアップから入っていきます。主たる登場人物はアグネスの姉カーリン(イングリッド・チューリン)と、妹マリア(リヴ・ウルマン)、召使いのアンナ(カリ・シルヴァン)の4人。ベルイマン得意の舞台劇仕様限定バージョンです▼広大な屋敷にはアグネスがアンナと二人で暮らし、姉と妹は嫁いで家を出ているが、アグネスが重篤であると知り、実家に戻っている。アグネスは「姉と妹とアンナがそばにいて、代わる代わる看てくれる」と日記に書く。アグネスは独身で病身の身だ。いま彼女に許される唯一の楽しみは、体に痛みがないときに回想する、過去の思い出に耽ることだ。「母は20年前に死んだのに毎日思い出す。母は孤独を求め、庭をさまよった。気づかれぬよう後と追い遠くから見つめた。独り占めしたかった。あの優しさも美しさも温もりも。母はときによそよそしく冷たかったが、わたしは母を憎まず同情した。今ではわかる。母に会っていいたい。あなたの欲望や倦怠や、苛立ちや寂しさがわかると」。アグネスは真紅の部屋で白いドレスを着て寂しそうに椅子に座る母を見かけた。母は優しい声で「おいで」と言い、アグネスは近づき思わず頬に手を当てる。「一瞬だけ母に近づけた」と日記に書いた。ふうむ。さまよえるほど広い庭でお母様は孤独なのね。アグネスは母親が大好きだけど内省的で、妹のマリアのようにベタベタひっつくことができないわけだ。真紅の部屋というのはベルイマンが「女の魂は真紅でできている」といい、どのシーンもほとんど真っ赤にしたのです。ベルイマン自身が見たこともない「魂の赤」などという勝手な思い込みを、見事な統一感でまとめあげたのが、撮影のスヴェン・ニクヴィスト。彼はアカデミー撮影賞を取っています▼カーリンは静かに刺繍する。イングリッド・チューリンの鋭い目つき。一点一画何ものも見落とさぬ目、旦那と召使いがいちばん苦手とする目です。マリアはアンナの3歳の娘が病気になったとき(彼女はこの子を亡くすのですが)、往診に来た医者に「主人は出張中で帰らない」とニンマリといい、ケロリと医者と寝る。この医者がいやな性格だ。マリアに「鏡をごらん。君は美しい。だが変わった。視線に落ち着きがなく肌のツヤが消えた。シワが刻まれ耳から顎へ、美しかった線も消え、鼻をしかめてせせら笑っている目の下には人生に退屈しきった細かいシワがある」マリアは「笑えばいいわ。あなたの反映だもの。あなたの理屈にはウンザリだわ」どっちもどっちだ。当人らはそれでいいが、災難は真面目なマリアの夫だ。妻の不倫に悲観して自殺する。あんな女を妻にしていちいち悩んでいたら、命がいくつあっても足らないと教えてやる、男同士のさばけた友だちがいなかったのが悲劇ね▼姉も変わっている。子供はいるがみな大きくなった。夫との間は冷え切っている。無関心な夫が実家に寄ったとき、ワイングラスの破片で妻は陰部を切り裂き、真っ赤になった下半身に指を濡らし、唇の周りをベタベタとなでるのだ。夫は寒気がして寝室から出て行く。これまたどっちもどっちである。姉妹の結婚生活は二人とも失敗だ。だから結婚しなかったアグネスは、少なくとも亭主と家族のトラブルからだけは救われ、裕福な実家の家屋敷に贅沢に暮らし、忠実な召使いのアンナとともに、優雅な独身生活を送れた女性のはずなのに、ベルイマンはガンの末期という残酷な設定を与える。つくづくこの人って、特に女の穏やかな幸福が我慢ならないのね。結婚嫌いで女嫌いのうえに、変わり者のひねくれた男だわ。そう思っても当たり前なのだけど、(ふん、俺がそんなド単純な男かい)と、隠し玉を出してきた。召使いのアンナです。

 

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