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特集「偏愛力」

2017年3月30日

特集「偏愛力1」⑳ 
家族の灯り(下) (2014年 家族映画)

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監督 マノエル・ド・オリヴェイラ

出演 ミシェル・ロンズデール/クラウディア・カルディナーレ/レオノール・シルヴェイラ/ジャンヌ・モロー

シネマ365日 No.2070

暗いけれど前向き

偏愛力

原作は舞台劇です。そのせいか映画化されても一言、一言のセリフが非常に鋭い。この映画では窓が重要な役割を果たします。冒頭、ヒロインが窓から黄昏の街路を眺めている。街灯に男が灯を入れに来る。ヒロインが外に出た場所から部屋の中を眺める。窓ガラスに女の顔が浮かぶ。窓一つを隔てて家族の内と外が区切られています。窓の外は開かれた世界。窓の内側は貧しい家族の希望のない世界。内側を代表するのが母親のドロテア(クラウディア・カルデナーレ)。夫のジェボ(マイケル・ロンズデール)は、しがない帳簿係。嫁のソフィア(レオノール・シルヴェイラ)は、どうしようもない閉塞感の中で暮らしている▼それというのも彼らの息子ジョアンが、8年間失踪したままなのだ。ドロテアは夫に毎日息子の情報を聞かなかったか尋ね、嘆きをぶつける。夫は嫁に「事実を言うな、本当のことを知ったら妻は死んでしまう」と口止めする。途切れ途切れの会話で、息子は最近町に帰ってきており、父親に金を無心していることがわかる。彼は泥棒で刑務所に入っていたのだ。その息子が帰ってきてこの家には夢もない、金もない、パパは負け犬だと言いたい放題いう。シーンはほとんどが部屋の一室、一つの灯りの下にテーブルがあり、カメラは定位置から動かない。背景に光は届かず、レンブラントの絵のように塗り込められている。浮かんでいるのは貧しさから抜け出せない人生だ。妻は夫が、嫁ばかり可愛がり息子を心配もしないと責める。「友人たちは出世したのに、あなたは会社の帳簿係」。ジェボは言い返す。「何が悪い。俺は誠実に生きてきた」「何も起こらない人生よ」「それこそが幸福だ。常に変わらない仕事をして、同じ言葉を発する。雨みたいに何も考えない」「私には無理。きっと墓に入っても考え続けるわ」▼母親は貧困に苦しみ人生を卑下する。嫁は問いかける。「もう私たちは他の人生を歩めないのかしら」。重苦しい時間を救うように近所の友人がいつものようにコーヒーを飲みに来る。これがジャンヌ・モローだ。とりとめのない話をする。ジャンヌ・モローがカルディナーレと並び、笑いあうシーンには「どんな人生もいいことはあるのよ」と言って聞かせているみたいな、生命力と女の底力を感じさせる。そこへ息子が帰ってきた。彼は家族を、特に父を攻撃し負け犬と呼び、妻には「家の金を持って逃げよう」というのだ。「かわいそうな人」と妻が言うと「かわいそうなのは君たちだ。穴蔵で毎日同じことの繰り返し。他にも生き方はあるのに何もしない。死んだほうがマシだ。ついて来い」。妻はきっぱり「あなたは災いの元凶よ」夫は家の金を盗み逃走する。翌日警察が来た。近所に泥棒が入り、盗みを働いた。心当たりはないか。被害者は口々に「こいつだ、こいつだ」とジェボを指差す。ジェボは息子をかばっていう「私が盗みました」。この家が暗いのは貧乏なだけじゃない、ダメ息子に愚痴っぽい妻、ジョボは妻に「一体どうなれば満足なのだ」と尋ねたことがある。ジョボの救いは嫁のソフィアと心が通うことだ。それも妻は気に入らない。トラブルと不和に無理解、失望と貧しさと出口のない家で、出世もせず金儲けも知らないが、現状に屈せず、ひたすら誠実に生きる男の信念を、オリヴェイラは静かに讃えています。暗いけれど、これは前向きな映画です。

 

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