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シネマ365日

2017年3月15日

特集「偏愛力1」⑤ 
世にも怪奇な物語(下)(1969年 ホラー映画)

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監督 ロジェ・バヴァデム/ルイ・マル/フェデリコ・フェリーニ

出演 ジェーン・フォンダ/ピーター・フォンダ/アラン・ドロン/ブリジット・バルドー/テレンス・スタンプ

シネマ365日 No.2055

アーティストの偏愛

偏愛力

さてアラン・ドロンです。ポーの原作「影を殺した男」に、共演はブリジット・バルドーという、この世の贅を尽くしても尽くしきれない男が、ぬけぬけと主演を張る。これだけでも、何かを書こうとして書ききれるか、苦々しくなる(笑)。主人公のウィリアム・ウィルソンとは、アラン・ドロンが飛びつきそうな、彼の大好きなキャラです。狡猾にしてサディスト、美貌を武器に博打に女、手当たり次第になぎ倒し、削げた頬に冷たい微笑をニヤリ。アラン・ドロンの30代といえば1960年代。映画の黄金時代と自らの絶頂期を同じくした幸運な男が彼です▼この物語はドッペルゲンガーである、もう一人の自分にウィリアムが追い込まれていくお話。監督はルイ・マルです。彼は、ホラーにしてホラーではないとびきりのセンスで、仮面の男の幻視感を際立てます。冷酷なウィリアムは寄宿学校で、自分と正反対の性格のウィリアムと出会う。彼はウィリアムの傲慢な不正や、挙動を許さず、いつもその場に現れ、彼の本性を暴き立てる。ウィリアムは次第に「そっくりウィリアム」が疎ましく、いちいち小うるさく、しかし正しい指摘にイライラさせられる。士官となったウィリアムは、カジノで出会った美しいジュゼビーナ(ブリジット・バルドー)とカードの勝負をする。バルドーが黒髪の魔女ふうムードで登場します。彼女は34歳。引退の5年前にあたります。肉食獣のような目が炯炯と光を放っています。勝負は夜を徹して夜明けの6時に及び、ウィリアムが勝ったり、ジュゼビーナが勝ったり、伯仲してケリがつきません。最後の一発勝負といこう、とウィリアムが提案する▼ジュゼビーナが負けます。負けたらいいなりになるのが条件だ。「どこで?」と訊くジュゼビーナに、ウィリアムは酷薄な微笑を浮かべ「ここで、今」。ビリビリとジュゼビーナのドレスの背中を破り、衆人環視の中で鞭打つ。白い背中に血の筋が何本も滲み部下に鞭を渡す。打つのではなく好きにしろという冷酷な指示。そこへ「彼の言うことを聞く必要はない」音もなく姿を現した「そっくりウィリアム」。彼は「本物ウィリアム」のイカサマを暴き、怒り狂った「本物」は「そっくり」をナイフで刺し殺してしまう▼ウィリアムは教会に駆け込み、牧師に救いを求めるが牧師も話半分にしか聞かない。ウィリアムは塔の頂上に駆け上り飛び降りる。墜落死した彼の腹部にはナイフが突き刺さっていた。ありうべからざる現象を現実と信じて書く、あるいは信じるから書けたのがポーでした。彼にとって説明がつくとか、つかないとか、データの照合とかどうでもよろしい。彼の怪奇と幻想への偏愛は現実の外を飛翔している。もうひとつ、三話とも俳優が適任適役であることを思うと、ひとえに監督の思い入れの深さを感じるのです。当時の映画界男女優のトップクラスが姸を競って出演している。彼らをウンと言わせるだけの監督でもあったのです。これら一流のアーティストが捧げたリスペクトは、はたしてポーだけへのものでしょうか。人間だけが描ける幻想という、魂の劇に捧げられたそれだと私には思えます。

 

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