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シネマ365日

2017年2月15日

特集「二度と見たくない傑作」⑥ 
縞模様のパジャマの少年(2009年 事実に基づく映画)

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監督 マーク・ハーマン

出演 デヴィッド・シューリス/ヴェラ・ファーミガ

シネマ365日 No.2027

幾万の魂に祈りを 

二度とみたくない傑作

ドイツの片田舎の美しい田園にミステリアスな空気が、肌を締め付ける濃い秘密が立ち込めてくる。青空に吹き上がる黒い、異臭を放つ煙、高い鉄条網で区切られた人影のないだだっ広い農場、そこでは全員縞模様のパジャマを着ていた。8歳の少年が、観客をジェノサイドの現場は、美しい田園の、死の静寂に覆われている…ブルーノはドイツ軍将校を父に持つ少年。ベルリンの中心街に姉と住み、何不自由なく裕福に暮らしていた。ある日父(デヴィッド・シューリス)の昇進とともに、一家はベルリンから引っ越すことになった。軍の要人や親戚は出世を喜び、盛大な送別会を催した。母(ヴェラ・ファーミガ)は美しかった。長時間に及ぶ車の移動の後、ついた場所は殺風景だった。屋敷は広いが暗くて日当たりがよくない。庭には遊具ひとつなく、ブルーノは古タイヤでブランコを作ってもらった。母親は軍人の妻らしく不平をいわず、メイドや下働きの男にあれこれ指示をして、家を清潔に整然と保ち、時々車を出させ町に買い物にいった▼学校も公園もなかった。勉強は家庭教師が呼ばれた。かなり高齢の男性教師で、母は子供を教えるのに適切な人かと夫に尋ねた。経験豊かな教師だそうだ。彼はユダヤ人がいかに有害かを子供たちに力説した。退屈なブルーノは家の周辺を歩き、農場にたどり着く。縞模様のパジャマを着た同い年の少年が、鉄条網のそばに座っていた。彼はシュムールといった。農場の中に入ってはいけないと言われていたから、柵を挟んで話すだけだったが、二人は友だちになった。シュムールの父親は靴職人で、一緒に連れてこられた。「僕の家のパジャマを着た人は、医者だったのにジャガイモを剥いている」とブルーノは教えた。「何をしたの?」と聞くと「何もしていない。ユダヤ人だからだ」とシュムールは答えた▼ある日異臭を放つ煙に母親は訝る。将校の一人が「あいつらは焼いても臭い」とつぶやくのを聞いた。夫の就任先がユダヤ人の強制収容所だと妻は初めて知った。非人間的なことだと非難すると「戦争では上官の指示に従わねばならん。どうしろというのだ」と逆に聞かれた。妻の神経は次第に痛めつけられる。心虚ろにブランコに乗る妻の姿が窓から見える。「ここで子供を育てたくない」という妻の言い分を夫は了解する。ブルーノはシュムールに借りがあった。家に手伝いに来たシュムールに菓子をあげた。夢中で頬張ったシュムールが咎められ「ブルーノにもらった、友だちだから」と答えたが、将校がこわかったブルーノは「僕は知らない、彼が盗んだ」と濡れ衣を着せたのだ。ブルーノはしばらく柵に来なかった。久しぶりに来た時は顔にひどい殴打の跡があった。しょんぼりして、父親がいなくなったという。負い目のあるブルーノは一緒に探してやると約束し、シュムールが調達した同じ縞模様のパジャマを着て収容所の中に入った。ここがリアルだ。薄暗い木造の小屋に、何段にも重なった蚕棚のベッド、隅っこにうずくまる幽鬼のように痩せさらばえた丸坊主の男たち。ダブダブのパジャマが、かろうじて骨と皮の体にまとわりついていた。そこへ「全員外へ」と号令がかかった。「時々散歩の時間がある」とシュムールはいった。ブルーノは軍の広報ビデオで見た「囚人たちは、余暇の時間はカフェや図書館で過ごす」のを思い出したが、カフェなどどこにもなかった。ブルーノとシュルームが大人たちに混じり、押し込められた「シャワー室」で服を脱がされた▼父親の任地は、数ある強制収容所の中でも「絶滅収容所」と言われた最悪の場所だった。極秘裏にユダヤ人はガス室に送り込まれ、ガスのコックをひねる作業員も、秘密を守るために殺された。本作は当事者の家族も知らされていなかったという視点で描かれた。ソビブルやアウシュビッツにいた将校の回顧録などから、妻さえ単なる強制労働だと思っていたことがわかる。いや、妻や家族どころか「顔のないヒトラー」によれば、アウシュビッツとは大戦中の「保護拘禁用施設」という認識しか、法曹界ですら、なかった。フランクフルト・アウシュビッツ裁判」によって初めて、アウシュビッツの機能の全容が明らかになった。それまでユダヤ人虐殺はニュールンベルク裁判で決着がついたと思われていたのだ▼美しい田園の中の大量殺人が、子供同士の無邪気な会話によってドキュメントされ、残酷さを増す。語る術もない事実に肉薄した製作陣の静かな闘志と、幾万の亡き魂に祈りを捧げる。

 

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