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シネマ365日

2017年2月13日

特集「二度と見たくない傑作」④ 
ドクトル・ジバゴ(上)(1965年 恋愛映画)

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監督 デヴィッド・リーン

出演 オマー・シャリフ/ジュリー・クリスティ/ジェラルディン・チャップリン/トム・コートネイ/ロッド・スタイガー/アレック・ギネス

シネマ365日 No.2025

男の栄光

二度とみたくない傑作

「アラビアのロレンス」にしろ「戦場に架ける橋」にしろ、戦争と男性を描いたデヴィッド・リーンの作品のそばを「逢いびき」「旅情」「ライアンの娘」「インドへの道」そして「ドクトル・ジバゴ」と、ヒロイン映画の傑作が並ぶ。デヴィッド・リーンをこの分野で一流と呼ぶのを誰もためらいはしないだろうが、どこが一流なのか。ロマンス映画の鍵を握る、別れのシーンのうまさに尽きると思うのだ。たいていラストかそれに近い場面で、ヒロインの決定的な運命を決めるシーンなのである。「ドクトル・ジバゴ」で、ジバゴ(オマー・シャリフ)とラーラ(ジュリー・クリスティ)の別れが四度ある。一度はウクライナ戦線が収束し、医師として従軍したジバゴと、看護師として彼を補佐したラーラの別れだ。どっちも苦しいほどお互いを愛しているが、まだ男女の関係にはなっていない。ラーラが踏みとどまるのだ。「あなたに嘘をつかせたくないの」と言って▼二度目はジバゴ一家がモスクワからウラル山脈を超え、妻トーニャ(ジェラルディン・テャップリン)の別荘のあるバルキノに疎開したとき。町の図書館でラーラに再会する。枯葉の舞う公園のベンチに座り、また腕をとり寄り添って歩く姿。二人とも堪えきれず関係を結ぶのだが、臨月の妻への後ろめたさでジバゴは鬱々。このままでいけないと、ラーラに別れを告げる。ラーラは涙で頬を濡らしながら「いいの、あなたのいいようにして」「もう戻らない」。でも「信じるか」男が訊くと無言で激しく頭をふる。三度目はバルキノの眩しいばかりの雪原で。二人の生き別れだ。ジバゴが蛇蝎のように嫌う男、政府上層部に顔のきく怪しげな悪党にして、ラーラの初めての男コマロフスキー(ロッド・スタイガー)に、ラーラの身の安全を委ね、バルキノから去らせる。四つ目はジバゴがこの世で目にした最後のラーラ。それぞれの別れはどれも、セリフは短いか無言で、毅然ともたげた後ろ姿の細い首筋であるとか、音もなく涙のように落ちるひまわりの花びらであるとか、地平線に消えていく馬車であるとか、なのだ。およそ説明的でない「寸止め」のうまさは、全部脱がないストリップに通じる▼コワロフスキーは、本作の裏ヒーローといっていい。彼が指摘する人物の典型はこうだ。ラーラの婚約者、革命の闘志パー者について「大した男だ。文句ない。だが男には二種類いる。高潔にして純粋。表向きは賞賛されるが実は軽蔑される男。夢や理想で胃袋は満たされん。もう一つは、高潔ではないが生きる術を心得ている男。ラーラ、パーシャとの結婚は破滅だ。女も同様さ。お前は前者にはなれん。高潔でも純粋でもない。お前は不純な女だよ」コワロフスキーは獣の臭いを身体中から発散させ、ずる賢くてすばしこく機を見るに敏だ。ラーラは、相反する男のどちらにも惹かれた。一方は生活力旺盛な不純の塊、一方は医師として戦場に最後まで残るヒューマンな、政治には疎いかもしれないが、荒々しい時代にも自分の信念を曲げず、試作を捨てなかった詩人。政治生命を断たれたパーシャが自殺した後、政府か妻であるラーラを同罪とみなし、行方を追っていた。ジバゴと離れようとしないラーラの決意を見て、コワロフスキーはジバゴと男同士の話をつけようとします▼「ラーラは君なしでは動かん。彼女は妻だから連座は免れない。君が俺を嫌うのはわかる。しかしここは大悪党の保護を受けてほしい。女子供を犠牲にしてまで、君の頑固を通すつもりか」。コワルフスキーに比べると(詩人って役立たずね)とすら、この悪党は思わせる、強烈なオーラを放っています。ロッド・スタイガーは獣性をむき出しにした男、女との関係はセックス、仕事の目的は金あるのみ、そんな欲得で生きる男を演じるのだが、彼のふてぶてしい生きかたに、自分の潜在的な欲望を呼び覚まされるのは、ラーラだけではないと思える。仇敵の関係だったジバゴも最後には彼の意見を受け入れる。デヴィッド・リーンの突き放した別れの描きかたと同じで、ラーラと娘を生き延びさせるために、自分の見栄も憎しみも、詩人であることさえも捨てたジバゴは敗者なのか。しかしながら女を救うために、自らの死に等しい敗者たる立場を選ぶのも、男の栄光であることをデヴィッド・リーンは感傷のかけらもなく映し出します。

 

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