女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss
  • ブックマーク

特集「菜の花の匂うベストコレクション」

2017年4月6日

特集「菜の花の匂うベストコレクション」⑥ 
モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由(2017年 恋愛映画)

Pocket
LINEで送る

監督 マイウェン

出演 エマニュエル・ベルコ/ヴァンサン・カッセル/ルイ・ガレル

シネマ365日 No.2077

膝の痛み

菜の花の匂うベストコレクション

マイウェンにエマニュエル・ベルコといえば、自分たちで脚本を書き、監督して主役もやり、撮りたい映画だけ撮って高い評価を得るという無敵の女ふたり(笑)。本作はマイウェンが監督・脚本、ベルコが主演。他には「パリ警視庁未成年保護部隊」がマイウェンの監督、ベルコの脚本、「太陽のめざめ」はベルコの監督・脚本。マイウェンが女優として出演したのに何を隠そう、「ハイテンション」があります。滑っても転んでもエレガンスが要求されるフランス映画界にあって、腰を抜かすようなえげつない、血潮ぶっ飛ぶ、フレンチ・ホラーの新機軸を作った映画です。監督が長編第一作デビューだったアレクサンドル・アジャ。マイウェイは共演のセシル・ド・フランスと共に、全身血糊で真っ赤、鎖で縛り上げられ、上映時間のほとんどがサルグツワのシーンで、ひたすら呻いていました(笑)▼ふたりの映画作りには共通項があります。まず「時の流れを静かに見つめる視点」そして「人生が際限なく作り出す混沌」の中から、自分のエキスを抽出し自分なりのキーワードに昇華させる。本作でも10年という時間を遡り、ヒロイン、トニー(エマニュエル・ベルコ)は元夫、一子をもうけ、別れたものの、くっついたり離れたり、この先どうなるかさえあやふやに見えるジョルジオ(ヴァンサン・カッセル)との関係を見つめなおす、そんな視点で映画は始まります。トニーは弁護士です。そういう女性が、なんでこんなヘンタイに引っかかったのかと思うほど、ジョルジオというのは大変な男である。捉えどころがない。自分勝手で開き直りが上手で、なんでも人のせいにする。詐欺師かペテン師か、いつも塀の上を歩いている男だと思ってちょうどだ。そんなやつにトニーがころりと参り、散々泣き、よりを戻しては喧嘩してまた離れ、男に泣きつかれてまたベッドイン、際限もなく元の黙阿弥を多分これからも繰り返すだろうと思えるなんて、どうも腑に落ちないところはあるのだけど、ヴァンサン・カッセルが、高学歴な女性がころりと参りやすい甘え上手な野蛮人、というキャラをケレン味なく演じます。彼にいやらしさ満開のろくでなし男をやらせたらサイコーですね▼上がり下がりの激しいグラフのような生活ではなく、安定した平穏な暮らしがいいという妻トニーに変化のない一定した心電図は死を表すと夫(ジョルジオ)は言うのだから、どこまで行っても平行線です。離婚してと、妻が頼むと「君が俺と結婚したがったのだ、俺が図書館にはいないタイプの男だったから、始めから計画的だったのだろう」。結婚したら早々と部屋を借りて別居。愛人アニエスを認めさせ、こうくる「自分を押し付けるなよ。俺が俺だから惹かれたのだろ。受け入れろよ。誰の指図も俺は受けない」。トニーの弟が姉思いのいいやつで「あいつはゴロツキだ。なぜ別れない」と詰め寄るが姉は優柔不断。こんな女性、案外いますよ。しっかりした女性に限ってダダっ子みたいなムチャクチャを言う男に弱いのです。まさか「モン・ロワ(わたしの王様)」ってジョルジオのことじゃないでしょうね。でもね〜、ラストシーンでさっさと出て行くジョルジオの後ろ姿を追う、トニーのやりきれなさそうな目は未練たっぷりね。かわいそうだたア、惚れたってことよ▼愛の正体や証拠なんかもともとあるものじゃない、変化する関係の中で捉えなおしていく、それが正しい現実のあり方だ。だからマイウェンやベルコの映画には「時の経過」が必要なのです。冒頭、スキーで右膝の前十字靭帯を損傷したトニーが「スピードを出しすぎて板がクロスした」と理由を説明します。医師がしつこく訊きます。「なぜクロスしたの?なぜスピードを出しすぎたの?」戸惑うトニーに「ヒ・ザ」をゆっくり発音してみて、と頼む。「ジュヌー」と口にしたトニーに「ジュ・ヌー(私・私たち)よ」と医師はいい心理学のテキストを引用します。「膝は後ろにのみ屈折する関節で、諦めや譲歩と密接な関係がある。膝の痛みは現状を否定する心理と連動する。治癒においても同じ心理的道筋をたどる」。トニーの頬にいつの間にか涙が流れる。医師はやさしく訊く。「何かあったの?」そう、あったことがこの映画になっています。

 

Pocket
LINEで送る