女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss
  • ブックマーク

シネマ365日

2017年3月5日

特集「タイムレスな女優」⑤ 
雲 息子への手紙(2004年 ドキュメンタリー映画)

Pocket
LINEで送る

監督 マリオン・ヘンセル

語り シャーロット・ランプリング、カトリーヌ・ドヌーヴ

シネマ365日 No.2045

朗読者が紡ぐ歌 

タイムレスな女優

マリオン・ヘンセルはベルギーの女性監督。日本で公開された作品は少ないが、世界的に高い評価を受けている。彼女は「雲」を永久に移り続けるものと捉え、流れ来て変化し、形を変え消えさり、また現れる、まるで万古不易の宇宙の側面のように映像に映し出しました。撮影に約1年かけ、世界各地を、雲を追ってロケしています。アフリカ最南端の喜望峰、地震と火山の国アイスランド、ヨーローッパの屋根アルプス山脈、インド洋に浮かぶ熱帯雨林のマダカスカル。副題に「息子への手紙」とあるのは、息子がお腹にいるときから語りかけ、18歳で家を出るまでの彼の成長とともに語りかけた手紙だからです。もっとも彼女は一度も手紙を息子に読ませたことがないそうですから、個人的なメッセージというより、いずれ公表するつもりで書いた彼女の映画の構想だった。それぞれの手紙は息子への語りかけというより、もっとドラマティックなものがあります▼で、なにが言いたいかというと、この手紙のナレーションを世界的な女優が受け持っているのです。英語ではシャーロット・ランプリング、フランス語はカトリーヌ・ドヌーヴ、スペイン語はカルメン・マウラ、ドイツ語はバーバラ・アウアー、オランダ語はアンチュ・デゥ・ブック。錚々たるメンバーです。本編で聞いた朗読者はシャーロット・ランプリングです。抑揚のない平坦な口調は、最初は物足りなくて戸惑うかもしれませんが、かえってスクリーンの映像や手紙の劇的効果を盛り上げています。映像はほとんどが雲ですが、その雲の美しさ、巨大な塊が大空を疾走するダイナミックな動きに目を奪われます。監督は息子に「雲を見てなんといえばいい?」と聞かれ、「見るだけでいい。それで充分」と答えました。その通りだと思います。彼女自身のメッセージにある通り「雲はどこにいても見ることができるものです。たくさんの人たちが雲を見る楽しさを忘れているように思います。ケイタイで話すことに没頭してうつむいて歩き、少し顔を上げれば簡単に見ることのできるこんな美しいものを忘れているのではないかしら。この映画を見て多くの人がもっと雲に目を向けてくれるようになれば嬉しい」▼ランプリング独特の、無愛想なのか意味深なのかわからない声と口調を伝えられないのが残念ですが、彼女の朗読によってより素晴らしくなった手紙の何通かを紹介します。「12月31日のことよ。ペルーシャは濃い霧に包まれ、町は白いヴェールで覆われた。目印を見失ってなかなか宿にたどり着けなかった。宿の部屋から目と鼻の先の建物さえも霧の中よ。大晦日を祝う花火の音も現実とは思えない。あなたのパパに手紙を書いたわ。頭の中は真っ白だった。息子をつくってくれてありがとう、と。いつか読んでもらって。辛いけどパパとわたしは別の道へ…。あなたの心も傷つけたわ。その傷跡は一生消えないでしょう。焼きたてのパンのような香りのあなたをいますぐ抱きしめたい」「いま執筆中よ。春の太陽が屋根裏の窓から注ぐ。潮騒や鳥のさえずり。修道院の鐘の音も聞こえる。階段を駆け下りる音や笑い声、ドアを閉める音が響く。あなたは叫ぶ、ママ来て! 仕事とあなたの間で揺れながら必死で書き続ける」「ゲレンデで右往左往したわ。足を暖めるため地面を蹴り、手袋を外して時計を見る。あなたの姿はまだ見えない。太陽は山陰に沈み、谷は陰に飲み込まれた。寒かったわ。スキーヤーはまばらでゴンドラも止まっている。時計を見て呼吸は早まり、不安の雲が心に浮かぶ。頂上は暗くて見えない。息が詰まりそう。怖かった。必死で待つだけよ。涙で視界は曇り、指は青ざめていた。息を切らして現れたあなたは、僕はここだよ、と笑って慰めてくれた。涙が溢れたわ」「わたしは今地の果ての喜望峰に来ているわ。18年前あなたを失いかけた場所よ。雲を撮影していた数週間、あなたに会いたい。出発前、こう言っていたわね。僕もそろそろ家を出るよ。あなたの頬に触れ、頷くわたし。孤独を受け入れるときがついに来たわ。自由に羽ばたいてね。愛している」こんな手紙を、母親からもらった息子、あるいは娘はどう思うかしらね。書かれているのは自分のことと思えるでしょうか? 手紙自体が物語ですね。それとも一流の朗読者によって、手紙は現実を遊離し、別の物語をつむぎ出したのかしら。シャーロット・ランプリングの珍しいシャンソンのCDがあり、聴いたのだけど、もちろん下手ではないけど感動するほどうまくもない。そのくせ妙に聞かせるのよ。この朗読を聞いていて、彼女の真骨頂を思ったわ。歌は語り・語りは歌という。

 

Pocket
LINEで送る