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特集「菜の花の匂うベストコレクション」

2017年4月7日

特集「菜の花の匂うベストコレクション」⑦ 
ロンリーハート(2007年 事実に基づく映画)

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監督 トッド・ロビンソン

出演 ジョン・トラボルタ/サルマ・ハエック/ジャレッド・レト/ジェームズ・ガンドルフィーニ

シネマ365日 No.2078

サルマ・ハエックに

菜の花の匂うベストコレクション

ふたりの結婚詐欺師が主人公といえば、コメディかクライムかになりそうだが、どっちでもなくひたすらシリアスなのは、マーサ(サルマ・ハエック)とレイモンド(ジャレッド・レト)の狂った愛が、水脈でわたしたち自身と繋がっている、そう感じさせる近似性ゆえだろう。もっとはっきりいうなら、マーサの独占欲、レイモンドのご都合主義は、われわれが必要に応じて世間に小出しにしているものを彼らは職業としてしまったのだ。残酷非道な手口である。生まれる子供が女の子なら「マーサ」と名付ける、それほど自分にやさしい女性をマーサは殺してしまう。理由はレイモンドが彼女を愛している素振りを見せたからだ。サルマ・ハエックは自分の精神世界が狂気に占められながら、「でもレイモンドを愛している」それだけが狂気と正気の接点だった女をとんがって演じた。こういう愛し方しかできないならば、それはそれで認めるしかない、誰も認めないのはわかっているが、自分だけは自分の正気を認めてやる。彼女の狂った孤独な愛こそが「ロンリーハート」であり、自分の狂気と心中した彼女に、流砂の中の一粒の砂金のような「純粋」を感じてしまうのはわたしだけか▼時代は1940年代のアメリカ。結婚詐欺師のレイモンドは新聞の恋人募集欄「ロンリーハート・クラブ」で獲物を物色する。狙うのは戦争未亡人、中年の独身女性。マーサと出会うが彼女は裕福でもなく年老いた母親を抱える看護師だった。しかしマーサに急場を救われてからレイモンドは急接近。マーサはレイモンドの妹になりすまし、結婚詐欺を仕掛けるようになる。言葉たくみにレイモンドがデートの場所に現れ、それなりの社会的立場を匂わせて女を信用させ、花束を持って弁説爽やかに女の心に入り込んでいく▼映画は刑事のチャールズ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)のナレーションで進んでいく。「焼き殺されても仕方のなかったレイとマーサを極刑にできたのはバスターのおかげだ」バスター(ジョン・トラボルタ)は相棒の刑事である。妻のアニーが原因不明の自殺を遂げた。仕事人間のバスターが家庭を顧みなかったからだろうとチャールズは推測した。以来バスターが捜査にやる気を失い事務職に逃げるようになった。しかしとある自殺事件が起こり、遺書があるから自殺に間違いないという大方の意見を退け、バスターは裏に事件があると信じる。わずかなヒントを手がかりに細い糸を引っ張っていき、たぐり寄せたのがアメリカ犯罪史上の大事件「レイとマーサの結婚詐欺」だった。詐欺の獲物と狙いをつけた女性にレイが近づきすぎると、マーサはムカムカして相手の女性の命を奪う。マーサにとってレイは最愛の男なのだ。こんな男のどこが、といったところでレイを否定する理由にはならない。本作で三度目の映画化であることを考えると、関心の強さがうかがえるテーマなのだ。結婚詐欺に対してか、連続殺人に対してか、狂気の愛に対してか、それらすべてに対してか、とにかく観客は反応するのである▼彼らはコンビを組んだ約2年間のあいだに、100人以上の女性を騙していた、しかも同時並行的に交際は進めていたというから、凄腕に違いない。レイの調子の良さは、ちょっと突っ込んだ質問をすると(例えば何の弁護士ですか)、たちまち馬脚を現すお粗末な男だ。スラリとした外見のよさはあるが、彼が軽佻浮薄な男だと感じ取るのに時間はかからない。しかし、思うのだが、女はそんなレイだから気をゆるして付き合い、ホドのいい世間話にすぎない話題に、深遠な真実を垣間見たような錯覚に陥った。彼は話芸の達人だったのか。うまかったことは確かだ。しかしそれよりもっと大きな根本要因は、女が、相手はたとえ誰でもいい、軽佻浮薄だろうと詐欺師だろうと、自分の話を親身に聞いてくれ、真剣に相槌を打ち、そうだ、あなたはそれでいいのだと認めてくれる男が欲しかった、それに尽きるのである。ことほどさように人は、女は孤独なのだ。怒られるかもしれないが、真理を語る賢い聖人より、堕落した温かい、やさしい犯罪者の方が許せるのである。恐ろしい犯罪者かもしれないけれど「わたしにはいい人だった」と歌にまでなって、何人の女が悪人をゆるしてきただろう。マーサだってレイの正体を知らなかったわけではない。わかりすぎるほどわかっていたが、一言で言えば彼らはお互いにとって「唯一無二」の存在になったのだ。愛というより巡り合った業である。ゆがんでいるかもしれないが嘘はない。そんな女をサルマ・ハエックが冷たい演技で好演した。

 

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