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特集「偏愛力」

2017年3月12日

特集「偏愛力1」② ペニー・ドレッドフル2 
ナイトメア〜血塗られた秘密〜(中)(2014年 ホラー映画)

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企画製作総指揮=ジョン・ローガン/ピッパ・ハリス/サム・メンデス

出演 エヴァ・グリーン/ジョシュ・ハートネット/ティモシー・ダルトン

シネマ365日 No.2052

利己的な遺伝子

偏愛力

ヒロインのヴァネッサを筆頭に、この映画ではいわゆる人好きのする登場人物はいません。マルコム卿(ティモシー・ダルトン)は、高名な探検家だが家は開けっ放し。家族の犠牲の上に築いた名声だと娘も息子も妻も恨んでいた。ヴァネッサが抱える精神の闇と光の相克は、もともと誰の心にもあるものですが、ヴァネッサ自身の肉体が、まるでパワースポットのような強い磁場となっているため、悪魔と天使の霊感のせめぎ合いに苦しみます。フランケンシュタイン博士は天才だが、彼が医学の進歩のためと信じた死者の蘇生は神への冒涜である。アメリカから来たイーサン(ジョシュ・ハートネット)は、満月の夜は狼男に変身し人間や動物を屠り、生肉を食らう怪物だ。フランケンシュタインの作り出した人造人間(劇中クリーチャーと呼ばれる)は、縫合跡の残る醜い顔のため人前に出ることを避け、暗闇に潜んで生きることを選ぶが、一度怒りを発すると、彼を見世物にしようとした蝋人形館の主人をひねり殺す怪力を秘めている。ドリアン・グレイは不老不死の肉体と美貌を武器に、バイセクシャルの異端児として社交界に君臨する。美しい男同士の、過激なセックスシーンは壮観▼一言でいえば、主人公たちは普通の社会では、はばかられるような人種なのである。美味しい食べ物、家庭的な料理、暖かく明るい日光、可愛らしい子犬や子猫、わたしたちをポジティブな感情で包み、多幸感を与えてくれるそれらに、この映画と人物はとんと縁がない。ヴァネッサを可愛がった師匠の切り女は彼女をなんと呼んだか。「わたしの可愛いサソリ」である。以来ヴァネッサは念力を集中させて魔女と悪魔に対決するとき、必ず我が血糊でサソリを描く。一言でいうなら、彼らは自己の関心追求のためには家族を顧みないエゴイスト、獣人にして殺人狂、天才にして狂人、霊能者にして悪魔の子を生さんとする女性、ということになる。アブノーマルな人間ばかりがその力ゆえ、地獄の悪と対抗できる、この映画はそう設定しています。彼らは生まれ持った能力ゆえに孤独だ。妻にも子供たちにもマルコム卿は理解されず、その物足りなさゆえかどうか、魔女カーリーの甘い言葉と蜜のような体にころりと参り、肉体関係を結び、彼を助けに来るに違いないヴァネッサをおびき寄せるエサにされてしまう。ドリアンこそ何不足ない貴族の青年だが、彼の秘密ゆえ誰にも心を開かない。秘密とは、年をとるのは肖像画のドリアンであって現実の彼ではない。ドリアンが罪を重ねるたび、肖像画は醜怪になっていき、見るも無残な自画像を眺め、不敵な微笑を浮かべる。ケッ、お前はそこで勝手に年取っとれって感じ。クリーチャーは創造主フランケンシュタインに反逆し、誰もこない北海の氷の果てに逃避する。イーサンは狼男の本性を隠したまま、アメリカに強制送還される。センベーヌは自ら犠牲を求めるイーサンの牙にかかって死ぬ。なぜならイーサンはヴェネッサを助ける使命があり、人間にはない力がある非凡な存在だが、自分は普通の人間だからという、雄々しい自己犠牲なのだ▼極端にいえば、彼らは幸福にノーマルに生きる人間からすれば、嫌悪というのが言い過ぎなら、少なくとも回避したい存在である。彼らは決して人を安らかにも和やかにもしない、温かい家庭や家族とは縁のない、冷たいエゴイスティックな、自分だけの世界でしか生きられない種族だ。彼らと関わればろくな目を見ない。彼らが住むのもまた暗いサタンの星。だからこの映画は、登場人物たちに名前をつけ、性別を与え、役割を割り振っているが、彼らは文学史上に登場した最も有名にして、古今の時代の汎愛を得た人物たちの物語、なべての人間が個々に持つ内なる世界の物語なのである。「利己的な遺伝子」とは、自分たちの遺伝系統を未来の世代にできるだけ多く残すことが目的であるはずだ。複雑怪奇な物語と人物が整然と融合するこの映画のやっていることは、人間の内なる世界を暴き、対立させ、葛藤を嬉々として描いたこと。すなわちホモ・ルーデンスの利己的な遺伝子を遊び心に結集させた、偏愛と知性に満ちた映画なのだ。

 

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