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シネマ365日

2017年3月24日

特集「偏愛力1」⑭ 
迷宮の女(下)(2005年 ミステリー映画)

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監督 ルネ・マンゾール

出演 シルビー・テステュー/ランベール・ウィルソン

シネマ365日 No.2064

「女」にやられました。 

偏愛力

クロードが発見されたとき10歳だった。ほぼ一ヶ月絶食が続き鎖で繋がれ意識がなかった。背中は傷だらけ。危険な状態だった。そばに人骨が散らばっていた。流れ者に犯された母親は、クロードの中に自分を犯した男の姿を見て、愛憎半ばし虐待しながら育てた。抱擁することも添い寝することもなかった。メルヘンを読み聞かせることも、子守唄を歌ってやることもなかった。クロードは生まれただけで恨まれた子だった。守ってくれる人がそばにだれもいない場所で、獣のように育ったのです。母親の乳房さえ知らない。母親は今から2年前、独房で自殺した。クロードとギリシャ神話のミノタウロスに共通項があった。ミノタウロスは強姦されて生まれた牛の頭をした子供である。クロードは子供の頃、母親からの虐待を受けながら、孤独な妄想の中で親しんだ、ミノタウロスの神話に従って生贄を求め、殺戮を繰り返し、死体は地下の下水道に遺棄していたのだ▼事件を捜査するマチアスに、どこからか過去の声が聞こえる。逃れるため娼婦の元に行くが、何もしない。ブレナックは再びクロードの治療のために病院に戻った。カール院長の謎解きは核心に迫りつつある。クロードの迷宮に入るためには、クロード自身の記憶の中に入りこまねばならない。この世に産み落とされたという、自分が犯してもいない罪で、モンスターになってしまった人物がクロードだった。クロードはベッドに横たわった。カール院長がいう。「君はもう直ぐ眠りに落ちる…今、どこにいる?」「地下の物置」「ママは?」「誰かがいじめている」「ママは誰といる?」「怪物とだよ!」院長の誘導によって、クロードは記憶の中に押し込めてきた過去を引きずり出した。自分が密閉され、獣のように扱われたのは「ママに背いた罰なんだ。許して!」クロードは絶叫する。院長は叫んだ。「もういい、クロード、息を吸え、大丈夫だ、すべて終わったんだ!」ベッドでのたうちながら催眠から覚めたクロードは、シルビー・テステューではなくランベール・ウィルソンです。クロード・マチアス・ブレナックは同一人物でした。パリ警察の捜査官であり、精神科医であり、患者という三者が一人の人格の中にいました。多重人格モノでは、別々の人格を一人の俳優が巧みに演じ分ける方法がよくとられていましたが、本作では別の役者が個々に分裂した人格を演じています。特にクロードを一人で演じたシルビーのモノセクシュアルな存在が、この映画のエンジンとなりました。「迷宮の女」なんて、てっきり主人公は「女」だと思いましたが、見事にやられました▼監督はあちこちに謎解きのヒントを与えています。捜査の最初の手がかりになった防犯ビデオには、クロードが映っていることは、観客は先刻承知です。彼女がフードつきのジャケットを着て銃を買いに行った、そこで店主を射殺した、死体を引きずったおびただしい血の跡がある、然るにビデオには顔がぼやけて判明でできないのです。映っていたとしたらそれは男だからわからせるわけにはいかない(笑)。シルビーはカロリーヌ・リンク監督と組んだ「ビヨンド・サイレンス」でドイツ映画賞最優秀女優賞。同じくリンク監督の「点子ちゃんとアントン」で、住み込みでありながらどことなく、ヤサグレの風情を漂わせる家庭教師に扮しました。不良っぽいセンセイなのに、彼女が辞めると聞いて点子ちゃんは泣いて止める、そんなキャラです。出番は少なかったのですが、彼女がスクリーンに現れると、その場の関心が彼女に吸い込まれてしまうような女優でした。

 

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