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特集「タイムレスな女優」

2017年3月3日

特集「タイムレスな女優」③ 
太陽のめざめ(2016年 ヒューマン映画)

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監督 エマニュエル・ベルコ

出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/ブノワ・マジメル

シネマ365日 No.2043

ドヌーヴとマジメル 

タイムレスな女優

カトリーヌ・ドヌーヴは女性監督の作品に多く出演しています。本作もそう。エマニュエル・ベルコ監督は女優でもあり「モン・ロワ 愛をめぐるそれぞれの理由」でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞しました。「ヴァンドーム広場」はニコル・ガルシア、「逢いたくて」はトニー・マーシャル。「危険な関係」はジョゼ・ダヤン、「隠された日記、母たち、娘たち」はジュリー・ロペス・クルヴァルの監督。いずれもドヌーヴの代表作になっています。半世紀以上に及ぶ女優歴だから、女性監督とも当然組むでしょうが、ドヌーヴの場合、分けてもチャンスが多かったような気がする。若い監督からオファーされるのが、長らく女優を続けられている理由だろうとドヌーヴは言っています。監督も選りすぐった脚本をオファーしたに違いないが、ドヌーヴは大抵の仕事は断らなかった人だと思うのです。作品歴の中には漫画みたいな映画もたくさんありましたが、屈託なく演じている。基本、ドヌーヴはコメディとファンタジーが好きですしね。美人で無表情でとっつきにくい感じですが、実は気さくでおおらかで硬派の肝っ玉母さん、そんなところが多分、同性に好かれるのだと思います▼世界の映画界への貢献をたたえるリュミエール賞に、ドヌーヴは同賞始まって初めての女性受賞者に選ばれました(2016年10月)。世界中の俳優、監督、映画関係者から寄せられたメッセージと、ドヌーヴのパネルが会場のあちこちに張り出された。黒っぽいセーターに白いシャツブラウスの襟を出し、まるで女学生みたいなドヌーヴがとても綺麗だったので安心しました。波打つ金髪も往年のものだ。多数のゲストがドヌーヴを祝福した。故人となったが盟友であり恋人だったフランソワ・トリュフォーの言葉がHPで紹介されていました。「彼女のようなロマンチックで繊細な姿と崇高なルックスに出会うと、秘密の多い第二の人生を考えてみたくなる。そうして彼女は夢み、謎を作り出すのだ」。アンドレ・テシネはこうです。「私は晩夏の午後の光の中で世界を見ることを学んだ。その時、物事の真の価値が現れるのだ。彼女は夕方の光を体現している。広がりや静けさを」…ふうん、わかるようでわからないのだけど▼娘キアヌと受賞のステージに立ったドヌーヴは、たくさんの祝辞とパネルへの書き込みを見て「少し動揺しています、リヨンで上映するためにわたしが選んだ映画をフランスの農家の方に捧げたい」とスピーチしました。テシネやトリュフォーの、込み入って抽象的なメッセージに比べ現実的で簡素極まっています。女性監督がドヌーヴと一緒にやりたがるのは、彼女がごちゃごちゃ面倒くさいことをいわず仕事第一、撮影や日程をサクサク処理していく女優、イライラさせられることのない組みやすい相手であることも大きな理由にちがいない。それにドヌーヴが体調不調や人間関係のトラブルで、スケジュールに穴を開けたとは聞いたことがない。妊娠中でもしっかり現場の椅子に座り出番を待っていました。監督にすれば仕事がやりやすいのである。エレガントな態度物腰からは想像しにくいのですが、大女優ドヌーヴとは、サンローランを着たおっさんだという伝聞があります▼本作のドヌーヴは、ほとんどが椅子に座ったシーンです。歩きも走りもしないが、冒頭、ケンカ腰で声を張り上げているのは(まさか)と思ったが、やっぱりドヌーヴだった。元気やなあ。それにも安心しました。相変わらず美しい、劣化しない容貌にも安心した。彼女の役は少年裁判所の判事だ。10年前に扱った、母親に見捨てられた少年が、16歳になり、社会に受け入れられず再び裁判所にやってくる。この少年が次から次、トラブル、事件、強奪、あげくは少女を妊娠させる。過去に同じ履歴を持つ教育係にブノワ・マジメルが扮します。ドヌーヴもマジメルも、あんなクソガキにもう打つ手はない、野垂れ死にでもなんでもするがいい、さじを投げかけるが関わることはやめない。同情もせず、期待もせず、仕事だからやる、ダメかもしれないがあきらめない、そんな渇いた接し方を「プロだなあ」と思うし、愛情とはつまるところ、こういう日常的な、静かな、我慢強い形をとるのではないかと思うのです▼ラストはドヌーヴの退任です。オフィスを片付けていたら少年が赤ん坊を抱いてやってくる。「やめるのですか」「退任よ。あれから10年経っているのよ。あなたのことは後任者によく頼んでおいたわ」。少年は17歳の父となった。本人が考えているより大変な人生になるかもしれない。彼が田舎の施設に入ったとき、誕生日のお祝いに訪問したドヌーヴが、野外の木陰の、素朴な大きなテーブルと椅子に、同じ施設の少年たちと椅子を並べ、簡素なケーキがあり、少年たちはみなでドヌーヴを歓迎する。彼らは、仕事だからルールを守るが自分たちを見捨てていない、いつも気にかけてくれているドヌーヴやマジメルが好きだ。人が人生の恵みを心に刻むのは、ときとして訪れるこんなひとときかもしれない。風に吹かれたら消えてしまいそうな一瞬の記憶。でもそれは思い出すたび、辛い現実を安んじさせてくれる、そんな僥倖のようなシーンがきっと誰の人生にも秘められてあり、不意に花びらのように降りそそぎ、心を明るく温かく、やさしくしてくれることがある…マジメルは過去に傷を持つ中年のくたびれた男を演じ、俳優としての豊かな成熟を示しました。セザール助演男優賞に輝いています。

 

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