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シネマ365日

2017年4月4日

特集「菜の花の匂うベストコレクション」④ 
ローマに消えた男(2015年 社会派映画)

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監督 ロベルト・アンド

出演 トニー・セルヴィッロ/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ

シネマ365日 No.2075

いなくなったのよ!

菜の花の匂うベストコレクション

ロベルト・アンド監督の前作「そしてデブノーの森へ」を見たけど、アナ・ムグラリスは「背骨まできれいなあ」と思ったことくらいしか覚えていなかった。だから全然期待せずに本作を見たのだけど、うって変わった佳品だった。ロマンティシズム溢れる作風はそのままで、今度は双子が主人公でしょう、だから、まさかこれ、妄想オチじゃないだろうなって、最初に勘ぐってしまったわよ。イタリア政界最大野党の書記長エンリコ(トニ・セルヴィッロ)が、在籍25年、積年の激務と疲労ゆえのストレス満杯、選挙の決戦を前に行方をくらましてしまうのよ。充電期間が欲しいってやつね。で、本人はパリにいる元恋人ダニエル(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)の家に匿ってもらう。ダニエルは旦那も娘もいるが、疲れ切ったエンリコの様子に、わけをほじくらず、好きなだけ居候させてやる。旦那も娘もダニエルのやることにイヤな顔ひとつしない。よくできたご家族ね▼エンリコの演説中とばされたヤジは「党をダメにしたのはお前だ、お前がいるかぎり勝ち目はない!」まあ一度や二度、トップは誰でも言われますけどね。でも逃げていく先が元恋人なんて、ね〜。奥さんのアンナにも行く先を告げない。部下のアンドレアは右往左往、党首が雲隠れしたなんて、敵陣営に知れたら政治生命は終わりだ。アンドレアが職務に忠実な、実にいい男です。アンナと二人、危機を乗り越える方便は、急病か、事故か、知恵を絞る。アンナは「ジョバンニに会ってみたら」と策を授ける。25年来会っていない、エンリコの双子の弟だ▼はてね、と思わない?決戦前に蒸発してしまうヤワな神経で、よく最大野党の書記長が務まったわね。今まで幸運の連続だったのね、きっと。大統領とも仲良しみたいだし。それに行き先が元恋人だというのも、こういう甘いところが、やっぱりロベルト・アンドだわ。最初から優柔不断なエンリコにモヤモヤがつきまとう。それを一掃してくれるのがジョバンニの登場です。精神を患い長期入院の後、今は大学の哲学教授である。アンドレアが彼について知り得た情報は「退院後は無害。天才児。映画マニア。突然の政治熱」。藁にもすがる思いでアンドレアがアパートを訪ねると、ジョバンニは古本の中でひっそりと世捨て人のように暮らしていた。エンリコが行方不明で困っていると話すと「彼は本当の自分でいたためしがない」…アンドレアはジョバンニをレストランに連れてくる。新聞記者がいてジョバンニを兄貴と間違え、インタビューを申し込んだ。ジョバンニは悠々と受けて立ち、慌てず騒がず、持論をぶつ。それを聞いていたアンドレアは思わず「私が投票したいのはあなたのような人だ!」▼どこへ行ってもジョバンニの演説はハツラツとして、格調高く詩心に溢れ国民の琴線に触れた。敵陣営は「あの弱ったイワシが一晩で人食いザメに?信じんぞ!」でも支持率はうなぎ昇り、群衆を酔わす「エンリコ」の演説がパリの新聞の一面を飾る。本物のエンリコはダニエルの夫の映画製作を手伝ったり、アバンチュールしたり、ダニエルともきわどいことになりそうだったり、けっこう調子いいのである。イタリア男ってこういうものなの。古い写真があり、ダニエルを真ん中に左にエンリコ、右がジョバンニ。ダニエルがエンリコに言うには「私はあなたの右目と、ジョバンニの左目を愛したの」双子の兄弟は同時にダニエルを愛し、ダニエルが選んだのはエンリコで、弟をそれが傷となって心を病んだのだと思える。映画はイケイケどんどん、ジョバンニの快進撃が続くのだ。ジョバンニは休暇でアンナと海辺に来た。アンナもジョバンニが好きになった。夫とちがいアタマが柔らかく、話しやすくて朗らかだ。気持ちが解きほぐれる。どうしてこんなやさしい人を知らなかったのだろう。海岸を歩きながら思わずアンナはジョバンニにキスした▼翌朝、アンドレアはアンナからの緊急報告を受けた。「ジョバンニがいなくなったのよ!」全く人騒がせな兄弟だわね〜。ジョバンニはその前に兄貴から電話を受けていた。「わたしだ、ジョバンニ、元気か」兄だとわかったとたん、ジョバンニは電話を切った。話すことはなかった。この辺りに兄弟の確執の深さがうかがえる。エンリコは帰ってくる、自分の役割は終わった…ジョバンニの最後の宴説はサンジョバンニ広場を埋め尽くした群衆の前だった。ブレヒトの詩を引用した彼の政見表明に群衆は狂喜した。「君に必要なのは誰の答えでもない、君自身の答えだ」と。エンリコは復帰しジョバンニは消えた。「デブノー…」もそうだったけど、アンド監督は消えたり現れたりする主人公が好きね。どっちかが現れたらどっちかが消えないといけない。二人で一人という相互依存の関係はよくありますね。特に双子だと子供の時から「どっちがどっちかよく分からない」なんていわれ慣れていただろうし、ジョバンニとエンリコも交代することにそう違和感はなかったに違いない。ジョバンニにせよ、エンリコにせよ、現実に適応するのが辛くなる時がある繊細な感性です。だから兄は仮面をかぶり「自分であったためしがない」と見せかけ、弟は大学に引きこもったのね。颯爽と登場し、何もいわず、何も残さず姿を消すジョバンニの退場が、哀切だったわ。孤独で純粋で潔い。アンナがジョバンニに惹かれたのがわかる。

 

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