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特集「タイムレスな女優」

2017年3月6日

特集「タイムレスな女優」⑥ 
ウォー・レクイエム(2003年 ドキュメンタリー映画)

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監督 デレク・ジャーマン

出演 ティルダ・スウィントン/ショーン・ビーン/ローレンス・オリヴィエ

シネマ365日 No.2046

前衛のガルボ

タイムレスな女優

ティルダ・スウィントンはどうでもいい役によく出ているわね。なんでかしらと思うのよ。監督はみな名だたる人たちよ。コーエン兄弟、テリー・ギリアム、ジョン・ジャームッシュ、ウェス・アンダーソン、デヴィッド・フィンチャー、タル・ベーラたち。撮れば必ずと言っていいほど賞レースに噛んで、彼らの映画にキャスティングされるのが、俳優として一種のステイタスであるような監督と作品だし、短いシーンでもインパクトの強いティルダではあるし、現に「フィクサー」ではアカデミー賞助演女優賞でもあるし…でも彼らと全然違うティルダの使い方をしたのが、数人の女性監督とデルク・ジャーマンだと思うのよ▼「オルランド」のサリー・ポッター、「イヴ」のスーザン・ストライドフェルド、「クローン・オブ・エイダ」のリン・ハーシュマン=リーソン、「少年は残酷な弓を射る」のリム・ライジーら。これらは頭から尻尾までティルダの映画でした。男性監督では「ミラノ愛に生きる」のルカ・グアダニーノが思い切りティルダを撮っていましたけど。彼女らはティルダ・スウィントンという女優へのアプローチが、他の監督と全く違いました。デレク・ジャーマンにしてもそう。彼とティルダにはどこか血縁関係みたいなものを感じます。ティルダとはそもそも前衛から出発した女優です。彼女を見ているとつくづく変わった人だと思うのよ。デレク・ジャーマンと出会ったのは、大学を出て演劇活動を始めたばかりの頃ですから、いきなり独立系の、およそはやらない映画にどっぷり浸かったわけね。ティルダの体質にデレク・ジャーマンの問題意識の塊のような社会派の感覚と、引き合うものがあったのだと思えます。ティルダというのはかなり難しいお嬢さんです(笑)。彼女が演じるデレク・ジャーマンのヒロインは、ろくな死に方をしないか、世間からつまはじきされるか、汚い衣装を着るか、意味不明の(と受け取られやすい)ストーリーか、一般受けから遠い作品がほとんどでした。デレク・ジャーマン亡き後、ハリウッド映画に出だして、もともと目立つティルダは女優として派手な存在になったのだけど、使い方としては、いくら彼女の存在感を求めたのだとはしても、チョイ出しに過ぎない作品は少なくなかった。デレク・ジャーマンが墓で泣いていなければいいけど▼本作はオペラ劇です。セリフはありません。イギリスを代表する作曲家ベンジャミン・ブリテンの「ウォー・レクイエム」の映像化。第一次世界大戦で、25歳で戦死した詩人ウィルフレッド・オーウェンの詩が挿入される。戦争で踏みにじられていく男たちの若さと命を、デレク・ジャーマンは昆虫のような視点と触覚で映していく。たとえば、塹壕のぬかるみの中で、おりかさなる兵士たち、飯盒に溜まった泥水でカミソリをすすぎ、真っ白な泡をブラシで塗りつけ、ヒゲに当たる。切れ味が悪いから刃をゴシゴシと頬に擦り付ける。頬の肉がめり込み、下手すると血がにじむ。じっくりと舐めるような撮り方が実にエロチックでした▼デレク・ジャーマンと女性監督とティルダの親近性とは、ジャーマンがゲイであり、ティルダがユニ的女優だったからではないか。女性でありゲイである、どっちも少数派であることが、ティルダの備える前衛というマイノリティと適合するに違いない。ティルダは色っぽくもなければ、かわいいという表現が当たる女優でもない。レッド・カーペットのオートクチュールの装いは、セクシーというより鉱石で組成した異星人の感覚に近い。本作でティルダは、傷ついた兵士に、時には母のように、恋人のように、姉妹のように寄り添う看護師である。兵士の死に泣き、わずかな休憩時間に仲間の看護師たちと手紙を読んで笑い合う。慟哭するシーンにはぶったまげた。カメラはやや下から仰角で、ティルダは奥歯の数まで勘定できるほど、大きな口を開けて泣くのだ。こんなとき、惜しみなく涙を出せる女優と出さない女優がいるが、ティルダは後者だ。そういえばティルダが涙を流しているシーンはあまりなかったように思う。随意に涙を流せるかどうかなど、自分の演技には必要ないと思っているのかも。練習したこともないに違いない。その分、仰天するような口の開け方をするか「倫敦から来た男」でやったように、見つめているこっちが息苦しくなるほど長いあいだ、瞬きしないで凝視したりする。この映画で28歳だったティルダは56歳になっている(2017)。かすかによる目尻のシワが素敵だ。ハリウッドのファミリー向け大作もいいけれど、ティルダがデビューして間もなく言われた「前衛のグレタ・ガルボ」であってほしい。月面を一人で歩くのが絵になるような女優、そんなシーンを一人で持ちこたえられる女優は、ティルダ以外思い当たらない。

 

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