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特集「タイムレスな女優」

2017年3月9日

特集「タイムレスな女優」⑨ 
母の眠り(1999年 家族映画)

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監督 カール・フランクリン

出演 メリル・ストリープ/レネー・ゼルヴィガー/ウィリアム・ハート

シネマ365日 No.2049

今あるものを愛すればいい

タイムレスな女優

メリル・ストリープの映画について書くの、キライだわ。何を書いたところで、褒めれば褒めたで(当たり前のことばっかり書きやがって、アホやの)、クサしたらクサしたで(そんな程度しか彼女の演技から読み取れんのか、アホやの)つまり、どう書いたところで限りなく書き手がアホに見える女優なのね。本作なんか圧巻よ。そらね、オスカーを取った強制収容所で子供を奪われた母親とか、イギリス宰相もすごかったですよ、でもメリル特有の透明感をこの映画はひときわ鮮やかに放っているわ。他に書きようがないから「透明感」っていうのだけど、幽霊やお化けがス〜となんでも通り抜ける、あの透明感のことです。よく「成りきり女優」とか「カメレオン女優」とかいわれるけど、メリルの場合「成り代わり」だとわたし、思っています。女優が演じているのではなく、その役がメリルという女優の肉体を借りて地上を歩いているような気がするのです▼本作が映画化されると決まったとき、すぐメリルとレネー・ゼルヴィガーからオファーがあったとプロデューサーは明かしています。このふたり、気合入っていたのね。エレン(レネー・ゼルヴィガー)は、ガンだとわかった母親の看病のため、ニューヨークからニュージャージーの自宅に戻ってきた。父親は大学教授で作家だ。エレンは子供の頃から父親を尊敬し、家庭だけが居場所である平凡な母親を見て(ああいう生き方だけはしたくない)と心に決めていた。しかしその尊敬する父親は、弟は大学で勉学の途中だ、俺は講義で時間が取れない、だから看病に時間が取れるのはお前しかいないと、娘に丸投げする。このオヤジ、どうにも好きになれないのよ。エレンは、自分ではいい娘じゃない、母親に冷たい娘だと自責の念があるのだけど、そんなことないですよ、病院の付き添い、日常の看病、薬の投薬、あれこれ頼みごとをする母親に、気持ちよく返事してよく頑張っている。主婦業を代行して初めて家事の大変さがわかったこともあるわね。取材途中の記事を追いきれなくて、新聞社はクビになってしまうが、母親には不機嫌な顔ひとつ見せない。でもあんまり人任せのオヤジにたまりかねて「パパ、講義の時間少し減らせない? ママのそばにもっといて欲しいの」と一言頼めば「俺には仕事がある」おお、そうかい、そうかい、娘の仕事なら休ませて、クビになってもいいのかよ▼オヤジが朝早く家を出て夜中まで帰ってこないのは仕事ばかりじゃない、助手との浮気だともっぱら大学での噂。それに加えて重篤な病人のいる家に帰りたくないのだ。逃げ回っているのである。底力を発揮するのはママである。死が近いことを知っている。激痛が襲う。こんな姿で生きていたくないと当たり散らしもする。父親は浮気しているかもしれない、それとなく愚痴った娘にママはいう。「パパが完璧じゃないから、理想と違ったから? パパのことでママが知らないことは何もないわ。あなたよりよくパパを知っている。長く結婚すると譲歩を覚えるの。結婚前は考えられなかったことよ。あれもこれも耐えられないと若い頃は思うけれど、時間が変えるの。何千という夜を共にして」▼ママの独白は続く「死ぬ前にいわせて。話しておきたいの。聞くのが辛くても遮らないで。人を許さず裁こうとしたら、人生はメチャクチャになる。今はまだわからないわね。10年後にいいたかった。悲しいの、あなたの結婚式を仕切れないことが。付き添い役は子供にさせないで。じっとしていないから。あなたが幸せになるとわかればいま死んでもいいのに。幸せになるのは簡単なことなのよ。今あるものを愛すればいい。なくしたものを求めることをやめたら、人生は穏やかになる」普遍の母親像をメリルは凝縮しています。「愛している」とママ。「わたしもよ」とエレン。「知っている。わかっていたわ」。朝、様子を見に部屋に入った父親がみたものは、母親は娘の手を握ったまま息を引き取り、娘は母親の息が止まっても手を離さないでいる姿だった。死因はモルヒネの過剰摂取だった。娘は父親が母親の希望を叶えたのだと、父親は娘が母親に乞われて下した判断だと思っていた。どちらでもなかったとわかり、母親が自死を選んだのだと判明する。クリスマスの夜、母親を車椅子に乗せ、地元のイベントに行く。メリー・クリスマス。雪のつもった街はイルミネーションと祝福の声で明るい。自治会の世話役としての功労賞が発表され、ママと娘はめでたく表彰される。最前列にいるパパに弟。弟はケンブリッジから帰ってきた。家族そろって過ごすクリスマスはこれが最期だと知っている。涙ぐんで自分を見つめる、子供のときと同じ息子の目にママはやさしく微笑みを返す。泣いちゃいましたね。

 

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