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シネマ365日

2017年2月11日

特集「二度と見たくない傑作」② 
叫びとささやき(下)(1974年 家族映画)

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監督 イングマル・ベルイマン

出演 イングリッド・チューリン/ハリエット・アンデルセン/リヴ・ウルマン/カリ・シルヴァン

シネマ365日 No.2023

地上の天使 

二度とみたくない傑作

運の悪い女としかいえない次女、アグネス(ハリエッタ・アンデルセン)は、嫌な連中に取り囲まれている。姉カーリン(イングリッド・チューリン)は頑固で気位が高く、折れ合うとか譲るとか、それにたぶん、人を褒めるとかしないだろう。いつも冷ややかに上から目線で人を見る。おまけにやることが常軌を逸している。ガラスの破片を自分の陰部につき立てるなど、普通の痛覚があれば思いつくこともできない。高級官僚の旦那も感情の冷えた男に違いないが、この二人、類は類を呼んで集まるといえば言える。三女のマリア(リヴ・ウルマン)が、長女とは真逆。社交的で誰とでも打ち解け、人の懐に、特に男性の懐に入るのが上手で、ついでにベッドにまで入ってしまう。アグネスに対しては幾分同情して、嫌がらず看病に来たのは、まだ人の好いところがあるからだ▼実の姉妹がこうであるのに、召使いアンナ(カリ・シルヴァン)の献身はどうだ。「アンナ」とアグネスが呼べば何をさておいても枕元に駆け寄る。姉たちが何かしそうな気ぶりでも見せると、「わたしにお任せください」。「アンナ、来て」とアグネスの声がした。小走りに行くと「遠すぎる。近寄って。そばにいて。わたしの体、臭う?」。たぶん自分でもわかるのだろう。「痛むのよ」「存じています。よくなりますよ。わたしがついていますからね」「枕が熱いわ」「替えましょう」アンナはイングリッドを大きな豊かな胸に抱き寄せるのだ。姉と妹とアンナが体を拭いてさっぱりした寝巻きに着替えさせる。よそよそしいといえば、長女と三女は、子供の頃からろくに言葉も交わさなかった犬猿の仲だ。「この家は夢の中みたい」とマリア。「わたしは姉さんほど教養もないし、世の中も知らない。もっと姉さんに近づきたいの。他人行儀な沈黙は嫌い」いいながらマリアが姉の頬を撫でる。「やめて。触られたくない」と顔を背ける姉。でもやめない。姉の唇を指で触れる。姉は払いのけんばかりに「お願い。触らないで。責め苦だわ。わたしに触らないで」…接触恐怖症ってあるのでしょうね▼アグネスが息を引き取った。死んだアグネスは「わたしは死んだ」と自分にいう。ここからは幻想のシーンです。「死んだのに眠れない。みんなが心配で、くたびれてしまった。カーリン姉さん。手をとって温めて。ここは虚無よ」。姉は「頼みは聞けないわ。あなたの死に関わりたくない。愛していれば別だけど愛していないし。おとなしく死んでちょうだい」そこまで言ってやるか。全く強烈な人ね。「アンナ、マリアを呼んで」三女が来る。同じことをアグネスが頼む。「わたしにふれて話しかけて。手をとって温めて」「妹だもの。ここにいるわ。小さい頃、夕暮れによく一緒に遊んだわね」と、まあ優しいことをいう。「近づいてもっと手を握って」マリアは姉の顔に触る。恐々である。アグネスが唇を近づけキスした途端、手の甲で口を拭い、飛んで逃げるのだ。残ったのはアンナだ。「わたしがいます。泣かないで。わたしに任せてください」。長女が大声で「あの子は死んでいるわ。もう腐っているのよ!」アンナは意に介さず「一緒にいます」姉と妹を追い出し、裸の胸にアグネスを抱え、母親のようにやさしく抱きしめるのだ▼ベルイマンはアンナという救いを、薄幸なアグネスに与えたのね。人間どれだけ財産があろうと、旦那がえらい立場だろうと、付き合う男がたくさんいようといるまいと、最後にその人を豊かにするのは与え合う愛情なのよ。アンナはアグネスの形見分けも断り、12年間仕えた思い出だけ持って屋敷を去る。長女の旦那のケチぶりはすごい。選別をと妻がいうと「要らんよ。給料がよかったのだから」。三女だけが「アンナ、ありがとう」姉夫婦に隠れて幾らかの金を渡す。アンナは残しておいたアグネスの日記を読む。「秋の気配が漂い。カーリンとマリアが会いに来てくれた。3人で仲良くブランコに座り、アンナがやさしく揺らしてくれる。いちばん大切な人たちがそばにいる。苦痛は去った。おしゃべりに耳を傾け、体の温もりを感じることができた。時よ、止まれ、と願った。至福の時間を味わうことができたのだ。多くを与えてくれた人生に感謝したい」。そして字幕が「叫びもささやきもかくして沈黙に帰した」。アグネスに至福のときがあってよかったわ。もっというならそれをもたらした大部分はアンナのおかげだと思うけど、アグネスはもっと感謝の言葉を残してあげるべきじゃないの。こういうところ、人が自分のために何でも「してくれて当たり前」と思う、お嬢さん育ちの気のつかないところよねえ。言いたくないけど、所詮、この三姉妹、同じ穴のムジナみたいなところ、ないでしょうか。人間ってそういうものさ、というベルイマンの冷笑が聞こえる。アンナという地上の天使を遣わしたのが彼の救いね。

 

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