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特集「偏愛力」

2017年3月25日

特集「偏愛力1」⑮ 
フランキー&アリス(2014年 事実に基づく映画)

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監督 ジェフリー・サックス

出演 ハル・ベリー/ステラン・スカルスガルド

シネマ365日 No.2065

闇を抱えて生きる 

偏愛力

「迷宮の女」に続いて女性の多重人格モノです。ドラマチックだった「迷宮の…」とは、真逆の作り方で、淡々とした叙述で構成されます。ドキュメンタリーといったほうが近い。主演のハル・ベリーはプロデュースも手掛け、10年間この企画を温め実現にこぎつけました。製作の意図を、彼女の母親が35年以上精神病院に勤務し、精神病を抱えた人々を身近に見て成長したこと、本作が実話に基づいていること、今でこそ多重人格の研究は進みましたが、1970年代初頭にあって、多重人格とか、解離性同一障害とかいう症状が明らかにされなかった時代、自分が「乗っ取られる」恐怖など誰も信じなかったこと、しかも三人の別人が一人の体に同居する複雑な関係を、解きほぐす手法など手探りでしかなかったこと、狂気とすれすれのところで正気に踏みとどまっているフランキー。でも彼女はまだ治療途中。人生のほとんどを病気と向き合わねばならない長い旅路に、勇気を持って踏み出したヒロインに強く共感したことを、ハル・ベリーが語っています。100分という短めの尺ですが充実していました▼1973年、ロスアンゼルスの売れっ子のストリッパー、フランキーは、エキゾチックで頭が良く、店の女の子たちから好かれていた。しかし彼女には記憶にない出来事が自分に起こっているという、人に言えない悩みがあった。楽屋の新聞のクロスワード・パズルが、知らないうちに解けていたときも、何も覚えていない▼傷害事件を起こし、緊急入院させられたフランキーを、たまたま担当したのがオズワルド医師。これが幸運でした。他の医師はドラッグか、アルコール依存症程度で処理しようとしたフランキーの症状を、オズ医師は解離性同一障害と見抜きます。実際に患者を見たこともない医師たちは否定的でしたが、研究対象として、オズはフランキーを担当します。ヒアリングは困難を極め、雲をつかむようなあやふやな話から、オズは何度も出てくる単語をつなぎ合わせ、フランキーの中に黒人のストリッパー、IQ145の天才、正体はわからないがアリスと呼ぶ女性がいることがわかります。母親の家にも行きましたが、具体的な事情は聞けませんでした。フランキーは親孝行で母親に心配をかけまいとするやさしい娘でしたが、妹にはかえってそれが不自然に見えているようでした▼アリスとは白人の人格を持つ、セレブ志向の人種差別主義者でした。なぜこんな、フランキーとは正反対の人格が現れたのか理由があるはず。治療中度々人格が入れ替わるにつれ、フランキーの中でアリスの存在が大きくなっていきます。これは具合が悪い。黒人のフランキーが、黒人に向かって侮蔑的な言動で接したとすれば、殺されるかもしれません。オズは根気よく、嫌がるフランキーを説得し、治療への二人三脚を始めました。催眠術で明らかになったのは、フランキーの生まれはジョージア州。南部の人種偏見の強い地域です。セレブの家のメイドとなったフランキーは息子と恋仲になる。ドライブ中の衝突事故で息子は死亡、フランキーは妊娠したまま追い出された。やがて出産、取り上げた母親は赤ん坊を殺してしまう…「赤ん坊の名前は?」それが「アリス」でした。アリスには恋人との愛の証と母親の虐待が重なっていました▼実際に母親が手を下したのかどうかは、明らかにされません。フランキーはそう信じている。黒人が父親のいない、しかも相手は白人だった子を産んで、幸福で円満な家庭が持てるはずがない、母親がそう信じていても無理はなかった。「天才」に関しては触れられていません。フランキーのトラウマが明らかになり、今後も人格の入れ替わりは生じるが、徐々にフランキーが「いま、アリスと話していた」と自覚が現れるようになり、オズ医師は治療が効果を生んでいると確信します。オズ医師は2005年に亡くなり、フランキーは精神科医と結婚しました。その後には触れられていませんが、治療が進めば他人格の出現は間遠になっていくでしょう。それ以上誰にもわからない。下手に同情せず、闇と不安を抱えたまま生きていくフランキーを、突き放した「エンド」がよかった。

 

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